五条先輩は所謂トラブルメーカーだと私は思う。
読んで字の如くトラブルを(大量)生産する側の人間。
火のないところにそりゃあもう積極的に煙を立たせに行くタイプの人。だから彼絡みの何かが起こる時は悪い予感がセットになって付いてくる。丸腰で彼と関わるとろくな事にならないから、もちろん毎回身構えるし、警戒を怠ったことはない。が、なぜだかその準備が功を成したことはない。どうしてだろう?と、その度頭を悩ませて、最終的にたどり着く答えはもうこの一択に尽きるようになった。

「今日はもう我慢できないからここでしよ、純」
『…なんのジョークですかそれ…』

それはコイツが、五条悟だからだ。

『我慢して下さい、大人なんですからっ』
「そうゆうつまんないこと言うなよ」
『ちょ、ストップ!この車生徒も乗るんですよっ』
「仕事で私用車使わなきゃいーじゃん」
『そんなの私の勝手でしょうが』
「つーか、僕以外は乗せない約束したよねっ?」
『そんな約束してません。離れて、降りて、今すぐに』
「やだ!僕は今、純が欲しいの」



ことの発端は今から約1時間半前。
深夜を回った頃にかかってきた、一本の電話から始まった。

『…ん?硝子先輩。…こんな時間にどうしたんだろ』

彼女とは学生時代からの付き合いで、高専関係者の中でも手放しで尊敬できる貴重な存在。五条絡みで散々な目に遭っていた純を幾度となく助けてくれた大恩人。したがって彼女からの申し出は、昔からどんな内容であろうと断われない。それは硝子本人もよく理解していて時たま面倒事を頼み込んでくることがある。

『もしもし、硝子先輩?こんな時間にどうし…』
「"もしも〜し、純ちゃ〜ん"」
『…………え…?』

思わず耳から携帯を離し、スマホの画面を二度見する。『マチガイナク硝子センパイ』と名前を確認し頷いてから、もう一度スマホを耳に当てた。

「"お〜い、純〜?聞こえてる〜?"」
『(…五・条・先・輩ジャネ?)』

この時純は、今度の授業で生徒たちに出す課題づくりに奮闘しており、寝支度を整えた上でPCの画面と睨めっこをしていた。言わずもがな、五条がサボった仕事の尻拭いというやつだ。聞こえて来た(聞こえて来て欲しくなかった)声に座っていたソファから立ち上がり、表情を歪めた純。嫌な予感しかせず、小さな溜息を吐いてから電話越しにいるであろう五条悟に返事を返した。

『あの…今どうゆう状況ですか?』
「"純に会いたくて電話した〜"」
『硝子先輩は?』
「"うん、一緒だよー。純今何してた?会いに行っていい?"」
『嫌です来ないで。硝子先輩に代わって下さい』
「"えー!なんでいいじゃ〜ん、僕…あっ、硝子なにすんだよっ"」

今僕が話してんだろ〜?と五条の声が遠のいて行き、その代わりに「ああー、面倒臭さい」と気怠げな硝子の声が近づいてきて純はホッと胸を撫で下ろした。

「"ホントごめん純、こんな時間にかけて"」
『いえ。二人だけですか?』
「"いや、伊地知も一緒。三人。…酔い潰れてるけど"」
『あはは… 硝子先輩お酒強いからなぁ』

眠らない東京の街を窓から眺めながら苦笑いを浮かべる純。そんないつもと変わらない調子で話す硝子のすぐ近くで、先程から五条が「代われ代われ」と連呼している。いつにも増してよく喋るな…と呑気な感想を抱いたのも束の間、次の瞬間には硝子の口から衝撃的な一言が放たれた。

「"悪いね純。ふざけて五条に酒飲ませちゃってさ」
『…ん?なんですって?』
「"悪いんだけど迎えに来れる?"」
『硝子先輩を?』
「"いや…五条の方。迎えっていうか、引き取って"」

おいちょっと待ってくれ!と状況整理が追いつかないまま純は長い前髪を掻き上げる。

「"私は伊地知送らないとだから"」
『なんでそんな特級呪物×特級呪物みたいなことするんですか』
「"純〜、会いたい!"」
「"うるさい静かにして"」
「"硝子見てみ。あの席の女より純のがかわいい。天と地の差"」
「"それさっき聞いた。今五条こんな感じだからさ"」
『最悪です。発狂していいですか…?』
「"急ぎ目で来てくれると凄く助かる"」
「"切らないで電話繋いだままにして!純とお話しするから"」
「"じゃあよろしくね。20分できて"」
『…(うぎゃぁぁあぁ!!!この先輩たち超イヤッ!)』


*Let me hug you...!
(待たせないでね。)



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