「純!結婚しよ!」
『……えっ!?』
「せ、先生!?今??今言うの…!?」
「悟てめぇ!時と場所考えろよ!」
「しゃけー!」
「お前ホンット空気の読めない男だな!!」
「えへへへへ〜。みんなの前でした方が面白いかな〜って」


百鬼夜行の直後、僕は純にプロポーズをした。
ムードの欠片もない、それはもうクソみたいな状況の中で。
当時はまだ一年だったみんなの前。
真希とパンダと棘は血だらけ。
憂太は里香との別れでボロ泣きしてた。
純と僕に関してはいえば…傑と別れた後だった。
それでも純は、僕らしいって腹を抱えて笑ってた。
それで言ったんだ。

『私が死ぬまで、ちゃんとそばにいてくださいねっ』


って。
僕ですら羨むほど綺麗な笑顔を浮かべて、確かに純はそう言った。
同じ気持ちでいると思ってた。
お互いじゃなきゃ駄目だって…。
どこですれ違って、何に気づけなかったんだろう。
僕との関係が簡単じゃないことくらい分かってる。
それでもお前は納得してただろ。
何度も何度も何度も何度も…、僕を好きだって言ってただろ。
なのに、なんでだ…。
純の気持ちはもう完全に僕から離れてーー。

ーブーッ、ブーッ、ブーッ…

「……!!」

まだ純の匂いが残るベッドの上。
一人横になって指輪を見つめたまま、ふつふつと湧き上がる感情に身を任せて自問自答していた時だった。
タイミングよく携帯が鳴って、強制的に思考がストップ。
何度かけても繋がらず、音信不通になっていた。
期待しないわけじゃない。
むしろその逆だ。

「もしもし…っ、純…」
「"……あ、えと……五条先生…?"」

馬鹿馬鹿しいと思えるくらい、取り乱した。
画面に表示された名前を確認にせず出たことを少し後悔しながら、電話越しに聞こえる控えめな声にため息吐いて"ごめん、ごめん。"といつもの調子で謝罪をした。

「どうしたの?憂太から電話してくるなんて」
「"すみません…純先生じゃなくて…"」
「あー、いやいや大丈夫。それで?何かあった?ホームシック?」
「"ち、違いますよっ。えと……それが、ですね…実は…"」
「ん?」

「黒縄」の探索に海外へ行かせた憂太には、純のことは伝えてない。入学当初から彼女に心を開いていた憂太に"純が行方不明になりました。"なんて伝えたら、絶対心配するだろうから。
余計な不安は与えたくない。
それにここまで来て、僕らに近い憂太との接触を図るとは思えない。そう思ったのも束の間ーー、

「"…五条先生っ"」
「ん?」
「"僕ら今、純先生と一緒にいます…"」
「………………は?」

予想が外れ、ほんの一瞬、息が止まった。



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