き、きた……ついに、ヒーロー基礎学の時間が!
「オールマイトだ……!! すげえや、本当に先生やってるんだな……!!!」「銀時代のコスチュームだ………………! 画風違いすぎて鳥肌が…………」
テレビの液晶を介さないこの距離に、あの、オールマイトがいる。アメコミヒーローさながらに青と赤のマントが靡き大きな笑い声が響く。
相変わらず画風が違うなぁ……!
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為の様々な訓練を行う課目だ!! 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」
そう言ったオールマイトは大きな身振りと一緒に『BATTLE』と書かれたカードを突き出した。
「そしてそいつに伴って……こちら!!! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……」
教室の左の壁が、ガゴッ、と音を立てた後、少しの震えと共に壁から4本の柱のようなものが飛び出してきた。壁から生えたその中には数字のふられたケースが5つずつ収納されている。
「戦闘服!!!!!!」
「おおお!!!!!!!!」
タメの後にオールマイトが言い放ったそのワードが壁の中のケースを示すことを理解して、教室中が歓声を上げた。
私のコスチューム。午前中は拍子抜けなほどの普通の授業だったけど、やっぱり私がいるのはヒーロー科なんだと強く実感して手が震える。戦闘訓練は不安だ。でも、わくわくせずにはいられない……!
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
「はーい!!!」
みんなの大きな返事に私の小さな声を紛れさせた。隣の席の人にすら聞こえないような声だったに違いないけど。
「木空ちゃん!」
「ひっ」
みんなが自分の出席番号の書かれたコスチュームのケースを受け取りにいく中、喜びを噛み締めていたせいで少し出遅れてしまった私が自分のケースを受け取って教室のドアを潜ろうとした時だった。
「と、透ちゃんかぁ……」
「あはは、木空ちゃんすぐびっくりするね」
私を待っていてくれたらしい透ちゃんにお礼を言って二人で女子更衣室に急ぐ。このだだっ広い校舎内を誰かと一緒に行動できるのはとても安心する。まぁ、透ちゃんだって私と同じ新入生なんだけど。
辿り着いた更衣室を覗いてみるともうみんな着替えだしていたので慌ててドアを閉める。なるべく端の方の空いているロッカーに移動してネクタイに手をかけた。クラスメイトと言えどほとんど会ったばかりの人たちと着替えるのは気恥しいなぁと思って隣に少し目をやれば、そこにいたはずの透ちゃんの姿がない。
「えっ?」
あれ、透ちゃんは?
「? どうしたの?」
先程まで彼女がいたはずの空間に視線をさまよわせ続けていると、何もないはずのそこから透ちゃんの声が聞こえた。
「……もしかして、今、服……」
「私の個性、透明化だって言ったじゃんー」
思わず顔の温度が上がってロッカーの方に向き直る。つまり透ちゃん、今……………多分私の顔は真っ赤になっている。見えないとはいえそれは女子として流石にどうなんだろうか。隣から笑い声が聞こえてきたので私も少し笑い返した。だいぶぎこちない苦笑いだったと思う。
「うわ! 清浄のコスチュームすごいね!」
「そ、そうかな……? ちょっと恥ずかしいな……み、三奈ちゃんの可愛い! とっても似合ってる……!」
「えへへ、ありがと! 清浄も似合ってるよ!」
三奈ちゃんのコスチュームは緑と紫の迷彩柄? のオールインワン? にファーのついた丈の短いノースリーブのベスト。だ、だめだ私のファッションセンスでは疑問符だらけで全然表現できない……。とりあえず、彼女のピンクの肌にはぴったりだ。
対して私は、ざっくり言うと体にパイプが巻き付いたものだ。服の裾にファーがあしらわれているところと色が明るいところがちょっと三奈ちゃんと似てるのかな。
私のコスチュームに埋め込まれた柔軟性のある軽くて細長い管は手足を先まで辿っていた。管を手首へ運ぶために長袖にはなっているがシースルーになっているので腕が見えてしまうし、なぜかお腹も意味なく露出されているのが恥ずかしい……。足の方は少しゴツゴツしたブーツに管の差込口が付いていたのでそのまま足の裏にでも繋がるのだろうか? 主に四肢を巡らされたパイプは時々服の中で体に巻き付いて最終的に私の首にぶら下がるマスクに集まっていた。
私が出した『要望』は私の吐いた息の口以外からの噴出と、空気圧やそれによるジャンプで起こる衝撃の吸収・緩和だ。このパイプに息を吹き込めば全身に行き渡るのだろう。コスチュームと一緒にケースに入っていた制作会社からの手紙を参考にすると、ところどころにあるネジを緩めることで空気の通り道を調節できるらしい。
試しに両足のネジを緩めてパイプを軽く吹いてみると私の体が数cm浮き上がった。それと同時に靴が少し膨らんで着地の時に衝撃を受け止めてくれる。高く跳べて衝撃緩和にもなるなんて…………最高かも、しれない。
機能性は文句なしだけど……やっぱり所々にある露出が恥ずかしいなぁ、他のみんなはどうなんだろう。と、ほとんど着替え終わっている更衣室を見てみるとこの程度で恥ずかしがっている私が馬鹿馬鹿しく思えてしまった。
麗日さんと梅雨ちゃんは露出こそないものの体のラインがはっきりわかるようなボディスーツで、目の前の三奈ちゃんもピタッと体にフィットした胸元の広いチューブトップだ。八百万さんに至ってはもはやプロポーションに感服ですと言わざるをえない。私よりマシなのはほぼ私服のようなデザインの響香ちゃんくらいだ。
「?」
透ちゃんをカウントしなかったことに気がついて思わず首を傾げる。
「木空ちゃんのかっこいいね!」
隣から名前を呼ばれて顔をそちらに向ければ手袋が二つ宙に浮いていた。視線を落とせば靴が一足。
「えっ」
そういうことなのだろうか。“着替え中”とかじゃなくて、まさかそれがコスチュームだなんて……。照れるとかを通り越して何も言えなかった。
***
私たちが集まったグラウンド・βは入試の時のような模擬市街地だった。女子でいう響香ちゃんみたいにゆるいコスチュームの人からロボットみたいなコスチュームの人までいて眺めるのが少し楽しい。
カンペを見ながらの辿たどしいオールマイトによると、ヒーローとヴィランに二人ずつ別れて2対2の屋内戦を行うらしい。A組は奇数なので一組だけ3人だ。アメリカンな風貌のオールマイトの授業は状況設定もアメリカンで、核兵器が勝敗を左右するようだ。
オールマイトが取り出した箱からくじを引けば私のくじに書かれていたのはアルファベットの『C』。みんなが引き終わって別れてみると、私と同じチームなのは八百万さんとブドウみたいな髪の毛の男の子だった。申し訳ないけれど男子の名前はまだ把握できていない。二人とも話したことないや……。
「っあ、えっと…………」
よろしくね、とか何でもいいから声をかけたかったけれど、少しぴりぴりしている八百万さんと隠す素振りもなく彼女の大胆な胸元をただ見続けている彼が怖くて閉口してしまった。あまりに遠慮のない彼の視線に顔が引きつった。
「続いて最初の対戦相手は、こいつらだ!!」
それぞれ『HERO』『VILLAIN』と書かれた二つの箱からオールマイトが一つずつボールを取り出す。
「Aコンビが『ヒーロー』!! Dコンビが『ヴィラン』だ!!」
みんなの視線が集中する。どこからか息を呑む音が聞こえた。
緑谷くんと爆豪くん。入学初日から因縁めいた雰囲気を醸すこの二人がこんなに早くぶつかることになるなんて、誰が予想していたんだろう。