幼い頃にした何気ない約束を、彼は十年以上もの間…ほぼ毎日、欠かすことなく守り続けてくれている。思い返してみれば、彼の忍耐力や精神力の強さは人並み外れ過ぎていた様に思う。流石は鬼殺隊の炎柱を担う人物なだけはある。
それは、どんなに風が強い日でも…。
「灯華!花を持参した!」
『き、杏寿郎さん!なぜこの強風の中立っていられるのですか!?』
滝の様に打ちつける雨の日でも…。
「灯華ー!欲しがっていたスイセンだ!」
『なぜ傘を差さないのですか!?風邪を引いてしまいますっ』
「不要だ!俺は風邪を引かない!!」
『え!?』
灼熱の太陽が田園を荒野に変えるような暑さの日でも…。
「灯華!!!今日は良い花を持って来っ…!」
『きゃーっ!!ふ、服を着て下さい杏寿郎さん!』
(上半身だけです。)
轟々と唸る吹雪の日でも…。
「灯華!会いたかったぞ!花だ!」
『ここ数ヶ月で杏寿郎さんが人知を超えたお方に見えるのは私だけでしょうか…』
「ハ、ハ、ハッ!俺には君が女神に見えるがな!」
終いには、鬼との戦いで血まみれになりながらも…。
「灯華…!居るか!帰ったぞ!」
『杏寿郎さんんんっ!?どんな状態ですか!』
「うむ!十二鬼月と戦った!そして勝利したぞ灯華!」
『て、手当をっ!お婆様ーーっ、杏寿郎さんがぁぁっ』
煉獄は、花を持って必ずここに…灯華のところへやって来るのだ。不安をかけないようにと先に寄越してくれた鎹鴉から、彼の無事を聞いた灯華は深々と安堵のため息をついて肩を少しだけ丸めた。
彼は今日も生きている。
私も今日、生き延びられた。
『よかった…。まだ杏寿郎さんのお側に居られる』
悲観的な考えはするなと、煉獄という男の近くにいると思わされる。目を閉じて、澄んだ青空を見上げて今日生きていることを神に感謝するのだ。嬉しくて、切なくて、悲しくて、けれど大切な彼の側にいれることが堪らなく幸せで。
そう考えるだけで流れでそうになる涙を必死に堪え、閉じていた目をゆっくりと開く。すると目の前に、
『えっ…』
純白の美しい百合の花束が、視界いっぱいに映り込んだ。
「体調は良さそうだな!灯華」
『杏、寿郎さん…?』
「今日は君の一番好きな花を持参した!」
気配も、物音も一切聞こえなかったのに、閉じていた目を開けるなり美しい百合の花と煉獄がいた。縁側に座っていた灯華の背後に立ち、腰を若干折り曲げて空を仰いでいた彼女の顔を覗き込む。視界の百合が退かされると、煉獄の優しい笑顔が映り込んだ。
「会いたかったぞ!灯華!」
『…私もです、杏寿郎さん。無事でよかった』
違わない約束をこれからも
*前次#