「やっぱりリヴァイ兵長っておっかねぇ」
「強いのは分かるが、近寄りがたいよな」
「さっきなんて一人で巨人を3体相手にして倒しちまうし…」

どっちがバケモンか分かんねぇよ。

数ヶ月後に予定された壁外調査に向けて、壁の外周に集まった巨人の討伐に出向いたリヴァイ班とハンジ率いる第四分隊。そして半月前に入団した今期の新兵たち。本来であれば、クロエもこのタイミングで巨人を初めて目の当たりにするはずだった。

巨人たちよりも遥かに大きな壁の上へ戻って来ると、これまた初めて人類最強と呼ばれる男の活躍を目の当たりにした新兵たちがその強さに恐怖しそんなことを言っているのが聞こえて来た。リヴァイに恐れを抱くのは何も新兵だけじゃない。何年も調査兵団にいる者でさえ、やはり同じように感じる者はいる。

神経質で潔癖症、粗暴で非常に口も悪い。
目つきだけで人を殺せるんじゃないかと思った時期もあった。彼の過去を知れば納得のいく部分もあるのだが、それを知ったとしても親しみやすい人物ではないだろう。だから初めは心配だったのだ。あのエクトルの妹が入団一ヶ月そこらでリヴァイの部下になると聞いた時は。

『リヴァイ兵士長ーっ!』

立体起動装置をまるで自分の手足のように使いこなし、綺麗に壁の上へと着地したクロエが少し離れた場所で汚れた手を拭いているリヴァイに駆け寄って行く。その姿は意気揚々としていて、とても今巨人を討伐してきたとは思えない。合わせてなんの躊躇もなくリヴァイの元へ近づいて行くものだから彼を恐れる者からは物珍しげな視線を向けられていた。

「汚ねぇ」

返り血を浴びたクロエの姿を見て、リヴァイは躊躇なく表情を歪めそう言った。

『…え、じゃあそのハンカチを貸して下さい』
「オイ、汚い手で触るなっ」
『酷いです!巨人を倒したばかりの部下に!』
「汚ねぇモンを汚ねぇと言って何が悪い」
『兵士長は口が悪いです。汚いです』
「てめぇ…いい度胸だな」
『あ、いいんですか?触っちゃいますよ』
「…!よせ、今拭いたばかりだぞっ」

リヴァイ相手にあんな接し方ができるのも、この半年間で築き上げた関係とクロエ・グレースという人間の魅力があってこそなのかもしれない。血のついた手をリヴァイに向けながらからかっているクロエの笑顔はこの殺伐とした調査兵団の中では貴重そのもの。
ハンジは少し離れた場所から二人のもとへ歩み寄りながらそんなことを思っていた。

「ほら、貸してやるから近づくな」
『リヴァイ兵士長酷すぎます』

渡されたハンカチを受け取り少しだけ頬を膨らませて怒るクロエ。そんな彼女の両肩に背後から手を置き登場すれば、不服そうだった表情が一瞬で輝いたものだからこっちまで嬉しくなった。

「見事なまでの潔癖症だね、リヴァイ」
『あ、ハンジさん!』
「お疲れ様クロエ。いい動きだったよ」
『本当ですかっ?』
「うん。とってもね」

にこやかに声をかければキラキラと輝く瞳。
まるで忠実な犬が主人を前に尻尾を振って喜んでいるように見えて可愛いと感じた。が、クロエのその態度をいつも気に入らないと表情を歪める人物が一人。

「顔怖いって」
「クソメガネ。てめぇも汚ねぇ手でクロエに触るな」
「え〜っ!それは酷いよリヴァイ〜」
「汚れが拡散するだろぉが」
『私のこと散々汚いって言ったくせに』
「返り血が汚ねぇと言ったんだ。誰もお前だとは言ってない」
『そんなの屁理屈ですよ。ね、ハンジさん』
「ね、クロエ」
「てめぇら巨人の餌にするぞ」

この空気感が好きで。

『リヴァイ兵士長ハンカチお返しします』
「ふざけるな。きちんと洗ってから返せ」
『なんで私が貴方の私物まで洗濯しなくちゃいけないんですかっ』
「ああ?借りた上に汚しといてなんだその言い草は」
「そうだよリヴァイ。女の子って言うのは好きな異性にしか尽くさない生き物なんだよ」
「黙れ奇行種。削がれてぇのか?」

ついつい、ちょっかい出したくなるんだ。


いるから
(それは私のかわいい部下の一人)


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