「奇行種だーーっ!!!」
「…!!リヴァイッ!」
「…っ!!??」
「……妹の事、頼んだ」
「よせっ…!」

ーグシャッ!!




「…!!!」

悪夢にうなされ勢いよく上半身だけを起こしたリヴァイ。忘れられるハズのない友の死の記憶がまだこんなにも、色濃く鮮明にこびりついている。汗ばんだ体が気持ち悪くて荒くなった呼吸を落ち着かせるべく一度深呼吸してベッドから降りる。

湿ったシャツを脱いで頭からタオルを被り、そのままソファに腰を下ろす。膝に肘をつき組んだ手に頭を乗せ俯くと、凄まじいスピードで罪悪感の波が押し寄せる。まだ外は暗く、このまま闇に呑まれてしまいそうな錯覚に襲われた。

「最悪な気分だ、エクトル…」

何故あの時、自分を庇って死んだりした?問いかけても返ってくることのない呟きが、夜の静寂に身を潜めてしまった。



朝。

『兵長、大丈夫ですか?』
「ああ?」
『隈が、あの…いつもより酷いです』
「…生まれつきだ」
『寝れなかったんですか?』
「リヴァイは意外と繊細なタイプなんだよ、ねっ」

背後からスキップしながら現れたハンジがリヴァイの両肩に手を置き顔を覗き込む。クロエが言った通りいつもより隈が濃い。そして目つきが悪いのを確認すると、「一晩中クロエのこと考えてたの?」と耳打ちしてみるが、

「どっか行けクソメガネ」

とこめかみを片手で鷲掴みにされ引き剥がされた。

「少し自室で休まれてはどうですか?」
『団長に呼ばれてるんです。…なぜか私まで…』
「え?クロエも?」
『はい』

首を傾げるモブリットに、げんなりした表情で頷くクロエ。また何を言われるか不安でいるのだろう。

「それってさー、ついにクロエが私の班に異動になるんじゃないの!?」
『…!え、本当ですっ…』
「バカか。あるわけねぇだろ、何喜んでんだ」
『しゅん…。すみません…』
「ハンジ、お前もいい加減諦めろ。こいつの異動はオレが巨人に食われた時だけだ」
「それってさあ…」

絶対ありえないじゃん。



ハンジを見事なまでにスルーしてエルヴィンのいる執務室にやってきたリヴァイとクロエ。ソファに足を組んで堂々と座る態度のデカさに驚きつつ、それを何も言わずに受け入れているエルヴィンの器の広さには敬意を払うべきだと思った。

リヴァイは渡された資料に目を通し終えると、それを無言で振り返りもせず後ろに立っているクロエに手渡す。相変わらず態度悪いと感じながらも受け取り目を通すと、なぜ自分がリヴァイとともにここへ呼ばれたかが理解できた。

「オレはお前に、こいつ一人のお守りで手一杯だと言ったハズだが?」
『うっ……』
「ああ、聞いた。だからこの間の実戦訓練を見させてもらったんだが…」
『えっ…!見ていらしたんですかっ!?』
「想像以上に素晴らしかったよ。さすがはリヴァイの部下だな」
『エルヴィン団長〜っっ…』

キラキラと目を光らせて涙ぐむクロエに、ちっと舌打ちをするリヴァイ。いつも罵倒されてばかりいるから、上官からの褒め言葉が100倍近く美化されて聞こえるのだ。しかもそれが調査兵団トップの人間の言葉なら尚更。

「このバカ面を見て、壁外で手がかからねぇと?」
『(ひどい!)へ、兵長…』
「リヴァイ。お前はそうならない様あえてクロエ以外の部下は付けず、この半年間彼女を教育して来たんじゃないのか?」
『え…?』
「……だとしたらなんだ」

確信を突かれ表情を歪めたリヴァイがエルヴィンを睨みつける。

「一班お前に預けたい。前回の壁外調査で亡くなったクリストフの代わりがまだ選出されなくてな」
「…ハンジ辺りにやらせればいいだろうが」
「ハンジには別の作戦を指揮してもらう事になっていてな。任せられるのはお前しかいないんだ、リヴァイ」

さすがは兵士長という肩書きを持つリヴァイだと話を聞いていて思った。こんな風に部下の命を任せられるのは実績のある彼だからこそで、人を導いていける能力があるから。リヴァイ班として壁外調査に参加するのは今回が初めてとなるが、訓練をしている中でもそのずば抜けた能力の高さには何度も感心させられた。

初めは特別作戦班なんて自分には荷が重いとプレッシャーに押し潰されそうだったが、今ではリヴァイの元で巨人討伐に尽力できることを誇らしく思っていたりする。

「あまり気が進まねぇな…」
「クロエ、君はどう思う」
『えっ…!?わ、私ですかっ?』
「共に行動する仲間が増えるという事に関して」
『…そ、そうですね…』

話を振られるとは思っていなかったクロエは言葉を詰まらせながら顎に手を乗せ考える仕草をとった。正直自分がミケの隊に居たのは1ヶ月あまりと実に短い期間だった為、複数での班行動を語るには経験が乏しすぎる。しかし今回エルヴィンが任せたいと言っている隊の人間は自分よりも多くを経験している先輩たちで、楽観視してしまえばいいんじゃないだろうかという答えに辿り着いた。

『…あの、正直私は新兵なので何とも判断し兼ねるのですが…』
「ですが?」
『リヴァイ兵長以外に、適任者がいるとは思えません…』
「オイ…」
『怖いです、睨まないで下さいよっ…』
「オレが受け入れればお前にもしわ寄せがいくんだぞ」
『受け入れても受け入れなくてもいつも二人でシワ寄せのなすり付け合いしてるじゃないですか』
「お前が他の隊の連中の手助けばかりしてるからだろうが」
『違います。兵長が掃除ばかりしているからです』
「てめぇ…」
「ゴホンッ」

数ヶ月前までは見られなかった光景に苦笑いを浮かべた。あれだけリヴァイを前に怯えていたクロエも、今では反論もするし食ってかかる程にたくましく成長している。ただ自分の前での口論は控えろという意味を込めて咳払いをすると、リヴァイは舌打ちクロエは焦りながらすみませんと平謝りした。

「ならこうしよう」
「ああ?」
「クロエがお前の足枷となる様なら今回の壁外調査ではハンジの下に付ける。そうすれば他の3人との連携も取りやすくなるだろう」
『…!私、ハンジさっ…ハンジ分隊長の元に行けるんですか!?』
「ふざけるな。なんだその条件は」
「話を聞いていれば、お前の気がかりはクロエだろう?」
「…ちっ。オレが断れないと分かって言ってんだろ」
「いいや?選ぶのはお前だ」

清々しい程に全てを見抜いているエルヴィンは、白々しい笑顔を浮かべてリヴァイを見据えている。そんな自分を試すような視線が気に入らず表情を歪めると、エルヴィンはソファから立ち上がり一冊のファイルをリヴァイに手渡した。

「明日から配属させる。特別作戦班ではないが、頼んだぞ。リヴァイ、クロエ」
『は、はいっ…!』
「ちっ。…面倒くせぇな」


壁外調査にけて
(手離す気はない。どんなことがあっても)
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