「ちょっと海外行ってくるから帰るまで自習。以上!」
「おいちょっと待てや馬鹿教師オラァッ!」
「唐突すぎて意味分からん。いつもだけど」
「しゃけ!」

朝。
教壇に立ち五分もしないうちに一限目を自習にした五条悟という教師に対し、一年生三人からは予定調和のような反発が起きた。

「駄目。今日は質問受け付けないよ。僕忙しいから」
「いつもまともな解答しやがらねぇクセにふざけんな」
「海外ってどこ行く気なんだよ」
「アフリカ」
「遠っ!全然ちょっと行ってくるわのノリじゃねーじゃん」
「しゃけいくら、明太子」
「ああ。憂太に会いに行くんじゃないかって?」
「違うね。純だろ?絶対そっち」

"だってここ最近で今日はやけに機嫌良いし。"
と、鋭い眼差しを五条に向けた真希の洞察力には恐れ入る。この女生徒には五条が純の言動一つで一喜一憂する人間だということが筒抜けのようだ。まあこの三人の前ではプロポーズもしたし、今さらどう思われようが構いやしない。そんな風に思いながら、五条は顎を高く上げて大きく頷いた。

「真希、大正解!」
「いや嬉しくねぇ!」
「でも憂太にも会えるよ。一緒にいるみたいだから」
「生徒をついで扱いするなよ、バチ当たるぞ」
「明太子〜、いくら?」
「純の出張?いつまでかって?」
「しゃけしゃけ」
「ん〜〜。分かんない!いつまでだろーねー」
「んだよいい加減だな!」

大袈裟に首を傾げて誤魔化すそぶりを見せた五条に、知っているのに答えない。三人にはそう見えたことだろう。だが本当に分からないのだ。連れて帰って来る気はあるが、どうなるかなんて分からない。

「お前が向こうに残って純を帰国させろよ!」
「え〜、やだ〜。僕ら新婚だから一緒にいなきゃだし」
「はっ!?俺らに内緒でいつの間に籍入れたんだよっ」
「おかかおかかおかか!」
「ああ、それまだ」
「「「………」」」
「でも婚約したし、もう新婚みたいなもんでしょ」

顔の前でダブルピースをつくり、へらへらと笑う五条とは対照的な温度差で顔を見合わせ表情を歪める三人。

「私はこうゆうテキトーな男嫌いな」
「別に〜。真希より美人でかわいい奥さんいるから〜、僕」
「うっぜえぇぇぇっ」
「教師のする発言じゃないな」
「しゃけ…」
「じゃ、飛行機の時間あるからもう行くね!あとよろしく♪」
「えっ!まじて行くのかよっ。職務放棄」
「お前だけ飛行機から落ちて溺れとけ!」
「おかか…」

生徒たち(主に真希)からの怒声を背中に受けながら、軽快な足取りで教室を後にした五条。生徒たちの前で浮かべていた笑顔が、廊下を進むにつれて消えていく。少しばかりの焦燥感にかられながらもアイマスクを取りサングラスに付け替えると、宝石のように輝く六眼が、ここにはいない何かを狙い定めているようだった。

「………」

純が消息を立ってから、約二ヶ月が経過した。



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