私の大好きな部下、クロエ・グレースは確かに言った。粗暴で神経質で潔癖野郎なあのリヴァイを、"まだ"好きではないと。それまでの話の流れは恋愛云々な感じだったし人として好きか嫌いかではないことだけは確かだろう。だとしたらこれからリヴァイを好きになる確率があるというかなり面白い展開に、私は大いに期待した。

「ま、まだってどう言うことクロエ!」
『ち、ちがっ…!違いますオリヴィアさん!』
「やっぱりかぁ〜。君は兵長に懐いているもんね」
『ヘイズさん誤解ですっ』
「い、いつからそう思い始めたの!?」
『ハンジさんまでっ…!てゆーか言葉の誤です!つい勢い余って言っただけって言うかっ』

クロエの発言にぽかんと口を開け衝撃を受けているモブリットとドニーを除いた他三名が、少々興奮気味に食いついて来る。こういった浮いた話は兵団内でも滅多に…と言うかタブー視されているし、恋愛なんてしている余裕がないから余計に盛り上がりを見せる。しかもそれがリヴァイというビックネーム相手なら尚更だ。

「恥ずかしがることないわよクロエ。私たちは寧ろ、こんな展開を期待してたんだもの」
『い、いやですからっ…』
「そうだよ。初恋の相手がリヴァイ兵長かぁ〜」
「リヴァイが聞いたらどんな顔するかなぁっ」
『ハンジさん!?絶対、ぜーったい!言わないで下さいよ!?いや、なんの感情もないんですけど…ホントにやめて下さいっ』
「大丈夫だよ、私だってそこまで野暮じゃないさ」

ウィンクして親指を立ててくるハンジを見つめながら、ホントに大丈夫なの?と疑いの眼差しを向ける。こんなことを言っていてもしばらく経つと忘れてしまって、うっかりリヴァイに口を滑らせてしまうんじゃないかとハンジにいたっては心配になる。
クロエが頬を染めながら慌てふためいていたその時だった。ガチャッという扉が開く音と共に今一番ここに来てはいけない人物が現れたのは。

「(噂をすればなんとやらだっ!)」
『(ちょっと、最悪ですよ!私顔見れませんっ)』
「(ふふふっ。クロエ絶対呼ばれるわよ)」
「(顔赤くなってるから落ち着いて)」
『(人ごとみたいに言わないで下さいよ!大体原因はっ…)』
「オイ、クロエ」
「「「(ぶふっ…)」」」
『は、はいっ!』

モブリットは青ざめドニーは放心状態。他三名は吹き出しそうになる笑いを何とか耐えながら肩を揺らしている。クロエは勢いよく立ち上がると冷や汗をかきながらリヴァイに視線を向けた。
なぜかは分からないが顔を赤くしている部下に違和感を覚えつつ、リヴァイは「ちょっと来い」と一言そう伝えるとニヤついた顔でこちらを見ているハンジを睨みつける。

「リ〜ヴァ〜イ〜」
「ああ?」
「へへっ。なんでもないよ〜」
「なんだてめぇ。気色悪い顔しやがって」
『あ、あのなんですか兵長…』
「ふふふっ(何照れてるんだよぅクロエ!)」
『(ハンジさん静かにして下さい!兵長怪しんでますっ)』
「…仕事だ。いいから早くしろ」
「(早く君と居たいってっ…はーっ、笑える!)」
「(ふふふっ、ダメですよ分隊長っ。笑わせないで下さいっ)」
「(アンタ殺されますよ…!)」
『す、すぐ行きますっ』

ガタンと慌てながら椅子から離れリヴァイのもとへ駆け寄るクロエ。今しがたハンジたちからからかわれた内容が妙に頭の中にこびり付き、リヴァイの顔を見れず俯き加減で後について行った。
食堂に残ったハンジたちは顔を見合わせると吹き出して笑い、モブリットは苦い表情ドニーは変わらず放心状態で一点を見つめていた。

「あーっ、面白いもの見れたなぁっ」



ハンジたちと別れた後、リヴァイと共に明日の物資や必要な資材などの点検に回り夕方までバタバタと本部内を歩き回っていた。忙しいにも関わらず昼間言われたことを思い出すと妙にリヴァイを意識してしまって、いつもみたいに平常心でいることができなかった。
途中熱でもあるのかと額に手を当てられたものだからびっくりして悲鳴を上げてしまい、かなり怒られたことはしばらく引きづりそうだ。壁外調査前日にとんでもないことを言ってくれたと、今回ばかりはハンジたちを少しばかり恨んだ。

『はぁぁぁ〜…』

疲れた〜と小さく呟きながら建物の屋上から夜空を見上げる。ゆっくりと腰を下ろしてキラキラと輝く星を視界に収めると、慌ただしかった時間の流れが穏やかになっていく感じがした。
明日はいよいよリヴァイ班に配属されてから初となる壁外調査の日。今回は初列の索敵を担うため、一番多く巨人と戦うことになるとリヴァイは言っていた。無事に帰って来れる保証はないが死にたくもない。どうなるかは分からないが自分のやれる事をやろうと、ただそれだけを考えるようにした。

「まだ寝てなかったのか」
『えっ…?』
「風邪引くぞ」
『わっ…』

ばさっと頭に落ちて来たブランケットに視界を遮られる。声の主が誰かはすぐに分かったが何故ここに居るのかが分からなくてとりあえずブランケットを取ると目の前には無表情のリヴァイが立っていて驚いた。

『兵長…何でここに?』
「見回りだ。お前みたいな規則違反者がいねぇかのな」
『すっ…すみませんっ』
「そういうところは兄貴そっくりだ」
『…見逃してくれますか?』
「ああ?」
『嘘です。是非裁いてください』
「明日死ななきゃ見なかったことにしてやるよ」

そう言ったリヴァイはクロエの隣に腰を下ろすと膝を立て、その上に腕を置いて夜空を見上げた。ここでこうして天井のない綺麗な空を見上げていると、イザベルやファーランそしてエクトルと他愛もない会話をしていた夜を思い出す。

『星がきれいですね』
「ああ…」
『生きて帰って来れたら、また見れるかな』

キラキラと輝く星から隣に座るクロエに視線を移すと儚げな表情で夜空を見上げている姿が映り込み、月明かりに照らされた横顔がやけに綺麗で胸の辺りがトクンと高鳴った。

「生きて帰って来れるかじゃねぇだろ」
『……』
「生きて帰って来るんだろうが」
『兵長…』
「死んだら許さねぇからな」

クロエから視線を外し星空を見上げてそう言ったリヴァイはどこか寂しそうに見えた。いつも無表情で何を考えているか分からないけれど、大切な仲間や友、多くの部下の最後を目の当たりにして来たリヴァイの悲しみは計り知れない。
自分の力がどこまで通用するかは分からないし、過大評価することもできないが絶対に死んではいけないと思わされた。

『リヴァイ兵長』
「?」

名前を呼ばれ視線を向けるとクロエは肩が触れるか触れないかのところまで距離を詰め、膝を下ろしたリヴァイの足にもブランケットを掛ける。予想外の行動に意図を掴もうとするが思考がうまくついて行かなかったのですぐ諦める。悪い気はしないが驚いた表情を浮かべているリヴァイとは裏腹に、クロエはふわりと柔らかい笑顔を浮かべ星空を指差した。

『見てください、あの星が一番綺麗に光ってる』
「…オイ」
『昔兄が教えてくれたんです。たくさんある星の中で、一番綺麗に光り輝いてる星に願い事をすると叶うんだって』

だからいつも願っていたんだ。
大好きな兄さんが、無事に帰ってきますようにって。

『兵長も願い事してみてください』
「ガキくせぇな」
『いいからっ』

手を組んで目を瞑って、今一番思う事を願うクロエ。リヴァイはそんな姿を横目にもう一度星空を見上げると、エクトルがただ思いついただけであろう願掛けに付き合ってみることにした。なんの犠牲も払わずに、成果を出すことが出来ないのは分かってる。けれど、それでもまたこうして…失いたくないと思ってしまった部下と一緒に星空を見上げることが許されるのなら。

『なんてお願いしたんですか?』
「…お前が小便チビらねぇようにって頼んでおいた」
『酷くないですか?』


またこうして、あなたと…。
(そんな願いを、心の中でつぶやいてみた)
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