「いやー、まじ助かったわ〜」
「…お、役に立てて良かったです」
「危うく高専まで歩かされるとこだった」
深夜十二時を過ぎた郊外の峠道は、街灯も少なく見通しが悪い。数週間前にとったばかりの運転免許がこんなにも早く役立つとは予想外で、初心者にはまだ難易度の高い夜道の運転に、伊地知は運転する車のハンドルを両手でしっかりと握りしめた。
「学生なのに、普段からこんな時間まで任務を…?」
「僕はね。純はなんか面白そうだから連れてきた」
「…え?」
「なに?」
「あ、え、いや…何でもありません」
郊外の山奥にある古い祠に保管されていた呪物が暴走し、周辺の呪いを集め呪霊が発生。危険な任務の等級を確認すらせずに、なんか面白そうだからという理由で夜な夜な後輩を連れ出すあたり、五条悟の人間性に不快感を抱く伊地知。可哀想に…と純に対して同情を抱きバックミラーに視線を向けると、五条の肩にもたれ掛かるようにして眠っている姿が映り込んだ。
「お二人は仲が良いんですね」
「付き合ってるもん」
「…(残念っ)」
あっさりとした口調で返されたその一言で不確かだった例の噂が確信に変わり、伊地知は心の中で小さなため息を吐いた。
「馴れ初め聞きたい?」
「いえ遠慮しておきます」
「聞けよ」
「ひっ…!」
後ろから運転席のシートを蹴られて小さな悲鳴をあげた伊地知。そうゆうの話したいタイプだったのかと意外性を感じながらも仕方なく聞き役に徹すると、ただ惚気たいだけじゃないかとツッコミたくなるような内容の話しが三十分も続いた。
「ってな感じで仲良いの僕ら」
「…でも五条さんこの前任務で助けた女性の連絡先受け取ってましたよね?(すぐ捨ててたけど…)」
「お前それ純に言ったら100回コロスぞ」
「はい!死んでも言いません!(超怖い!!)」
「あ、でも逆の場合は全部僕に報告して」
「…それって橘華先輩に近づいてくる異性がいたら報告しろってことですか…?」
「そう」
「(絶対みんな消されるっ…!)」
にぱっと白い歯を見せ笑った五条に対し、伊地知のストレスが加速していく。
「僕らモテちゃうから大変なんだよ」
「お、お似合いですね…(自己肯定感の塊…)」
社交辞令のような定型文は、会話を続けるために絞り出した言葉だった為にどこかぎこちなくなり、また何か言われるのではないかと五条の反応に身構える。しかしわずかな間を置いてから返ってきた言葉は意外なものだった。
「なあ、まじでそう思う?」
「え?」
「まじで僕と純がお似合いだって思う?」
「…え、ええ。そう思いますけど」
「そっか」
五条の満足げな声が、少しばかり伊地知の緊張をほぐす。なぜそんな質問をするのかともう一度視線をバックミラーに向けると、愛らしい寝顔を覗き込むように見つめながら純の髪を撫でる五条の姿が視界に入り、思春期真っ只中の伊地知は恥ずかしさを覚えすぐに視線を逸らした。
「お前で二人目」
「何がですか…?」
「僕らをお似合いだって言ってくれたの」
「えっ?少なっ…」
「あ?」
「いえ、すみません!意外だったものでついっ…」
「みんながなんて言ってるか知ってる?」
「…知りません」
「当ててみて」
「何故クイズ形式なんですか…?」
不思議と続く会話に嫌な気はしないが、発言には細心の注意を払わなければとハンドルを握り直す。
「みんな反対してんの」
「反対…ですか?またどうして…」
「僕が五条悟だからだよ」
「え…?」
五条はどこか納得のいかない冷めた表情を浮かべ、純から窓の外へと視線を移す。伊地知は彼の言ったことの意味がイマイチ理解できず、五条の言葉を待とうと口をつむいだ。
「マジくだらない体裁とかいろいろあってさー」
「………」
「古い考えの馬鹿ばっか」
「………」
「あとは僕が性格悪いからって理由で反対する奴らが多い」
「それはなんとなく理解できます」
「伊地知、あとでマジビンタ」
「マジビンタッ!?」
気づけば五条とこんな風に話したのは初めてのことで、伊地知はまだ掴めないペースに振り回されながらも丁寧な運転に集中すべく汗ばんだ手で再びハンドルを握りしめた。
「ちなみにあの、もう一人というのは…?」
「僕の親友だよ」
ほんの少しだけ寂しそうにな声色でそう言った五条は、隣で眠る純の右手を両手でしっかりと握りしめ、自分も寄り添うように軽く頭を傾け目を瞑る。今の今まで軽快に話していたのにどうしたんだと不安になる伊地知をよそに、車体にかかる風切り音が車内に虚しく響いていた。
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