ハンジさん。作戦1ではリヴァイ兵士長に「ああ?クソが気持ち悪い事ぬかすな」と実に冷ややかな視線を向けられたので、見事なまでに大失敗したなと思ったんですが…なんだかそうではなかったみたいです。心なしか兵士長の機嫌が…。

「オイ…そっちは終わったのか?」
『あ、はいっ…どうぞっ』
「ああ」

よくなったように思われます。

執務室。リヴァイに確認し終わった書類の束を手渡し『ふぅ…』と小さくため息ついた。ペンを走らせる音と書類をパラパラとめくる音だけが響き渡っていた最中、今のような短いやり取りがある分先程よりかは随分とマシに思えた。

「あとどれくらい残ってる」
『新兵の育成報告書と、各隊の活動報告及び計画書、隊編成依頼書及び決定報告書…それから』
「ああ、分かったもういい」
『兵士長宛に"巨人についての自論"というのが届いてるんですが…ハンジさんから』
「すぐに捨てろ」
『えっ?い、いいんですか?』
「構わん」
『…(ごめんなさいハンジさん)』

ビリビリと音を立てて無惨にも破り捨てられてしまった数枚の書類がゴミ箱の中に収まったのを見て、リヴァイはいそいそと書類に目を通しているクロエに視線を移した。

「クロエ」
『あ、はい…なんでしょう』
「昼食を取って来い」
『え…でもさっき終わるまではって…』
「明らかに無理だろう。いいから行って来い」

ソファの前に置かれた机の上に所狭しと並べられた書類の山。見ているだけで憂鬱な気分になるとリヴァイは視線を手元の書類に移しながらクロエにそう言った。自分の言ったことを覆すなんて珍しいこともあるんだなと驚きつつも、リヴァイなりの気遣いに優しさを感じる。

『あの、兵士長は…』
「お前が戻って来たら行く」
『……』

頬杖をつきながら面倒くさそうにペンを走らせるリヴァイを前に、次なる作戦を実行する絶好のタイミングが来たと心の中でハンジの名を叫び息を飲んだ。

「作戦2はこうだっ」
『はいっ…!』
「リヴァイを昼食に誘う!」
『!!!!!』


モブリットの様に、正気ですか!?と突っ込みたかったがそれではダメだと自分に言い聞かせた。これはリヴァイという上司を知り、信頼関係を築いて壁外での戦いに備えるというかなり重要な課題なのだから。クロエは意を決してソファから立ち上がると、リヴァイの使用している机の前に立ち極力自然に見えるよう意識し口を開いた。

『兵士長』
「ああ?」
『…(心臓飛び出るっ!)』
「オイ、なんだ」
『よかったら、お昼……一緒に行きませんか?』
「………」

書類から視線を外し目の前にやってきたクロエを見上げれば、頬をほんのり赤く染めて恥ずかしそうにしている部下の姿が飛び込んできた。

「…なんだ」
『へっ…?』
「どうゆう風の吹き回しだと聞いてんだ」
『あああのっ…変な意味ではなくて、兵士長とはあまりそうゆう時間をご一緒した事がないなって思って…だから、そのっ。…すみませんっ』
「………」

穴があったら入りたいですハンジさん!!
これは大失敗です!

そう内心呟いたクロエは分かりやすく両手で顔を隠し平謝りしている。リヴァイはなんだか様子がおかしいと目を細め、一瞬フリーズしてしまった意識を覚醒させるため再びペンを動かした。

『…わ、忘れてください兵士長…』

リヴァイに背を向けとぼとぼと入り口に向かい歩き出したクロエ。肩をがくんと落とし、プライドも羞恥心でさえズタボロにされた気分だった。そんなクロエの後ろ姿を見つめながらリヴァイは小さく口元を吊り上げ、

「食堂で待ってろ」
『…!!』

確かにそう言った。
クロエは自爆しなくて良かったという思いから満面の笑顔で振り返り、『待ってますっ』と執務室を後にした。

「クロエやるじゃん!作戦成功っ!」
『ハンジさん!私もう無理!恥ずかしいです!』
「大丈夫っ。君可愛いから行動が比例してるし」
『いえ、そうゆう問題じゃなくてっ…』
「リヴァイの奴も…ふふふふふ」
『(こわっ)』
「ああちょっと分隊長!仕事サボりすぎです!」

食堂まで続く通路が、いつもより短く感じた。


分隊長のつぶし
(誘ったはいいけど…何話せばいいの…)


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