ハンジに背中を押され、モブリットには頭を下げられ緊張した面持ちで食堂に入った。昼食の時間をとうに超えていたから他の兵士は見当たらず、良くも悪くも貸切状態というやつだった。リヴァイが来るまで待っていようと二人分のトレーを持ち適当な場所に腰掛ける。

ハンジの考えた作戦2は成功したものの、普段からこういった時間を過ごしたことがないため何を話していいか分からず緊張感だけが募っていく。ただでさえいつもとは違う違和感だらけの行動を取っているのだから、変に察しられない様に努めなくてはと水の入ったカップを手にしたその時だった。

ガラッと食堂の扉が開き、はっ!と視線を向ければ表情を歪めたリヴァイがやって来た。急いで立ち上がり『お疲れ様です!』と声をかける。

「うひゃ〜っ、来た来た!私の時はすっぽかすくせに!」
「分隊長頭下げてください!見つかりますっ!」

窓の外から二人の様子を盗み見るハンジとハラハラしているモブリット。クロエの向かい側に腰を下ろしたリヴァイを確認すると、何を話せばいいか分からないと嘆いていたクロエに心の中でエールを送った。

「で、何だ」
『へっ?』
「何か話しがあったんじゃないのか?」

ポケットから取り出したハンカチで水の入ったカップの縁を拭き始めたリヴァイからの問いかけに、クロエはきょとんと少しだけ目を見開いた。

「気持ち悪いぐらいに不自然だぞ、お前」
『えっ、いえ、そんな事ないですっ。自然です』
「それを不自然って言うんだがな」

拭き終わったカップからクロエに視線を移すと、苦笑いを浮かべていた。

『迷惑でしたか?』
「…いや。構わない」
『よかった…』

リヴァイの返答にとりあえず胸を撫で下ろし、水を一口喉に流し込んだ。こんなに緊張した食事を今までに取ったことがない。壁外調査前日ですら、もう少しマシだった気がする。

「そう言えば…」
『はい?』
「…足の調子はどうだ」
『あ…』

先日の立体起動の訓練中。気づかないうちに捻挫していた足の事をリヴァイに言われて思い出したクロエ。緊張し過ぎて忘れていたが、右足にはまだ多少の痛みがあり言うべきか言わないべきか返答に迷う。あまり心配、と言うか迷惑はかけたくないと思ったからだ。

『もう大丈夫ですっ』
「そうか。ならいい」
『…あの、兵士長』
「ああ?」
『あの時、助けて下さって…ありがとうございました』
「改まって礼を言われる覚えはないがな」

カップに注がれた水を喉に流し、用意されていたスプーンをハンカチ越しに摘んで表情を歪めたリヴァイ。大方汚いと思ったのだろう、カップ同様使う前に拭いてからスープの中につけ置いていた。クロエは一連の動作を見つめながら先日の失態に小さくため息を吐く。

「謝るのはオレの方かもな」
『!!…えっ、えぇっ!?』
「なんだその反応は」
『あ、いえっ…だって、兵士長はそんなっ…』
「そんな柄じゃねぇと?」
『うっ……(視線で殺されるっ)』
「ああ。…確かにそうかもな」
『…へ?』

瞳を伏せ、何か別のことを考えている様な表情のリヴァイにクロエは気まずそうに視線を何度か泳がせた。あの人類最強がこんな発言をするなんて誰が予想していただろう。少なくとも自分は出来なかったと、クロエは言葉を詰まらせる。

「お前と居ると、調子が狂う」
『え…?』

小さく呟かれた言葉が、うまく聞き取れない。

『兵士長?今なんて言ったんですか?』
「…なんでもねぇよ」
『え、でも…』
「いいから食え」
『兵士ちょっ…うぐっ…!』
「食べ物を粗末にすんじゃねぇ」
『や、やめれくらはいっ…!』
「ああ?」

何か重要な事を聞き逃したんじゃないかと思い聞き出そうとしたら、代わりに口の中にパンを突っ込まれてしまった。なんて鬼畜な人なんだと思いながらも、これ以上問いただすのはやめようと引き下がることにした。次は何を突っ込まれるか分からないから。

『な、何するんですかっ!』
「食わせてやったんだろうが」
『食わせると言うか押し込むです、今のは!』
「いいから黙って食え。まだ仕事が残ってんだ」
『やっぱり謝ってください…』
「あ?」
『さっき謝るのはオレの方かもなって言ったんで…じゃあ謝ってください』
「ほぅ…いい度胸だなクロエ」

パンを片手にジト目で自分を見つめてくるクロエを同じような視線で睨み付け、額に手を伸ばしパチンとデコピンを喰らわせた。

『いっ…!』
「ブスなツラを見せんじゃねぇよ」
『!!!』

あからさまに嫌な顔をされて怒りのパロメーターがはち切れそうになったが、この後のリヴァイの言葉を聞いて代わりに顔が熱くなるのを感じた。

「お前はバカみたいに、ヘラヘラ笑ってる顔が似合う」
『………』


柄にもいこと
(モブリットー!!今のセリフメモしろ!)
(分隊長!あんた兵長に殺されますよ!)


*前 次#


○Top