『ハンジさーん!』
「やあ、クロエ!どうしたの?」
『頼まれていた資料集めておきました』

最近。

「ミケ分隊長に匂い嗅がれて鼻で笑われました…」
『あはは、それはミケさんの癖だから。気にしないで』

なんだか…。

「クロエ。すまないが立体起動装置の調整の手伝いを頼まれてくれないか?」
『もちろんです、ナナバさん!』

違和感を感じる。

「クロエ!分隊長を見なかったかっ?」
『モブリットさん、ハンジさんならさっき…』

あんなハンジのおまけにまで親しくしやがって。


「気に入らねぇ」

少し離れた場所からクロエとモブリットのやり取りを見つめながら、リヴァイは不機嫌全開でちっと舌打ちをした。調査兵団に入団してから半年が過ぎた頃、もともと愛想も良く明るい性格のクロエが周りと馴染むまでに時間はかからなかった。おまけに優秀で頼り甲斐があるからか、人の部下だと言うことを忘れて皆がクロエに仕事を振っていく。
そうすると必然的にクロエと過ごす時間が短縮されるわけで、次の壁外調査に向けて話し合わなければならないことも多いと言うのにいい迷惑だと再び舌打ちをした。

そして、気に入らないことがもう一つ。

『じゃあ頑張って下さいモブリットさん』
「ありがとう。またね」

ハンジを捕獲するべく走り去って行ったモブリットに手を振り見送るクロエ。リヴァイは不警戒でがら空きの背後から腕を伸ばし、いつものように首根っこをぐわっと掴んだ。

『リ、リヴァイ兵士長ーっ!』
「オイ…てめぇはいつから他の隊の所属になった」
『きょ、今日もすこぶる不機嫌でいらっしゃいますね』
「ああ。どっかのバカ新兵のせいでな」
『え、誰ですかそれ!私がとばっち…あだだだ』
「この目の前にいるクソ女だ」
『い、痛いですリヴァイ兵士長っ』

半年経った今も変わらないその呼び方にちっと舌打ちをして手を離した。他の人間には大体"さん"付けする癖に、リヴァイを呼ぶ時は一字一句変わらず"リヴァイ兵士長"なのだ。間違ってはいないが気に入らなかった。兵団の中で四六時中一緒にいる自分よりも、どうでもいいようなおまけ野郎との方が親しげなのも。いや、そもそもそんなことを気にすること自体がおかしな事なのだが何故か胸の奥がモヤモヤして気持ちが悪い。

『おはようございますリヴァイ兵士長』
「なめてんのか?もう昼過ぎだ」
『今朝執務室の清掃に行けなかったのには深い事情がありまして』
「ほう…他の隊の連中から頼まれた仕事を片付けていた、意外の理由があるんだな」
『…え、あ…それはあの…』
「今日の実戦訓練で覚えてろよクロエ」

そう言って狂気の視線を向けてくるリヴァイの右腕にすがりつき、『リヴァイ兵士長ごめんなさぃぃ!』と泣きながら平謝りするクロエの姿を何人もの兵士たちが両手を合わせ見送って行った。



「ふざけてんのか、もう一回だ!」
『は、はい!』
「そんな鈍臭い動きじゃすぐに巨人に食われるぞ」
『す、すみませんっ』
「今の所は大きく旋回して斬り込むとこだ!真面目にやれっ」
『…っ』
「返事はっ!」
『は、はい!やります!』

森の中にけたたましく響き渡る刃が麻を斬り込む音と、アンカーとガスの噴出する音。そしてリヴァイの叱責する声に二人の様子を心配で見に来ていたハンジがやれやれと呆れ顔を浮かべた。いつもと同じ、十分に満足のいく動きをしているにも関わらず何か気に入らないことがあったのだろう。強くクロエに当たっているリヴァイ。

「あれじゃあクロエが可哀想だ」
「リヴァイ兵士長、何かあったんですかね…」
「ん〜」

ザン!と何十体目かとなる巨人のオブジェを斬り込んだ後、すぐ近くにあった木の上に着地し膝に手をつきながら呼吸を整えるクロエ。いつもならそんな光景は見られないが、あまりにもストイックすぎるリヴァイの練習法についていかれず限界を超えている様だった。

「オイ…誰が休んでいいと言った?」
『…っリヴァイ兵士長…』
「ちっ」
『あ、あの…数分でいいので休ませて下さ…っ』
「ダメだ」
『…!』
「今すぐ戻れ。こんな無様な結果で休めると思ってんのか?」

クロエを見下し威圧的な態度のリヴァイを前に、最近感じていなかった本当の恐怖というものを感じた。常日頃から口は悪いがここまで本気で追い込んでくる様なことはしない。新兵だから今まで甘く見てもらえてたのかもしれないと解釈し、膝から手を離すともう一度剣の柄を握りしめて次の目標に向けて高々と飛び上がった。

「ちょっとリヴァイ、いくらなんでも厳しすぎるよ。彼女まだ新兵なんだし、あれじゃあ歴戦の兵士相手と変わらないじゃない」
「………」

すとんとクロエがいなくなった場所へ着地しリヴァイに抗議するハンジ。巨人好きの変わり者と言われてはいるが、部下への当たりはリヴァイよりも何百倍も柔らかい。だからかクロエもすごく懐いているし、ハンジと話している時は自分といる時よりも楽しそうなのだ。しかしそれがまたリヴァイのイライラを増幅させる。

「うるせぇ」
「ちょっとリヴァイ!ケガする前にっ…」
「あいつはオレの部下だ!クソメガネは黙ってろ」
「なっ…!」

あまりの迫力に流石のハンジも一瞬怯む。
後から追いついてきたモブリットと入れ替わる様にしてクロエの様子を見にアンカーを飛ばし行ってしまったリヴァイ。「やれやれ…」と呆れながらため息を吐いた。あんな風に他人に自分を干渉されてペースを乱す人間らしさがあったのかと、少し驚かされもした。

「だ、大丈夫ですか分隊長…」
「うん、平気平気。リヴァイは怒ってたけど」
「それは分かりますけど…理由は何でしょうね」
「なんかさー、モブリット」
「はい?」
「彼って、不器用だよね」
「…は?」


不器用な士長
(素直に言えばいいのに。ま、面白いからこのままで)


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