「純ちゃん♪」
『うわっ…!?』
「へへっ。びっくりした?」
『ご、五条先輩…!急に現れないでくださいっ』
「だって電話しても出ないんだもん」

詰め込まれたスケジュールの合間をみて、仕事部屋で息抜きのためのコーヒーを注いでいると、突然背後から体を抱きしめられて心臓が飛び出るのではないかと思うくらいに驚いた。衝撃でカップに注いだコーヒーがテーブルの上に数滴こぼれ落ちる。

『だからって心臓に悪いからやめてっ』
「純が僕との時間もっと作ってくれたら考える」
『ならそうできるように仕事し…んぅっ…!』

抗議の言葉は五条の唇によって塞がれて、行き場をなくす。わざとらしいリップ音に少しイラっとしながらも、なにを言っても無駄だろうとあきらめ小さなため息を吐いた。持っていたカップを奪われ「話しがあるんだ」とソファの上に座らされると、五条ペースで流れは進む。

「京都校の生徒でさ、いるじゃん!良い子そうな子」
『はい?』
「ほらあのっ、楽巌寺学長と一緒にいた子!」
『ああ。三輪ちゃんですか?』
「そそそそそ!さっきその子と写真撮ったんだけどさ」
『…え…写真?五条先輩と二人で?…なんで?』

五条の手からカップを奪い返し、疑うような視線を向けた純はこう思っていた。あんな可愛らしい女の子と写真を撮るなんて、ついに変な癖が目覚めてしまったんじゃないかと。

「頼まれたの!一緒に撮ってほしいって」
『ああ、なるほど。つまり五条先輩のファン?』
「そう!妬いた?」
『いや全然。むしろ嬉しいです。三輪ちゃんかわいいし』
「ちっ。…つまんねぇ女」
『あ?なんか言いました?』
「ううん。純のほうがかわいいって言った」

カップを仕事用のデスクの上に置いて、ソファの背もたれに寄りかかる。一体なにが言いたいのかを問えば、五条が嬉しそうに口角をつり上げた。

「その子がさ、純のこと超かわいいって褒めてたよ」
『…え、私を?…本当に?』
「本当。女呪術として成り上がったお前を尊敬してるって」
『…三輪ちゃんっ。…すごい良い子!大好きっ!』
「なんで僕が言う時より嬉しそうなの」

ムカつくな。と両頬をぷくっと膨らませて拗ねてはみるが、目の前で嬉しそうな笑顔を浮かべている純につられて笑ってしまう。学生の頃から見込みがあり、手をかけてきた純を目標とする生徒がいることは五条にとっても喜ばしいことである。

『それで、五条先輩。三輪ちゃんに余計なこと言ってないですよね?』
「あのさ〜、僕が生徒の夢を壊すと思う?」
『ならよかった。実は先輩の婚約者だってバラされた日には…』
「ああ、それなら言ったよ」
『……………』
「僕の自慢の奥さんだって」

ニコニコと周りに花を咲かせながらそう言った五条とは対照的に、純の顔からサァァ…と血の気が引いていく。

『…え?…なんで私に黙って言ったんですか?』
「だって事実じゃん。婚約したし」
『いや…そうゆう問題じゃないから…』

JKの情報セキュリティのザルさなめんなよ?
ウィルスに感染しまくったPC並みに個人情報流出してくから。
ただでさえ真希に"ダメ男ハンター"とか変な二つ名みたいなの付けられてるのにこれ以上生徒たちから白い目で見られたくないんですよ!と、ノンブレスで言い切った純が五条の胸ぐらを掴んでガクガクと前後に揺らした。

『なんで黙ってられないんですか五条先輩ぃぃ!』
「だってさ〜、幸せなんだもん」

不服そうな表情を浮かべている純の両手首をやんわりと掴み、微笑む五条。
本当は黙っているつもりだった。
けれど純粋な瞳をキラキラと輝かせながら純の話しをする三輪を前に、彼女は自分の大切な人だという気持ちを伝えずにはいられなかった。

『一応聞きますけど…他になにか言いました?』
「ううん!芸能人の結婚記者会見くらいなことしか言ってない」
『それ馴れ初めから今にいたるまで全部じゃん!』
「純ちゃん大好き。愛してる」

掴んでいた手を離して純の顎を持ち上げると、そのまま桜色に艶めく形のいい唇にキスをした。なめらかな熱いキスが、唇から首筋に移動する。純の制服の隙間から手を忍ばせて直接曲線を描くウエストを撫でると、甘美な吐息が五条の欲を駆り立てた。

『五条先輩っ…もう行かないと…』
「あと15分だけ」
『そんな時間ないで、すっ…んぅ…』
「寸止め喰らうのが一番嫌いなの。知ってんだろ?」
『ちょ、待って…っ…本当にダメだって…』
「どうせ毎回遅刻してんだからいいんだよ」

教師としてあるまじき言動をしながら純のスカートを捲り上げる。頼りない下着の合間から直接秘部に触れてみると、そこはもう愛液で十分過ぎるほど濡れていた。

「キスだけでこんな濡らして…超かわいいね」
『…やめっ…んっ…あっ…』
「純大好きだよ。もっとしてあげる」

とろんと甘ったるい表情の純にキスをして、肉芽を刺激していた指をより深い場所に沈めようとしたその瞬間ーー。

「橘華さん、すみませんっ」
『…!』

ドアをノックする音が響いた後に聞こえてきた伊地知の声に、純は思いきり表情を歪めて五条は深いため息を吐いた。鍵をかけておいてよかったと自分の行動を称賛しながら、行為を続けようとする五条の手を掴み抜き去った。

『ど、どうしたの?』
「あの…楽巌寺学長がお呼びです」

制服を整えながら、五条を睨む。

『……なんで?』
「先程の五条さんのことで…話しがあると…」
『…分かった。ありがとう』
「はい。失礼します」

伊地知の気配が遠ざかったところで純の拳が五条の胸板を叩く。

『ほら来たっ。あんな挑発するからですよ』
「つーかさぁ…僕の奥さんを軽々しく呼びつけるとか何様?」
『あの、先輩。私が極力穏便に済ませてくるんで…』
「五条家なめてるよね。超ムカつくんだけど」
『先輩…私無視するんで、悠二のとこ行きましょ』

生存サプライズやるんでしょっ?と手がつけられなくなる前に話題を変えると、五条の人を殺めそうな表情が一瞬で消えて純の体を軽々と抱き上げた。

「じゃあ今夜続きしよ」
『ええっと…今夜は歌姫先輩と飲む約束が…』
「なにそれ。僕も一緒に行く」
『ちょっと…歌姫先輩嫌がりますよ…』
「知らね。歌姫ごときが純を独占するとか図々しい」
『…私の交友関係を破綻させるつもりですか?』
「純には僕がいるじゃん。ね♪」

ニッコリと笑みを浮かべながら頬にキスをして、額を重ねる。軽く触れるだけのキスの中に、深い愛情を感じて純は困ったような笑顔を浮かべた。

『子供みたい』
「四六時中純と一緒にいたいの」


*ただれだけ。


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