「灯華!居るか!今帰ったぞ!」
バーン!と豪快に入り口の扉が開かれると、家中に炎柱の勇ましい声が響き渡った。それを皮切りにここで働いている数名の従者たちがあわてふためき声にならない悲鳴を上げた。帰って来るのは明日じゃなかったのか!!…と。理由は簡単、彼の目当てである当主の孫娘、灯華は今…。
「いやはや御美しい御孫様でいらっしゃいますなお鶴様」
「………」
「目鼻立ちもよく気品もある。素行も実に良さそうだ」
『………』
「趣味には華道を嗜むとか。後ろの百合も君が生けたのかな?」
『…はい…』
「良いね。実に良い。我が息子の妻として申し分無いよ」
灯華は今、破談を前提としたお見合いの真っ最中だからだ。鼻を詰まらせたような少々くぐもった声の男は、物腰の柔らかな口調で「いいねぇ」と目の前いる灯華を値踏みするかのような視線を注ぎ、下品な笑みを浮かべた。その横で体をモジモジと動かしながら軽く赤面し、灯華を直視できずにいるのが彼の息子。黒い短髪に、切れ長の瞳。恰幅の良い体からは生活の怠惰を連想させた。
「花園様、孫は病を患っています。命に関わる病でございます」
「いいよお鶴さん。そこも儚くていいじゃないか」
持っていた扇子をパチンとたたみ、灯華に向け突き出す。お鶴は鋭い眼光で父親である男を睨みつけるが、軽く流されあまり意味をなさなかった。
「短命はね、美しいものの宿命なんだよ。分かるかな?君の好きな花だってそうだろう?」
『………』
「例えばあの百合も、今は美しく咲いているが数日したら枯れてしまう。儚い命、人間だってそうだ。なあ、息子よ」
「そ、そうだね父上。…俺は気に入ったよ、こ、この娘」
「おおっ、そうか!やはり気に入ったか!」
「き、綺麗だっ。とて、とてもっ…」
ちらちらと灯華を見つめ絞り出すようにそう言った息子は、父に肩を叩かれながらニタァ…と薄気味悪い笑みを浮かべる。直視できずに堪らず祖母に視線を移すと、手の甲を口元に当て完全に引いていた。あからさまな態度が失礼では?と思ったが、そうなる気持ちはよく理解できる。
『あの、花園様…申し訳ないのですが』
「ああいいよ灯華さん、そうゆうのは」
『……?』
「うちは曾、曾、曾祖父さんの時からこの家を援助しているけど、今まではあまりいい嫁候補が出てこなくてねぇ。ほら…ここは"アレ"と接点がある者が集う場所だから、若い女性は食べられちゃうことがしばしばあったんだよ。ね、お鶴さん」
「……そのようなことを孫の前では」
「だけど貴女がちゃんと御孫さんを囲ってくれていたから、やっと息子に妻ができるよ」
『………』
「断れば、分かっているよね?君たちは馬鹿じゃない」
要は援助を打ち切ると言いたいのだろう。直接的な言い回しを避け、自らが築き上げて来たわけでは無い繋がりを私利私欲のために使うこの男のやり方が気に食わない。お鶴は人情にとても厚い人だから、今はこんな下衆な男が良縁を築いて来た一族の当主だとしても、先代たちがと交わした絆を簡単に放り出すことは彼女の誇りを欠くのと同じ。そんな人の弱みに漬け込むような所業は鬼と大して変わらない、灯華が気持ちを落ち着かせるため一度深呼吸をして、もう一度抗議するため口を開こうとしたその時だった。
気配も物音も一切立てずに突然部屋の襖が勢いよくタンッ!!と左右に開け放たれたのは。
「この縁談!無かったことにしてもらおう!!」
「「「……!!??」」」
『き、きっ、杏寿郎さんっ!?!?』
あの男、柱につき…
(対峙するは危険なり)
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