『炭治郎、善逸くん、伊之助くん。こんにちわ』
「ああっ!憂凪さっ…」
「憂凪さぁぁァァァンッ!!!」
「来たな半々羽織弟子!俺と勝負しろ!」
蝶屋敷の医務室を訪ねると、訓練開始前の三人と会うことができた。ベッドの上で上半身だけを起こし笑顔を浮かべる炭治郎に、拳を握りベッドの上に立っている伊之助。善逸は例の如く大好きな憂凪に突撃し、縋り付くようにして抱きついた。一応怪我人ではあるが、三人はいつも騒がしく元気で何よりであると憂凪はふわりと微笑んだ。
「あれ…?」
『ん?』
「(ギャァァ!首傾げただけなのにかわいいっ!!)」
『どうしたの善逸くん?』
腰あたりに縋りついていた善逸が憂凪を見上げると、いつもとは違う違和感に気づき疑問符を浮かべた。
「いつも付けてる耳飾り、どうしたんですか?」
『あ、ああ…。あの耳飾りはその〜…』
「大事な物だって言ってませんでしたっけ?」
そう。その通りだよ善逸くん。と心の中で訴えながら、憂凪はここに来る前の師範とのやり取りとを思い出し苦い表情を浮かべた。
*
『え、普通に嫌です。何でですか?』
「いいから外せ。俺が預かる」
『だから嫌ですよ。これは錆兎さんから貰った大事な物です』
今まで外せなんて言ったことないくせにどうして今更?と納得のいかない表情を浮かべる憂凪を前に、冷静な視線を保っていた冨岡の眉が八の字に歪んだ。
「やはり俺より錆兎か…」
『(ぎょっ!)え、あ、義勇さんっ?違います、あのっ…』
「…………」
憂凪に向けていた視線を伏せ、小さく肩を落とした冨岡。普段は絶対に拝むことのできないその艶めかしく切なげな表情に、継子の理性が悲鳴を上げた。
『ち、違います義勇さんっ…そうゆうことじゃなくて…』
「………」
『…〜っ。わ、分かりましたよっ…!』
無言の圧力というものに耐えきれず、葛藤したのち溜息混じりに降参した憂凪。その回答を聞きパッと顔を上げた冨岡が立ち上がり、ぶつぶつ文句を言っている憂凪の前に移動し腰を下ろす。
そして、え?なに?と耳に手をかけながら驚いた表情を浮かべている憂凪に腕を伸ばし抱きしめた。
『!?』
「ありがとう、憂凪」
『え、あ、えっ?あの、義勇さんっ…??』
「大切な物だと分かってはいるが…」
『……っ?』
「それを見ると…少し不安になる」
お前の気持ちが、錆兎にあるんじゃないかって…。
*
あんなことを言われれば外す。
外すしかないよ。
と、一人うんうん頷いている憂凪に首を傾げる善逸。三人にはそんなことがあったなんて口が裂けても言えないので、壊れてしまったから修理に出したと説明をした。
「綺麗な耳飾りでしたもんね。俺も自分のを大切にしてます」
『炭治郎の耳飾りも素敵だもんね』
「えへへっ。ありがとうございますっ」
「憂凪さんに褒められるなら俺も耳飾り付ける!!」
そのあとも訓練が始まるまで、ぎゃーぎゃーと騒ぐ善逸と伊之助を宥めながら四人で他愛も無い会話に花を咲かせた。今年はいい新人隊士が入って来たなあと改めて感じていた、その刹那ー。
医務室の戸がパァンッ!と開き、仏頂面の水柱が姿を現しその場の空気を一変させた。
「憂凪」
『え、私今日は約束破ってませんよ!』
「そうゆう問題じゃない。帰るぞ」
『みんなぁぁあっ…!』
グワシッ!と首根っこを掴みずるずると憂凪を強制連行していく冨岡。先日見た全く同じその光景に、炭治郎と善逸は顔を引き攣らせて両手を合わせた。
「また半々羽織に取られたぞ!クソッ!!」
いつになったら手合わせさせてもらえるんだと、伊之助は地団駄を踏んだ。
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