「灯華さん、兄上の鎹鴉から文が届きましたよ」
『千寿郎くっ…コホコホッコホッ…』
「おねーちゃんだいじょうぶ?くるしい?」
『ッ……平気よ桃葉。ありがとう…』
「…はやく杏寿郎お兄ちゃんかえってくればいいね…」

上半身だけを起こしている灯華の側で、お気に入りの絵本を読み聞かせてもらっていた桃葉が不安な表情を浮かべ俯いた。

『すぐに帰って来ますよ…。その連絡の文でしょうから…』
「灯華さん、少し休んで下さい。桃葉ちゃんは僕が見ています」

二人に歩み寄った千寿郎は桃葉の隣に腰を下ろし、受け取った文を灯華に手渡す。『ありがとう』と、本人はいつもと変わらぬ調子で微笑んでいるのだろうが、その笑みはとても弱々しい。事情を全て知っている千寿郎は幼い桃葉に自分の感情が伝わってしまわぬよう気丈に振る舞う。

「お姉ちゃんひとりにしたらかわいそう…」
「大丈夫だよ。僕たちの姿が見えるように、戸は開けておくから」
『今日は陽が温かいから…縁側で絵本を読んでもらうといいわ…』
「…それなら…。なにかあったらすぐにいってね?」
『ええ。…頼らせてもらうわね。…千寿郎君、ありがとう』
「すぐそこに居ますから、灯華さん」

優しく微笑んだ千寿郎が桃葉の絵本を持ち立ち上がる。自分よりもさらに小さな手を引いて「最初から読もうか」と縁側に座った二人を眺めながら、灯華は安堵の溜息を吐いた。自分が居なくなった未来では、きっと千寿郎が二人を気にかけ成長を見守ってくれるだろうと。
灯華は「桃太郎」を丁寧に読み聞かせる千寿郎の優しい声色に耳を傾けながら、ゆっくりと目を閉じ眠りについた。



「禰豆子、どうした?」
「んー」
「何か見つけたのか?」

たて続いた任務で疲弊した体を治療するため、炭治郎たちは今、那田蜘蛛山近辺にある藤の花の家紋の家で休息を取っていた。月明かりの下、日中出歩くことのできない禰豆子が広い屋敷を散策するため動き出す。迷惑をかけてはいけないからと、無邪気な妹のあとを着いて歩いていた炭治郎が開いた障子戸の前で中を指差している禰豆子の隣に立ち首を傾げながら視線を向けた。すると…。

「わあっ…、綺麗な生花だ。禰豆子、近くで見てごらん」
「んー!んーっ」

床の間に飾られている美しい生花が二人の視界に映り込み、炭治郎は笑顔を浮かべながら妹の背中をやんわりと押した。パタパタと床の間の前まで駆け寄って腰を下ろした禰豆子は、左右に首を傾けながら物珍しげにそれを見つめた。

「これ、白百合だよ」
「んー?」
「綺麗な花だけど香りが独特なんだ。…誰が生けたのかな?」
「むぅ〜」

禰豆子の隣に腰を下ろして百合の花を眺める炭治郎。山暮らしで野花を見る機会は多かったけれど、こんな風に人の手によって美しく仕上げられた物を見るのは稀だった。禰豆子と共にほっこりした気分に浸っていると、不意に鼻腔をくすぐられてハッとする。

「…これを生けた人は、きっと凄く心が綺麗な人だ…」

何も考えず、無意識のうちにでた言葉。
花から香る微かな匂いが教えてくれた。
じーっと花を見つめながら穏やかな表情を浮かべている兄を横目に、禰豆子が「そうなの?」という意を込めて首を傾げた。その時…。

「左様でございます、鬼狩り様」
「「!?」」
「その花を生けたのは、別の藤の花の家紋を持つ家の孫娘でございます」
「……び、びっくりした…(全く気配がしなかったぞ!)」

返ってくるとは思いもしていなかった返事が背後から聞こえてきて、二人が慌てて振り返る。するとそこにはこの家の当主の姿があり、いつから居たんだと炭治郎は驚愕の表情を浮かべた。

「華道を嗜む、心の優しい娘です」
「…や、やっぱりそうでしたか。微かに残っていた匂いから、そんな感じがしたので」
「時折りこうして、生けた花を贈ってくれるのですよ。もしも立ち寄る機会がありましたら、是非声をかけてやって下さい。すぐに親しくなれると思います」

深々と頭を下げてそう言った当主の言葉に、炭治郎は禰豆子と顔を見合わせてから笑顔を浮かべ「はい!」と元気のいい返事を返した。

「優しい人なら、きっと禰豆子のことも可愛がってくれるよ」
「んー、んー!」
「いつか会えたら、花を生けるところを見せて貰おうな!」


まだ見ぬに思いを寄せて

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