「ねえ硝子。結局あの二人まだ続いてるの?」

夜更けの医務室。
適当にカルテをめくっている家入に対しそう問いかけたのは、交流会の打ち合わせに京都からはるばるやってきている歌姫だった。

「え、誰のことですか?」
「誰って、あの面倒くさい二人に決まってるでしょ」

ああ、と納得したように笑う家入。

「残念ながら続いてますよ。なんなら今二人で出張中」
「なんだ。五条の奴フラれてないのか」

歌姫の五条嫌いも極まってるなと、思わず鼻で笑う。
学生の頃から歌姫は純の味方だ。
もちろん家入も。

「喧嘩とかしないのかな?」
「しますよ。あいつら喧嘩が日常みたいなもんだし」

実際、何度も見てきた。
くだらないことで言い合って、変に意地張って、それで周りが巻き込まれていくのを。
それでもーー、

「別れる気配は?」
「全然ないです」

カルテを閉じる。
そんなの聞くまでもない。
あいつ、五条悟は昔から面倒くさい男だった。
強くて、自由で、傲慢で。
そのくせ、妙なところで臆病で。

「ねえ硝子、俺フラれたかも…」

なんて、平然とした顔で言ってきたこともある。

「"かも"って何?」
「いや、なんか距離置きたいって言われて」
「それ世間一般ではフラれたって言うんだよ」
「え、マジ?」


本気で言ってる顔だった。
呆れてものも言えない時期もあった。

「まあ妥当じゃん?」
「大丈夫」
「何が」
「俺、あいつの繋ぎ止め方知ってるし」
「人の話し聞けー」

その時は、正直笑った。
何言ってんだこいつって。
でもまあ。
10年経っても隣にいるってことは、

「……本当に知ってたんだろうね」

そうぽつりと呟いた家入。
少なくとも、"間違ってはいなかった"。
純の方も大概だ。
五条の面倒くささを全部分かってるくせに…何だかんだ結局離れない。

「普通あんな男やめといたほうが幸せなのにね」
「ははっ。正論ですね」

誰に言うでもなく、タバコに火をつけ煙を吐く。
まあ、言ったところで聞かないだろうけど。と歌姫が柔らかく笑う。

「少し前に、聞いたんですよ」

ある日、珍しく純が一人で医務室に来たことがあった。任務に当たって発見された呪物について、家入に聞きたいことがあると言って。その時の話しをゆっくりと語りだす家入。

「珍しいじゃん。一人?」
『五条先輩なら任務です』
「ふーん」

500ミリのペットボトルほどの大きさの容器の中、特殊な液体に浸され保存されている肉塊に視線を向けたまま、家入が何気ない気持ちで問いかける。

「ねえ、あんたさ」
『はい?』
「なんであいつとまだ一緒にいるの?」

一瞬、きょとんとした顔を浮かべた純。
それから、少しだけ考えてーー、

『…なんででしょうね』

と、曖昧に笑った。

「はぐらかすな」
『本当によく分からないんですよね』
「嘘つけ」
『でも…』

少しだけ視線を落として、

『気づいたら隣にいるのが当たり前になってて、いない方が調子狂うというか』


きっと五条のことを思い出しているであろう穏やかで、幸せそうな表情を浮かべながらそう言った純。
ああ、なるほど。
この二人はもう好きとか嫌いとか、もうそんな次元のインスタントな関係じゃないんだと、この時妙に納得したと話し終えた家入。

「ま、あいつらがいつも通りじゃないとこっちも調子狂うんだけどね」

話しを聞き終えた歌姫が、医務室の窓の外を見る。
夜の校舎。
どこかで笑い声がする。

「あ、帰って来ましたね」
「げっ…五条には会いたくないから純に連絡しよっ」

たぶんこれからも、くっついたり離れかけたりを繰り返して、誰にも真似できないような関係を続けて、結局ずっと一緒にいるんだろうなと、家入の口元がわずかに緩んだ。




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