「稀血の女の居場所が分かったぜ、劣鬼」
深い暗闇に包まれた森の中、岩陰を覗き込んだ賢鬼は酷い死臭と無惨に喰い散らかされている人間だって肉片を見るなり顔をしかめ鼻を着物の裾で覆った。
「アァ…戻ッタカァ、賢鬼ィ…ッ」
「腹減ったからって手当たり次第に人間喰うなよ」
骨を割り、肉を引き剥がし、それを乱雑に捕食する生々しい音にやれやれと呆れた様子を見せながら劣鬼の前に移動ししゃがみ込む。硬い筋肉質の肉を見るなり不味そうだと興味なさげに呟いた。
「人を殺せば足がつく。ここらは例の柱の縄張りだと言ったよな?バレたら計画が台無しだぜ」
「稀血ハッ…!!」
「はぁ。オレの話聞けって、ったく」
食べやすい大きさに骨を割りながら捕食を続ける劣鬼がまともに自分の話を聞いたことなど今までに一度もない。聞かないというよりは理解できないのだ。殺しと食欲だけが先行し、知性が著しく退化した鬼。それが劣鬼だった。
「犬を使って正解だった!女は藤の家紋の家の人間だ」
「藤ノ花ハ大嫌イダ!!近ヅケナイ!」
「ばーか。だから誘き寄せんだよ、犬使って」
「上手クイクノカ!絶対稀血ヲ喰エルノカ!?」
口に含んだ肉を鋭い歯で引き剥がしながら、自分はご馳走にありつけるのかと問う劣鬼。この鬼の心配は計画の成功よりも食欲を満たすことである。
「幸い血鬼術をかけた犬に柱は気づいてねぇ」
「ダガ人間ハ操レナイ!!操レタラ早ク喰エタ!」
「理性がある生き物は対象外だっ!仕方ねぇだろ!」
悪びれる様子もなく皮肉を言った劣鬼に舌打ちをするも、賢鬼はすぐに笑みを浮かべククッと赤い眼を鈍く光らせ近づいた獲物を見据えた。
「数は揃ってる…」
「アァ…」
その声を合図に、彼らを取り囲む様にして姿を見せたゆうに五十はいるであろう獣たちが、腹を空かせて喉を不気味に鳴らすのだった。
→
*前次#