リヴァイ班に入って数ヶ月。
自分を見極め多くの新兵の中から引き抜いてくれた上司のことを知ろうともせず、ただ怒らせないようにとかミスしないようにとか仕事上での事ばかり考えて、リヴァイという人物を見ようとしなかった自分が情けなくなった。

『兵士長怒ってるかな…』

あれから更に小一時間程話し込んでしまったから、今頃は鬼の形相で怒っているリヴァイの姿が脳裏に浮かびクロエの顔が青ざめていく。しかしここで怯んでしまってはせっかくのハンジからのアドバイスが意味をなさないで終わってしまう。

なにも巨人を相手にしてるわけじゃないんだから(ある意味で巨人よりも怖い)と言い聞かせて一度深呼吸をする。一歩一歩足を動かすたびに近づいてくる執務室の近くまで来ると、「オイ…」と低いトーンが背後から聞こえて全身が硬直したように動かなくなった。なんて言うタイミングの悪さだ!と自分の頭を殴りたくなる。

「お前今までどこに行ってた」

ギギギ…と冷や汗ざーざーで振り返ると、そこには案の定すこぶる機嫌の悪いリヴァイがクロエを睨みつけながら立っていた。いや、君臨していた。

『だ、団長に書類を提出して、そ…それからっ』
「……」
『(超怖すぎるっ!)ハ、ハンジ分隊長のお手伝いを』
「ああ?」
『すみませんっ!!すみませんっ!!急を要するとの事だったのでっ』

頭が取れてしまいそうなくらい上下に動かし謝罪するクロエに、リヴァイは思いっきり舌打ちをした。

「まだ仕事が残ってるってのに、クソメガネを優先するとはな」
『す、すみませんっ…』
「謝ればオレが許すとでも思ってんのか」
『い、いえっ…あの…』
「今の書類整理が終わるまで昼メシは無しだ」
『(がーん!)…はい…すみませんでした』

がくっと肩を落としたクロエに表情を歪め自業自得だと畳み掛けると、すっと横を通り過ぎて行ってしまう。目と鼻の先にある執務室へ先にたどり着いたのはリヴァイの方で、そのドアノブに手をかけたと同時にクロエが名前を呼び待ったをかける。

「いいかいクロエ。まずリヴァイに会ったら」
『会ったら?』
「必ず不機嫌全開で話しかけて来ると思うから、会話が終わったらこう言うんだ」


『リ、リヴァイ兵士長っ…あの…!』
「ああ?」

ハンジさん!私、言いますっ。
怖いなんて言ってられるか、ハンジが自分のためにと考えてくれたんだから。クロエはバクバクと破裂しそうな心臓に痛みすら感じながら、深く息を吸って口を開いた。

『こ、ここ最近リヴァイ兵士長とまともにお話ができていなかったのでその…話せて、嬉しいですっ』
「………」

危うく舌を噛みそうになる。穴があったら入りたい状態というのはこうゆうことを言うのだろう。クロエは緊張した面持ちで少しだけ外していた視線をリヴァイに向けその表情を確認すると、悲鳴を上げその場から逃げ出したい気分に陥った。

「はぁ?何言ってんだてめぇは」と言われている様だった。いや、むしろもう表情でそう訴えかけてきていた。まるで汚いものを見るかの様な冷めきった視線がクロエに突き刺さる。

『(ハンジさんんんんっ!!私死にますっ!)』

絶望を感じているクロエをよそに、そんな二人のやりとりを離れた場所から盗み見ていたハンジはガッツポーズを決めていた。

「見ろモブリット!リヴァイの奴が照れてる!第1作戦"兵長。あなたと話せて嬉しいです"成功だ!」
「あれ照れてるんですか!?クロエは絶対勘違いしていますよ!!」
「彼があからさまに頬を赤らめて照れるわけないだろっ!ふふふ、クロエの可愛さを十分に有効活用させてもらうからねリ〜ヴァ〜イ〜」
「分隊長!あんたどんだけ暇なんですか!」


ハンジ分隊長作戦
(オイ…)
(は、はいぃっ…!)
(…他の奴には絶対言うんじゃねぇぞ)
(へっ?)


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