憂凪を見ていると、失った古い友を思い出す。
己の生まれた役割を全うしようとする姿勢には、常に一片の迷いもない。月色に輝く彼女の瞳の奥には、幼い頃から強い覚悟が宿っている。直向きな努力家で、失敗しても挫けることはない。そして何より、憂凪も旧友と同じように人から関心を抱かれるような優れた性質を持ち合わせている。
同じ育手から戦う術を学び、旧友を慕っていた継子は、今も彼から貰った耳飾りを大切に身に付けていて…、

『義勇さん』
「…………」
『約束を破って…すみませんでした』

雫型の綺麗なそれを視界に収める度、昔と変わらず…今も錆兎に嫉妬してしまう自分がいる。
彼がこの世に居ないにも関わらず。

「そんなに炭治郎達が心配なら」
『…?』
「しばらく蝶屋敷で世話になればいい」

錆兎なら、「継子ならば師範との約束は守れ!」と強く言っていただろうか。縁側で刀の手入れをしながら感情が読めない声色でそう言った冨岡に、憂凪は疑問符を浮かべながら表情を歪めた。

「どうせお前は、俺との約束を守らないんだからな」
『…義勇さんだって、私との約束全然守ってくれないじゃないですか』
「…は?」

言われて隣に顔を向けると、頬を膨らませて自分を睨む憂凪がいた。何のことだと言わんばかりに首を傾げると、『惚けてますっ?』と指を指された。

『義勇さん任務中、"待機命令"使って私を置いてきぼりにしないで下さいってお願いした時、分かったって言いましたよね?』
「…………」
『でも義勇さん、今も散々置いてきぼりにしますよね』
「…………」
『師範に無視される継子の気持ち分かります?』
「分からないし、お前はそれすらも守らないだろう」
『うわっ。…言い方…』

ぴしゃりと言い切った冨岡が、刀を鞘にしまい側に置く。
普段全然喋らないくせに、口を開いた時の物言いが直接的すぎてグサリとくる。今に始まったことではないし、昔からそうだったからもう慣れはあるが…。

『…義勇さんは、私が継子で不満ですか?』

想いを寄せる相手からの直接的な言葉はやはり、面食らう。はぁ…と肩を落とし冨岡から顔を背ける。錆兎と冨岡、兄弟子二人の背中を追い修行する日々が楽しくて仕方なかった。苦しい日が無かったと言えば嘘になるが、共に切磋琢磨し合うそんな関係がこの先もずっと続くと思っていた。
錆兎たちの死を知るまでは。

「そんな事は誰も言ってない」
『だって、昔から義勇さん…私のこと全然認めてくれないし』
「…………」
『錆兎さんや真菰さんに認めてもらえても、義勇さんには…』

不安や心配ごとを抱えると、憂凪は無意識のうちに耳飾りに触れる。彼女の癖のようなものだ。きっと、慕っていた錆兎の面影を感じることで、精神を落ち着かせているのだろう。本来ならばその役目は、師範となった自分が担うべきなのだが…。ついて出た言葉は…、

「お前だってずっと、俺じゃなく錆兎を慕っているだろう」

そんな嫉妬にまみれた、醜い心情だった。



*前次#