「リヴァイが泣かせた」
「ああ?」
「君が怖いからだよ。目つき悪いし」
「本当にてめぇの脳内はクソだな」

自分が泣いていたなんてつゆ知らず、目元に触れてみたらハンジの言う通り湿っていた。ああ何してるんだ自分!と焦り出すと同時にリヴァイからハンカチを渡され「拭け」と一言。

『あ、あのっ…これは多分目が乾燥してっ』
「ずっと閉じていて乾燥するわけないでしょ?」
『うっ。…ゴミが入ったのかも』
「気遣って誤魔化すんじゃねぇよ」
『…すいません』

受け取ったハンカチを目元に当てながらしゅん…とうな垂れるクロエ。リヴァイがベッドの縁に腰を下ろして足を組むと、聞きたかった疑問を全て説明してくれた。クロエが巨人の気を引く為の動作に入った直後、そのあまりの早さに姿を見失ったドニーがアンカーを射出。本来であればそのまま頸を削ぎ落としにかかればよかったのだが、何を焦ったのか射出してしまったワイヤーがクロエのそれと交わり勢いよく体勢を崩したクロエが目の前に迫った巨人のオブジェに激突し、落下。

寸前にリヴァイが助けてくれたからよかったものの、地面に叩きつけられていたらと考えると恐ろしい展開だった。それからすぐに医務室へと運んだが生憎の満室で仕方なく自分の部屋で休ませる事にしたんだとか。

『…兵長のベッドですか…』
「何か問題でもあんのか」
「大丈夫だよクロエ!リヴァイは兵団一綺麗な男だから」
「やめろその言い方」
『す、すみませんっ。すぐに退きますっ』

人類最強リヴァイ様のベッドを借りるなんて一大事だ!と急いでベッドから降りようとするクロエに「安静にしてろ」と待ったをかけたのは、そのリヴァイ。起きたなら出ていけ、ぐらいに言われると思っていたからその予想外の言葉には驚きを隠せなかった。

「もう少し休んでいなよクロエ。君さ」
『は、はい…?』
「ここ半年は慌ただしかったし、心身ともに疲れてるんじゃない?自分が思ってる以上にさ」

心配そうな笑顔を浮かべているハンジに、いつもと変わらない表情のリヴァイに見つめられ気まずそうに俯いたクロエ。せっかく自分なんかを認め引き抜いてくれたのに、迷惑をかけてばかりじゃないかと少し悔しい。それに、泣いていたのはきっと疲れなんかじゃなくて…兄であるエクトルの夢を見たからだろう。

『…い、いえ…大丈夫です。訓練に戻ります』
「クロエ、そんな無理したら…っ」
「ダメだ」
『兵長…』
「怪我でもされて壁外調査に支障が出たら困るからな」
「もっと素直に言えばいいのに」
「うるせぇよ。早く失せろ」
「えーっ!!何それひどいじゃない!」

キーキー騒いでいるハンジに鬱陶しそうな視線を送り退場を願うが全くもって効果がなかった。むしろ近くにあった椅子を引っ張って来て腰を下ろしたものだから、もう何も言うまいとため息をついた。

「話し相手なら付き合うよっ」
『え?』
「なんなら、私の巨人研究の話をしようかっ?」
「よせ。聞くに耐えん」
「…つまらない反応だと思わない?」
『あはは…』

ぶすっと表情を歪ませてリヴァイを指差すハンジに同意を求められるが、後が怖いので苦笑いを浮かべるしかできなかった。

「ねぇクロエ」
『はい?』
「何か、怖い夢でも見てたの?」

どうしてもクロエが泣いていた理由を突き止めたいハンジからの問いかけに、図星を突かれなんとも言えない表情で『怖い夢とゆうか…』と言葉を濁す。

『…兄の夢を、見てました』
「えっ…」
「………」

その瞬間、明らかに二人の顔色が変わった。

『幼い頃の夢だったんですけど、懐かしくなったのかな』
「…エクトルのね。そっか…」

表情を少しだけ曇らせたハンジを不思議に思う。以前ヘイズがエクトルの話を出した時リヴァイの前ではタブーだとオリヴィアが咎めていたし、どうしてだろうと疑問ではあった。さぞ仲が悪かったのか、周りから好かれていなかったのか…優しく明るかった兄に限って周りから好かれないなんてことはないと思うのだが。

『あの…ずっと気になってたんですけど…』
「な、なにを?」
『…リヴァイ兵長と兄は、仲が悪かったのですか?』
「ああ?」

やはり聞いてはマズかったと思わせてくるほど眉間にシワを寄せたリヴァイ。これはただ仲が悪かったなんてもんじゃないぞ…とハンジに救いを求めるべく視線を移せば「その逆だから」と呆れたような表情で答えてくれた。

「一番仲が良かった、だよねリヴァイ」
「…別に仲良くねぇよ」
「いつも一緒にいたくせに」
『そうなんですか?』
「エクトルはいい奴だったよ。リヴァイと違って愛想もいいし明るいし。とても仲間思いで実力もあったしね。でも…」
『でも?』
「よくルールを破る奴だった」


兄の軌跡を辿って
(その度にリヴァイに怒られてた)
(す、すみませんっ)
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