壁外調査から二週間が経過した。
この頃になると、膨大な量の書類整理、その他の業務が落ち着き始め、今まで目を向けることのできなかった次なる課題と向き合うことになった。
「無理です…兵長……俺はっ…もう…戦えませんっ」
満員になった医務室で、今後の配属先を再選定するため、負傷兵一人一人と可能な限り面談していくリヴァイ。
「すみませんっ……リヴァイ兵長っ…」
「そうか。解った。今はとにかく休め」
「……うっ…うぅ…すみませんっ……」
最後の一人の言葉を聞き終えたリヴァイが、穏やかな声色で涙を流す負傷兵に"よくここまで励んでくれた。"と労いの言葉をかける。兵士長という立場上、戦力の把握は優先事項で、決して目を背けることのできない大変な役回り。小さくも多くの命を背負った背中を見つめながら、クロエはやりきれない思いを抱える。反面、自分がしっかりしなければとリヴァイに続き医務室を後にした。
「兵士として復帰可能な奴らは数人ってところか」
『負傷兵が三十人なので、半分以下ですね』
「まあ無理もねぇ。むしろ多いほうだ」
『………』
「仕方ねぇが、入団予定の訓練兵の中から使えそうな奴を頭数に添えるぞ。次の壁外調査までに…」
『あの、リヴァイ兵長』
「なんだ。人の話を遮りやがって」
持っていた書類の束を抱きしめて、先を歩いていたリヴァイの隣に駆け寄るクロエ。視線を向けると気難しそうな横顔が映り込み、似合わない顔をしていると内心つぶやいた。
『…改めてあの、ありがとうございます』
「あ?」
『腐りかけてた私を、見放さないでいてくれて』
ここには、ケガの回復を待ちながら仲間の死を糧に前進しようとする者たちと、恐怖やトラウマから戦えなくなってしまった者たちがいる。中でも深刻なのは精神を病み、廃人のようになってしまった者がいるということ。ベッドの上からただ呆然と天井を見つめ、まるで時が止まってしまったかのような姿を目の当たりにした時、人事とは思えなかったクロエ。
自分もああなっていたかもしれないと思うと、自然とリヴァイに感謝しなくてはと強く感じた。
今でも心の傷は消えないが、無情にも過ぎていく時間が悲しみをわずかに癒し、そして自身の前を歩くリヴァイという存在が背中を押し続けてくれている。
『兵長がいてくれるから、前に進もうって勇気が湧きます』
「…………」
口調を強めて決意を新たに。といった表情で顔を向けてきたクロエからは、自分を慕っているという思いがひしひしと伝わってくる。優秀だが手をかけてきた分嬉しくないわけでもなく、緩みそうになる口元にわざと力を入れていつも通り眉間にシワを寄せた。
「なんだいきなり…気持ちの悪い奴め」
『えっ…(ガーンッ!)』
「別にお前に感謝されるようなことはしてねぇよ」
『あ、いや…でもあの…兵長のそばで働けて嬉しいなって…』
「前から感じてはいたがお前、相当変わってるな」
『…え、前から思ってたんですか…?』
「ああ」
『(ショック!)』
ビー玉のような目をさらに丸々と見開いて、心臓当たりに両手を重ねるクロエ。からかい甲斐のある奴だとわずかに口角を上げたリヴァイが、落ち込む部下の頭に手を置き無関心を装いながら口を開いた。
「オレが死ぬまでこき使ってやるから安心しろ」
『…兵長っ…それって…!この先もずっとリヴァイ班に置いてくれるってことですか!?』
「…かもな」
ひらりと離れていったリヴァイの手のひらを視線で追いながら、目を輝かせるクロエ。
『リヴァイ兵長の右腕になれるように、私頑張ります!』
また偉く大きくでたものだと、忙しなく変わる表情にフッと笑みを浮かべるリヴァイ。
何気ないやりとりを通して、束の間の平穏を感じた。
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