俺が任務に出ている間にこんな事態になっているとは…!

「よもや、よもやだ!」

いつもと変わらない自信に満ち満ちた表情を浮かべながら、灯華の隣に歩み寄り「花だ、灯華!」と男たちを全く気にせず持って来た花束を渡す煉獄。それをえ?今?と思いながらも受け取った灯華は、困ったような、だがどこか安堵したような笑みを浮かべた。

「だ、誰なんだ貴様は!?」
「生憎だが少々苛立っている!名乗りたくない!」
「(刀を持ってる、隊士だなコイツ!)ふざけるな!無礼な奴め!今は取り込み中だぞ!」
「ああ、らしいな!貴方は誰だ!」

腕を組み、灯華の隣に腰を下ろした煉獄は見開かれた瞳で射抜くような視線を男に送る。そのあまりの気迫と身勝手な振る舞いに緊張と苛立ちが一気に募り、額から汗を垂らした。

「この私が花園家当主と知っての蛮行かこれは!」
「そ、そうだっ…い、今…今は俺と灯華さんのっ」
「申し訳ないが全く知らない!それと君は誰だ!」
「ひっ…」
『……杏寿郎さん、こちらは御子息の方です』

煉獄の何を考えているのか全く伝わってこない大きな目が自分に向けられたことでガタガタと身を振るわせる息子。見兼ねた灯華がやんわりと控えめに、煉獄に耳打ちをした。

「そうか!息子殿か!君はもう少しハキハキと話せ!あと、体を鍛えろ!それと灯華の名を呼ぶな!俺は今虫の居所が非常に悪い!気をつけろ!」
「なっ……!?」
「何なんだ何なんだこの男っ!どうなってるお鶴!」
「…此方の方は…」
「お鶴さん」

ビシ!バシ!とまるで見えない平手打ちを喰らっている様な気分がした。それも初対面の、訳の分からない屈強な男から。煉獄は口を開いたお鶴に待ったをかけ、二人をじっと見据える。瞬きすらしない男の突き刺さる様な視線に、不気味さを感じ息子が身を縮こまらせた。

「(な、なん、なんなんだこのオトコッ…男はっ!)」
「もう一度言うが俺は今虫の居所が悪い!」

理由は明白。多忙な柱の任務明けの憩いの時間を、彼らが見事に邪魔したからである。本当なら今頃、いつものように自分の帰りを笑顔で迎えてくれた灯華と穏やかな時間を過ごしているはずなのだ。花束を渡した時の愛らしい笑顔が見たいがために疲れた体に鞭を打って足を運んでいるのだ。こんなどこの馬の骨かも分からない輩を拝むためじゃない。

「何故君たちはここに居る!縁談など理解不能だ!」
『(…き、杏寿郎さんかなり怒っているわ…)』
「そして君たちとは初対面だが、すでに俺は君たちが嫌いだ!」
「(杏寿郎様っ…)」
『(物凄くはっきりと仰られたっっ…!)』
「なっ!な、なんだとぉ!?」

ドーン!っとそれはもう爽快に、潔く、なんの躊躇もせずにはっきりとそう言った煉獄に、この場にいる彼以外の人間は雷が落ちた様な衝撃を受けた。口元は笑っているが目が全く笑っていない。

「こ、こ、この無礼者めが!俺は名家の主だぞ!」
「……」
「花園家が今までこの家にどれだけの支援をして来たか、お前は知らぬのだろう!部外者は引っ込んでいろ!そもそもこちらも鬼狩りの隊士は大嫌いなのだっ…。政府非公認の蛮族共の集まりが偉そうにっ」
『…!なんと言うことをっ』

この家の娘を娶ろうとしている男の発言とは思えなかった。自分たちの生活を鬼という最悪から命懸けで死守してくれているのは、政府公認の警察でも、権力者でもない。他ならぬ鬼殺隊なのだ。
少しばかり身を乗り出し不信感を募らせている灯華の姿を見て、煉獄は目を細め穏やかな笑みを浮かべた。

「灯華、声を荒げると体に障る」
『ですが杏寿郎さんっ…この者たちはっ』
「悪いがお鶴さんと席を外してくれ」
『え…え?』

灯華の手首をやんわりと掴み、お鶴に視線を向ける。どうかここは自分に任せて欲しいと目で訴えかけてくる煉獄の意を汲んで、お鶴は短い返事を返し立ち上がる。戸惑いを隠せない灯華の手を取り部屋の入り口へと無理矢理連れて行くと、またしても父親のくぐもった声が響いた。

「お鶴!!何を勝手なことをしている!孫娘を置いていけ!」

シュッと勢いよく突き出された扇子の先端を、一瞬の動きで大きな手が掴み固定する。どんなに力を込め引こうとしても微動だにしない畳まれた扇子を、青ざめた表情で見つめる父。その視線の先には燃える眼光で自分を睨む煉獄がいた。

「言っただろう。俺は今非常に虫の居所が悪いと」
「ひっ…」

笑っているのかいないのか、口元だけが弧を描き、握りしめていた扇子を持つ手に力を込めると…。

バキッ!

『「「「(…お、折ったーーっ!!)」」」』
「君があまりにもしつこいので教えるが!」
「!?」
「彼女は俺の妻になる女性だ!」


その男、につき…
(加減と容赦は期待せぬ様)

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