好きな女ができた。

「純〜〜!お昼ご飯食べに行こう!」
『灰原!七海!戻ったんだ!お帰り〜っ!』
「うん!今回も僕ら、大活躍だったんだ!」
『そうなのっ?話聞きたい!』
「…そうゆうことは自分で言うもんじゃないでしょう」
「硬いこと言うなよ七海!本当のことだろ?」

相手は一つ下の後輩の、橘華純だ。

「へらへらしやがって…」
「悟、ご立腹?」
「あ"ぁ?」
「純取られちゃったね」
「…別にどーでもいいっつーの」
「フフッ。無理しちゃって」

彼女ほど容姿と才能に恵まれた呪術師を、自分以外に見たことがなかった。だからすぐに興味が湧いた。しかしそれは単なる好奇心や見た目で判断しがちな若さ故の感情ではなくて、直感だったとはっきり言える。ああ、多分自分には…後にも先にもこの女しかいないな、と。

「五条悟が年下の後輩相手にヤキモキするとは笑えるね」
「バーカ。俺は女にそうゆう感情持たねーよ」
「嘘だね。純は特別だろ?」
「傑うざい」
「はい、今誤魔化した」
「誤魔化してねーし、特別でもない」

親友に嘘をついた。今までの自分から、一途なんて二文字の言葉がやけによく聞こえるダサい自分が受け入れ難くて。けれど、そんな気持ちと反比例するくらい純が好きで仕方がない。可愛くて、美しい強さを兼ねているあの女は間違いなく特別なのだ。どうしても目が離せなくて、気持ちが離せなくて、ずっと隣に置いておきたいと強く思う。そんな裏の裏まで掘り進めないと分からない五条の思いを、夏油傑は一瞬にして見抜いてしまう。

「あんまり意地悪してるとどっちかに靡いちゃうよ?僕の予想では七海かな」
「七海が願い下げだろ。純性格悪いし」
「それ、悟にだけは言われたくないだろうね」
「なんでだよっ」
「自覚なし」

呆れたように両手を上げた夏油が視線の先にいる三人を見つめる。

「ほら。純と七海、並ぶと似合う」
「………どこが?ミジンコほども似合ってねーし」
「そんなことないと思うけど。硝子も前にそう言ってたし」
「傑さぁ〜、さっきから何?俺を怒らせたいの?」
「何で怒るの?どうでもいい女なんだろ?」
「………」
「顔に好きで仕方ないですって書いてあるよ」
「………」

あの五条悟が意表を突かれたような少し間抜けな表情を浮かべたものだから、思わず吹き出さずにはいられなかった。

「フッ…なんて顔してんだよ、悟っ」
「おまっ………うっっぜ!!」

親友が腹を抱えて笑っているのを横目に、唇を歪めて不快な表情を浮かべた五条。そんな彼が制服のポケットに手を突っ込んで立ち去ろうとするのを引き止めて、夏油は目尻に溜まった涙を拭い「ごめんごめん」と謝罪した。

「嘘だって、悪かったよ」
「…はぁ?」
「本当はさ、悟と純が一番お似合い」
「…………」



一目見た時から、ずっと大好きな女がいる。

「純ちゃん、おっは〜」
『え、今なん……7時55分…奇跡だ、奇跡が起きた』
「あのさぁ、一緒に寝てんのに朝置いてくのやめて〜」
『スマホのアラーム何回鳴ってると思ってんですか』
「僕のアラーム純のおはようだもん」

アイマスクを長い人差し指でくるくると回しながら歩み寄ってくる五条は、起きれない非を認めるわけでもなくえへへと無邪気な笑顔を浮かべている。

『……(このキラキラスマイルに騙されるな私)』
「明日からちゃんと起こしてね」
『…世話係じゃないんすけど…』
「それも奥さんの務めじゃん?」
『奥さんじゃないです。橘華です』
「え、何そのつまんない返し。それより今日さ〜」
『ちょ、校内ではベタベタしないで下さいよ!』
「別に良くない?もう全員にバレてんだから」

隣を歩く純の腰に腕を回して抱き寄せたあと、今日もかわいいねと惚気ながら頭を撫でる。少し身を引こうと抵抗するも意味を成さず、そこから五条悟のワンマントークショーが幕を開けた。
そしてそんな二人の姿がイヤでも視界に映り込んでしまった伏黒は、少し離れた場所から死んだ魚のような目をしながら「朝から見たくねぇもん見た…」と呟いた。

「やっぱりあの二人、お似合いだね」
「…は?マジで言ってんすか…?」
「え、そう思うけど……」
「恵に一票」
「しゃけ」
「なんであのバカ目隠しなんだか…」

いつの間にか伏黒を取り囲むようにして現れた二年ズに「つーかいつから居たんですか」とツッコミを入れるも返答なし。全員が歩き去っていく五条たちを見ながら各々の思いを口にしていた。彼らの関係に納得しているのは乙骨憂太ただ一人。

「純は男を見る目がねぇんだよ」
「こんぶ」
「えっ、そうなの?あんなに美人なのに…」
「優太知らないのか?美人だからこそダメ男ハンターになんのさ」
「え"っ…?」
「誰もダメ男が五条先生とは言ってないですけどね」
「私は解せねぇ。別れろっつってんのに聞きやしねーし」
「真希さんそれどっちに言ったんすか」
「悟」
「そりゃあ無理だな」
「無理ですね」
「明太子」

テンポのよい否定的な言葉が続き、そこまで言うか?と乙骨一人が首を傾げたその刹那…、

「誰と誰が、不釣り合いだって?」
「「「「「…!?!?!?」」」」

肩に加わった重みとわざとらしく発せられた艶のある低い声に、この場にいる全員の体がビクッと跳ねた。ほぼ同時にバッ!と勢いよく振り向けば、まさに今話の中心人物となっている五条悟が乙骨の肩に腕を回して「おっは〜」と白い歯を見せ笑っていた。

「急に現れんな!」
「え〜、だって悪口聞こえたからさ〜」
「すんげー地獄耳…」
「しゃけ……」
「普通にコワ…」
「パンダと真希はあとで鬼盛り強化訓練ね」
「「なんでだよ!」」
「一番悪意を感じる発言してたからだよ」
「ダメ男って聞こえてたな」
「はいパンダはさらに訓練追加!おめでとう!」
「だから何でだよ!」

楽しいね〜なんて笑いながら教師という職権を乱用する五条にイライラを募らせるパンダと真希。口の悪い反抗期真っ只中の超めんどくさい生徒たちではあるが、その分かわいさは十二分。もちろん本気で怒るなんて感情は一ミリたりともないが、純との関係においては譲れないものがある。
10年以上もの歳月が流れていろんなものが変わってしまったけれど、変わらないのは橘華純への純粋な想いと関係性。そして…。

「本当はさ、悟と純が一番お似合い」

この事実だけは、昔も今もこれからも、絶対に変わらない。

「言っとくけど、純の隣が似合うのは僕以外にはいないんだよ」


*We are perfect match!



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