「オールマイトの授業を受けられることについてどう思いますか?」「オールマイトの授業はどんな感じ?」「オールマイトに直接指導してもらっていることについて何か一言!」
マスコミが多くて雄英の門をくぐれない。広告やティッシュ配りを交わすのも苦手な私が彼らに捕まって動けなくなるのはもやは必然だった。
「オール……小汚っ!! なんですかあなた!?」
「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取り下さい」
「せ、先生……!」
見知った顔、それも雄英の教員である相澤先生の顔が視界に入り、藁にもすがる気持ちで埋もれながらも自分の存在を主張する。
「? はぁ……清浄か……」
相澤先生が私をマスコミの群れから引きずり出す。先生がそのまま校舎の方へ向かって歩き出したので私も慌ててそれに続いた。後ろではまだまだ騒ぎ声が聞こえている。
──ガゴガガガ……
いきなり地響きがして驚いて振り返ると、さっきまでマスコミで塞がっていた雄英高校の入口のゲートがコンクリートで閉じていた。
「助けてくれてありがとうございます。……先生、あの、あれって」
「関係者以外が入ろうとするとセンサーに引っかかってセキュリティが発動する。お前も学生証忘れるとああなるから気をつけろよ」
思わず顔が引き攣る。
入学式、あのまま学生証忘れなくてよかった……。学生証がないと入れないのは知っていたけれどあんなことになるなんて、入学早々恥でしかない。お母さん、気がついてくれて本当にありがとう。
「それにしても……昨日のVを見たがお前はもう少し自分に自信を持て。咄嗟の判断が弱い」
「で、ですよね。自分でも、直したいと思ってはいるんですが……」
「まがりなりにも雄英の入試をパスしてるんだ。決して弱くないだろ」
先生のその言葉に、胸が暖かくなった。
一度職員室に寄るらしい先生とは途中で別れて一人教室の扉を開く。
「清浄マスコミ大丈夫だったか?」
「大丈夫、じゃなかった……相澤先生に助けてもらった……」
「清浄ああいうの相手するの苦手そうだもんな!」
「切島くんも、躱すのは苦手そう。コメントするのは上手そうだけど」
「はは、違いねぇ!」
HRの時間。先生は今朝私にしたのと同じように、爆豪くんと緑谷くんに昨日の戦闘訓練について話した。爆豪くんにも、緑谷くんにも、私にも。先生は厳しい意見の後に一言、私たちへの期待を述べてくれる。めんどくさそうにしていてもちゃんと私たちを見てくれているから、除籍だの何だの仄めかされたって信頼できるんだ。
「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」
途端教室がざわつく。相澤先生のことだ、何を言い出すかわからない。
「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たー!!!!!!」
「委員長!! やりたいですソレ俺!!」「オイラのマニュフェストは女子全員膝上30cm!!」「ウチもやりたいス」「僕の為にあるヤツ☆」「リーダー!! やるやるー!!」
わ、私には無理なやつだ……! さすがヒーロー科、みんなやりたいのかぁ……。
みんながわいわいと自分のマニュフェストを主張するなか、飯田くんの発案でクラス投票を行うことになった。
結果は緑谷くんが4票で委員長、八百万さんが2票で副委員長。ほとんどの人は自分に投票したみたいだったけれど、みんなも納得のいく結果だったようで一件落着だ。
「響香ちゃん、今日お弁当……?」
「いや、食堂だよ」
「よかった! 一緒に行ってもいい?」
お昼休み、響香ちゃんと一緒に食堂へ向かう。雄英は食堂にだってプロヒーローがいて、クックヒーロー・ランチラッシュが安価でとても美味しい料理を振舞ってくれる、らしい。
「食堂来てみたかったんだ……!」
「清浄毎日お弁当だもんね」
「今日ちょっと寝坊して忘れてきちゃって……」
せっかく作ってくれたお母さんには悪いことをしたけど、ランチラッシュの食堂にこれるなんていい機会だからわくわくしてしまう。
「そういや葉隠は?」
「なんか、用事あるんだって」
食券の販売機を見ながら悩む。全部美味しそう……。
でも早く決めないと後ろが詰まってしまう。こういうのが、私に足りない“判断力”なんだろう。
直感、って苦手だけど、主張の弱い私のそれに従ってみることにした。
「それ結局何のパスタにしたの」
「和風ペペロンチーノ!」
「へぇ、そんなのあるんだ」
「美味しいよ、ちょっと食べる……?」
「ん、もらう」
私の前の響香ちゃんが、私にも自分のミートドリアを差し出してくれる。
ランチラッシュが作る料理はハズレがないとは聞くけれど本当に美味しい。毎日でも食べたいくらいだけど、いくら安価だからといってそれでは金欠は免れないだろう。明日からもお母さんのお弁当を楽しみにしよう。
「清浄は委員長誰に入れたの?」
「私、緑谷くんに入れたよ」
「まぁわからなくもないよね」
「オールマイトに“思い切って”って言われたから自分に入れようかとも思ったんだけど……朝、相澤先生には“自信”と“判断力”だって言われて、」
響香ちゃんに今朝の相澤先生との会話を掻い摘んで話す。
「誰に一票入れるか。自信を持って誰かを推薦することもその一つになるかなって」
えへ、と笑いかけてみれば、いいんじゃない? と帰ってきたのでなんだか照れくさくなった。
「本当は飯田くんにいれようかとも迷っ、……!?!?」
突如、大音量で建物全体を震わせるような音が鳴り響いた。肩がはねて落としたフォークの金属音もかき消されて聞こえない。響香ちゃんが肩を跳ねさせて目を白黒とさせる。多分私も一緒だ。
『セキリュティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
放送が鳴り終わった途端、食堂にいた大勢の人が出口に向かって押し寄せた。私たちは出口に向かう通路の近くに座っていたので椅子の背を圧迫されて立ち上がることも困難だ。
「ちょ……! セキリュティ3って何……!」
「た、多分校内に誰か入っちゃったんだよ……! 朝、相澤先生からちょっと聞いた……っ!」
「誰かって!?」
「わかんない、けど、関係者じゃない人!」
なんとか立ち上がると余裕を持つ間もなく早々に人の波に流されてしまう。伸ばした手が響香ちゃんから遠のいていた。
「きょ、きょうかちゃ、」
「清浄さん、大丈夫? 落ち着いて」
っ!? 背後から肩を掴まれて体
が固まる。でも、遅れて理解したその声はとても聞き覚えのあるもので。
「し、心操くん……!?」
「取り乱しても動きづらくなるだけだよ。人の少ないところに出られればいいんだけど……」
「た、多分……どこもこんな感じ、だろうね」
心操くんが側にいてくれることで、私も幾分か思考が冷静になる。かといってこの状況がどうにかなるわけではない。放送以外に誰からも指示が入らないのは、ヒーローである教師陣はセキリュティの対処にあたっているからだろうか。
ない頭で考えていた私の頭上で空気が動いて風が吹いた。何かが出入口の方へと飛んでいく。
「皆さん……大丈ーーー夫!!!!!!」
「い、飯田くん!?」
「ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」
飯田くんが出入口の“EXIT”の上に張り付いてしっかりと通る大きな声を上げた。朝のマスコミ……あれで懲りてなかったんだ…………。
飯田くんの言葉を聞いた生徒たちが動きを止める。やっぱり、飯田くんに投票するのもよかったかな、と少し過去の自分を振り返った。緑谷くんに入れた後悔はこれっぽっちだってないけれど。
その後警察が到着しマスコミは沈静化され、騒ぎは事なきを得た。改めて放送で各自教室待機の支持が出て、少しずつ食堂から人が減っていく。
「あ、あの、」
「久しぶり、清浄さん。卒業以来だね」
「声かけてくれて、あり、ありがとう……」
彼との一方的なわだかまりが解けないまま卒業してしまい、未だに私の中には気まずい気持ちが漂っている。中学の頃より話す機会もなくなってしまったから尚更だ。
「なんでそんなにどもってるの?」
心操くんはそんな私に笑いかけてくれる。
「久しぶりで、つい……えへへ」
懐かしい空気が戻りつつある中、緩やかに動いていた人の列の隙間から視線を感じた。
「清浄!」
「? あ! 響香ちゃん!」
「友達、ちゃんとできたんだ」
「ほんとに、ね。すっごく嬉しい」
心操くんが手を振って送り出してくれたので、私も手を振って響香ちゃんの元へと急ぐ。
「知り合い?」
「中学の時のクラスメイトなんだ」
「へぇ、清浄の保護者みたいに見えてたよ」
「うっ……否定できないかもしれない……」
午後のHRの時間、まだ決まっていなかった他の委員を決める前に、緑谷くんがみんなの前で飯田くんを改めて委員長に推薦した。
「あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は……飯田くんがやるのが“正しい”と思うよ」
切島くんを筆頭に、みんなから賛成の声が上がる。飯田くんのピクトさんはよかったと思うから、もちろん私も賛成だ。
「委員長の指名ならば仕方あるまい!!」
「任せたぜ非常口!!」「非常口飯田!! しっかりやれよー!!」
浮かれていないふりをしながらも嬉しさが滲み出ている飯田くんを見て、密かに笑みがこぼれた。