「転校生を紹介しやす!!!テンション上げてみんな!!」

教壇に立ち、謎のポーズをいくつか決めながら最終的には両手横ピースを目元に重ねて意気揚々とそう言った五条の前には、心底興味の無さそうな表情を浮かべた二人と一匹の生徒がいる。
十数人は収まるであろう教室にいるのは教員を含めてたったの四人。ガラリと空間の空いた物理的な物足りなさと、自分とは対照的な態度でシラけている生徒からのリアクションの物足りなさが相まって、五条の声のトーンが落ちた。

「上げてよ」
「随分尖った奴らしいじゃん。そんな奴のために空気作りなんてごめんだね」
「しゃけ」
「………」

いつものように強気な姿勢ではっきりとした物言いをする真希の言葉に、棘が同意の単語を吐く。

「ま、いっか。入っといでー!!」

歓迎ムード0の生徒たちに対して「新しい仲間なんだから、転校生とは仲良くしよう」なんて一般教師のようなお決まりのフレーズは、五条の口からは出てこない。ただ真希たちのドライな反応がつまらなくてため息を吐いたあと、気を取り直して教室の外にいる乙骨と純を呼びつけた。

「物凄く冷めた空気を感じる…」
『私が初めて五条先輩に会った時よりマシだから大丈夫』
「え"っ…?」
『さ、憂太。みんなが待ってるよ』

向けられた柔らかい笑顔に、少しばかり緊張がほぐれた気がした。自分の殻に閉じこもっていては何も変わらないのだと教えてくれた純の後押しを受け、乙骨は新しい日常の始まりへと意を決した一歩を踏み出した。

*転校生@*

「憂太となに話してたの?」

体中に重く絡みつく禍々しい呪いの姿を前にして突きつけられた槍状の呪具が、乙骨の右顔すれすれのところを通過し黒板に突き刺さっている。彼を囲むようにして戦闘態勢に入っている生徒を見つめながら、五条悟は口角を吊り上げ隣に並んだ純の右手を後ろ手で握りしめ問いかけた。

『内緒です』
「…なにそれ意味深っ」
『今そんなことどうでもいいでしょ?』
「良くない。隠し事は無しって約束したじゃん」
『してませんよ』

小声でぶつくさ文句を言っている五条の手をやんわりと離し乙骨に視線を向けると、思い切り引きつった表情を浮かべて「話が違う」と訴えかけてきていた。

「…純せんせっ…」
「これなんかの試験?」

ワナワナと震えながら助けを乞おうとした乙骨の言葉を、真希が強気な口調で遮る。

「おい。オマエ呪われてるぞ」
『先輩、真希たちに説明したんじゃないんですか…』
「あー。忘れてた」
『(やだこの人っ…)』
「ここは呪いを学ぶ場だ。呪われてる奴がくる所じゃねーよ」

二人と一匹から向けられている殺気は、間違いなく本物だった。若干の恐怖を感じるも、初めて純と対峙した時のことを考えると冷静ではいられる。しかし幸先は悪く、乙骨の不安が急加速していく。

「日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10000人を超える。そのほとんどが人の感情から抜け出した負の感情"呪い"被害だ。中には呪詛師による悪質な事案ものもある。呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ、都立呪術高等専門学校だ」

黒板に突き刺さった刃が見えているのだろうか?
この担任はこの状況を止める気があるのだろうか?
大丈夫だと言った純の言葉を信用して良いのだろうか?
と、乙骨は教員二人に不信感を募らせていく。そんな彼の気持ちを察しているのかいないのか、いたって冷静な口調で呪いについての超基本的な説明を始めた五条を見つめながら、乙骨を含め純までもが表情を歪めた。

「(事前に言ってよ!!)」
「「(今教えたの?)」」
『(あんたそれでも教員ですか?)』
「(メンゴ!)」

片手を上げながら軽いノリで謝罪?をした五条は「だって純ちゃんが説明するって意気込んでたから」と純を指差し責任転嫁するも、ドスっと脇腹を肘でど突かれ生徒には呆れ顔を向けられた。

「あっ、早く離れた方がいいよ」
「「「?」」」

ーズルルルルン

思い出したかのように五条が忠告を促したその瞬間、乙骨の背後にある黒板の中から不気味な音と共に白い巨大な腕が現れる。真希たちの表情が驚きの色に染まり、その腕が力強く真希の呪具の先端を掴んだ、次の瞬間ー。

「ゆゔだを"ををを」
「待って!!里香ちゃん!!」
「虐めるな」

禍々しい気配と狂気に満ちた少女の、乙骨を傷つける全てのものを拒絶する声が響き渡った。




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