クロエ・グレースは優秀だ。
新兵の入団が近づいて来たそんな時期に、調査兵団内に飛び交ったのが彼女の名前とその成績を讃えるものだった。初めは稀にいるんだよなとか、今期生は期待できそうだとか、そのくらいにしか思っていなかったし正直あまり興味がなかった。
この時の私には巨人の調査が全てで、それ以外は蚊帳の外。まあ…それは今も変わりないが、とにかくクロエへの興味は薄く気に留めている暇すら惜しかった。
*
「ハンジは居るか」
「は、はいっ。…あ、いえ…でも今は…」
新兵が入団式を経て調査兵団へとやって来る時期より数ヶ月も前の事。クロエはその実力を買われ本人の意思とは関係なく一人でも多く実戦で戦える者をと言う組織にありがちな人手不足を理由に、半ば強制的に調査兵団へ引き抜かれた。同期たちもその異例な状況に驚きはしたが、クロエならあり得るかと納得していた者たちが多かった為か幸いにも不穏な空気が漂う事態にはならなかった。
そんなクロエの配属先が決まった3日後。分隊長であるミケ・サガリは同じく分隊長であるハンジの元へと訪れていた。寡黙な彼が副官であるモブリットに声をかけると、少し焦りながら背後で謎の興奮状態に陥っているハンジをちらりと見てから申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「うひゃぁ〜!!見たまえモブリット!!」
「…分隊長!ミケ分隊長がお見えです!」
「あの彼!今大砲を浴びて頭を吹き飛ばされたんだけど、他の巨人たちに比べて動きがっ…」
「貴女は人の話を聞く耳を持っていますか!?」
「…いつもアレだ」
『は、はぁ……』
表情一つ変えずにそう言ったミケの後ろで唖然としているクロエは、ぎこちない返事を返す他なかった。調査兵団に志願する奴なんて変わり者だけだなんて言われているだけの事はある。壁の上から遥か真下にいる巨人たちを見下ろし発狂している人物が目の前にいるのだから。
見兼ねたモブリットが無理矢理ハンジの肩を掴み振り向かせると、ようやく巨人から意識が離れミケとクロエの存在に気づいた様だった。きょとんとしているハンジ。メガネ越しに見える大きな瞳と目が合うと、クロエは慌てて身を引き締め直し右手を心臓に重ね敬礼をした。
「もしかしてその子が、噂の新兵ちゃん?」
「クロエ」
『はいっ…』
ミケに促されるまま一歩前に出て所属と名前を口にすると、先程まで巨人に対し異様な興奮を表にしていたハンジがキラキラと目を輝かせながらクロエに駆け寄りギュッとその両手を握りしめた。
そして。
「すんっっごく可愛い!!」
『え…?』
「ちょっと分隊長!」
これがハンジとの出会いだった。
「ミケの班じゃなくて、私の所においでっ」
「決定事項だ、ハンジ」
『……』
彼女の興味のあるもの
(巨人と噂の新兵にご執心)
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