『ヒーローチームWIIIN!!!』
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら……」
「勝負に負けて試合に勝った、というところか」
「訓練だけど」
緑谷くんが爆豪くんに勝った。初っ端から爆豪くんが戦闘センスを見せつけていただけに、私たちには衝撃の結果だった。
緑谷くんは相変わらずで、また腕をボロボロにしているようだ。でも、あの異様な執着を放つ爆豪くんに負けず、麗日さんを信頼して放った最後の一撃。
緑谷くん、とっても、かっこいい…………!
そのまま保健室に運ばれていった緑谷くん以外の三人がモニタールームに戻ってくる。私の前を横切った爆豪くんが、らしくなく俯いているのが少し気になった。麗日さんが顔を歪めているのは…………個性の使いすぎなのかな、?
「まぁ、つっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」
「なな!!?」
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「何故だろうな〜〜〜〜? わかる人!!?」
「ハイ、オールマイト先生」
ものすごい勢いで手を挙げたオールマイトと対照的に八百万さんが落ち着いて挙手をする。
「それは、飯田さんが一番状況設定に順応していたから」
八百万さんによると、爆豪くん、麗日さん、そして緑谷くんは、核に対する配慮が足りなくて、状況に適応できていなかったらしい。爆豪くんが私怨丸出しなのは私からも見て取れたけれど、他の問題点は目から鱗だった。
私なんて、緑谷くんがすごかったことしか頭になくなっていた。いや、多分そうじゃなくても私の視野の狭さではそこまで具体的に指摘することはできない。八百万さんはオールマイトの問いかけに即答できたわけだし、私がダメダメなんだろうなぁ。
「ま……まぁ、飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが……まぁ……正解だよ、くぅ……!」
「常に下学上達! 一意専心に励まねばトップヒーローになど、なれませんので!」
八百万さん、体力テストも一位だったし、まさに文武両道って感じ。すごいのはコスチュームだけじゃない、とか、そんなしょうもないこと考えちゃう私とは性能が違うんだろう。同じ班で、足引っ張っちゃわないかな。
そんなことを考えていたら、オールマイトから次の対戦ペアが発表される。Bコンビが『ヒーロー』、Iコンビが『ヴィラン』だ。
「ありゃ、私だ!」
「透ちゃん。頑張って、ね」
「私、本気出しちゃうよー!」
透ちゃんとペアの男の子の個性は、多分あのしっぽ。対するBコンビは、手のたくさん生えた異形型の男の子と、見るからに氷が個性の男の子だ。あの氷の人は体力テストがすごかったはず。確か、八百万さんに次いで2位だった。空気中の水分を凍結させることができるらしく、私との相性は微妙かな、っていうのが第一印象。あと、は……雰囲気が怖くて近寄り難そう。
そんな彼らの決着は一瞬だった。彼、強すぎない!? まさか、あんなに容易く建物を丸々氷漬けにするなんて、底が知れない……。私たちのいるモニタールームまで冷気が漂ってきている。その上、自分が出した氷を自分の熱で溶かしていた。熱も使えるってこと……? 個性を2つ持ってるってこと……?
あともう一つびっくりしたのは透ちゃん。本気ってそういう。それは、女子として大丈夫なのかな。
まさか、彼女の言ってた『本気』が全裸……いや、元からそうみたいなものなんだけど、手袋と靴も脱いじゃうことだったとは。
「轟くんやばい! 強すぎる〜!」
オールマイトに連れられて帰ってきた透ちゃん。さ、寒そう。
「だ、大丈夫? 裸足……っていうか、服、着てないと寒くない? 風邪ひいちゃう……!」
「轟くんが個性使ってくれたから大丈夫だよ〜」
ほっ、と一安心。モニターで透ちゃん全然見つけられなかったから心配してたんだ。まぁ、“本気”出してまで透明になってるんだから見つけられたら意味ないんだろうけれど。
そうこうしている間に次のくじにオールマイトが手を伸ばす。
「次の対戦は……Hコンビが『ヒーロー』、Cトリオが『ヴィラン』!!!」
『C』、私たちのチームだ。
「木空ちゃん。お互い頑張りましょう」
「梅雨ちゃん。……梅雨ちゃん強そうだから怖いなぁ」
相手ペアは梅雨ちゃんと、それから烏みたいな男の子だった。コスチュームも黒いし、真っ黒だ。
「まずはそれぞれの個性を把握しましょう。私の個性は『創造』。生物以外でしたら体内で生成して取り出すことができますわ」
核の設置された建物に移動して、まずは作戦会議。体力テストの時から薄々感じていたけれど、改めて明かされた八百万さんの個性はもはやチートだった。その個性だと怖いものなしだろうな。
「オイラの個性は、このもぎもぎだ。頭からもぎるとオイラ以外には超くっつく」
そう言って彼は自分の頭から生えた丸いものを一つちぎって壁にくっつけた。本人はとても弾力のあるゴムボールのように叩いているけれど、ひっついた壁からはどれだけ引っ張っても離れないらしい。
「わ、私、息が吐けます。人も2、3人くらいなら浮かせられるよ。……あ! コスチュームのおかげで手とかからも息を出せる、はず」
私も二人に習って自分の個性を説明すると、八百万さんが作戦を考え始める。
「相手の人数がわかっているなら、15分守りきるより捕獲を目的とした方が妥当ですわ」
そう言って八百万さんが腕から一つ“創造”した。
「私がこの確保証明のテープを分析して複製しますから、峰田さんはそれでできるだけ多く罠を張ってください」
言いながらも彼女はさらにテープを複製し続けていて、今度は私の方を見た。
「私も複製したテープで部屋の外に罠を作ったあと、戻ってこの部屋の扉や窓を鉄骨で補強します。ヒーローを捕獲できるのが一番ですが万一戦闘になった場合は、私も峰田さんも直接戦闘向きではありませんので、清浄さんを軸として蛙水さんと常闇さんに応戦する、という方針で構いませんか?」
「や、八百万さん、すごい……! 私、頑張るね」
偽装テープを受け取った峰田くんの反応が薄い。それに気づいて隣を見てみると、彼はどこか一点を凝視して固まっていた。その視線の先が予想できてしまって、せっかくやる気を出しているのに少しげんなりしてしまう。……八百万さんは気がついていないみたい。
八百万さんが部屋の外へ出ていく。よく考えたら私、今はすることがない。慌てて彼女の後を追った。
「や、八百万さん。私、手伝うよ……!」
「ありがとうございます。では、この人感センサーの設置をお願いできますか?」
八百万さんの手からポコポコと機器が生み出される。
それを受け取ってヒーローチームが通りそうな、でも死角になりそうなポイントを探して貼り付けていく。
八百万さんの判断力に素直に尊敬した。私にはこんな風に即座に作戦を考えて支持するなんてことは到底できない。単純に頭が悪いのもあるけれど、私は、視野が狭いから。彼女なら周りを見て常に最善を選び取ることができるんだろう。
罠を張り巡らし終えた八百万さんの合流して、核のある部屋へ戻る。八百万さんが鉄骨の創造に移ったのをしばらく眺めていたけれど、視線が鬱陶しいかもしれない、と思い直して峰田くんを見てみた。
……どうしてテープが峰田くんにこんがらがっているのだろう。
「え、え?」
「……? 清浄さん、どうかなさいましたか?」
「い、いや、あの。峰田くん……あれ、どうなってるの?」
「峰田さんがどうか、……!? 峰田さん、何をしてらっしゃいますの!?」
八百万さんが峰田くんに駆け寄ってテープを解こうとするけれど、八百万さんが近寄れば近寄るほど彼はパニックになるようで収集がつかない。
「わ、私がやるよ! だから八百万さんは続きやってて……!」
不安そうな表情で八百万さんが引き下がった。
彼女が鉄骨作業を再開するのを確認して私も峰田くんに近づく。
「峰田くん……どうしてこんなに絡まっちゃってるの……?」
「仕方ねぇだろ!? 八百万のコスチュームがあんななんて聞いてねぇんだからよォ!」
「うわぁ、頭のやつ投げないでよぉ。私まで絡まっちゃう……!」
「お二人とも! ヒーローが来たようですわ!」
先ほど仕掛けたセンサーが反応したのだろう、無線機のようなものを見ながら八百万さんが声を張り上げた。
八百万さんの作った鉄骨の扉が打ち付けられる音がする。こんな硬いもの、と普通思うんだろうけれど私の個性なら多分壊せるから、相手もいつ壊して突入してくるかわからない。
軋む音が止んだかと思ったら、少しの間をおいて扉がぶっ飛んだ。常闇くんから伸びている何か、彼の個性が突き破ったみたいだ。
正直、峰田くんはこんな状態で罠もできていないから応戦できるのは私しかいない。
「峰田くん、適当に頭ちぎって投げて……!」
峰田くんは無言で頷いて頭をもぎった。宙に浮んだそれを私の息で常闇くんの個性めがけて思いっきり飛ばす。彼らにひっつくだけでは意味がなく、他の何かとくっつけなければ彼らの動きを封じることはできない。不意打ちで峰田くんの個性をくっつけることはできたけれど、初速は常闇くんの個性の方が早くて二度目の私の息は躱されてしまった。どうやら彼の個性は独自に意思を持ち、常闇くんと会話もできるらしい。
恐らく梅雨ちゃんも常闇くんも遠距離戦闘型だ。かくいう私も遠距離型なので正面戦闘は避けたかった。八百万さんもどんどん創造して応戦してくれているようだが、反応速度の速いヒーロー側の個性に時間のかかる八百万さんの個性はどうしても不利だ。
八百万さんが梅雨ちゃん、私が常闇くんと防戦を繰り広げる。常闇くんの個性はすばしっこくて、撃ち落とすどころかなかなか息を当てることができない。
「……あっ!」
『ヒーローチームWIIIIIN!!!』
私たちの奮闘も虚しく、私が常闇くんの個性に気を取られている間に、常闇くん本人に核に触れられてしまった。
「すみません。私がもっと効果的な作戦を考えられていれば……」
「え!? 八百万さん十分すごかったよ……!?」
モニタールームに帰る途中、八百万さんが申し訳なさそうに私に話しかけてきた。
「負けちゃったのは八百万さんのせいじゃないよ、本当に! それに……」
「おい、清浄! なんでオイラを見るんだよ!」
「……ううん、私がもっと上手く個性を使えてたら。それなら、勝てたかもしれなかったのに」
「そんなことありませんわ。清浄さんは十分応戦してくださいました!」
「オイラは無視かよ!」
私は自分を卑下する性格なのを自覚しているし、卑下しなくても実際そうなんだけれど、八百万さんがとても謙虚でびっくりだ。八百万さんみたいな人なら、私の個性ももっと使いこなせるんだろうな、と久しぶりに卑屈な自分が顔を出した。