04
気がついたら、私は電気もつけずに自分の部屋のソファに座っていた。

試験はどうなったんだっけ。心操くん、大丈夫だったかな。私は彼に挨拶せずに帰っちゃったんじゃないだろうか。


あの緑色の髪の男の子。
確かに彼は、あの巨大な0Pヴィランを右腕一本で破壊した。みんなが逃げ出そうとする中、逃げ遅れた女の子を助けようと飛び出したのだ。
彼は臆病なんかじゃなかった。とても勇気ある男の子だった。
それと同時に、逃げることしか頭になかった自分に絶望した。個性の使用でボロボロになってしまった彼よりも、私の方が少ないリスクでロボットを止められたはずなのに。私は自分が一番可愛いから、他の人のピンチなんて少しも目に入らなかった。稼いだポイントよりも、突き付けられた“ヒーローの本質”の存在が私の胸に根を張った。

その日以来、それは私の頭から離れなくって、意識ここにあらずのまま日々を送った。心操くんが心配そうに何度も声をかけてくれたのに、それに返事をする余裕がなかった自分にも嫌気がさした。
試験の次の日、やっぱり全然だめだった、と苦しさを隠して微笑んだ心操くん。そんな彼に心配させているくせに、それを受け入れないなんてなんて自分勝手なんだろう。

ネガティブ思考まっしぐらで周りの声も聞こえなかった私をの目を覚まさせたのは、雄英高校からの、合格通知だった。

そんな馬鹿なと思った。
筆記試験の自己採点も昨年度のボーダーラインにぎりぎり届かなかった私は、私立の滑り止めにした高校に行く現実を受け入れ始めていたというのに。あんなに行きたかった雄英も、私にはとても遠い、辿り着けない場所にあるように感じていたのに。

映像の投影されるとてもハイテクな合格通知では、まさかのオールマイトが私に向かって話しかけていた。その内容は私を喜ばせると同時に、私の心臓に巣食った“あれ”をいっそう成長させてしまった。

オールマイトが見せてくれた実技試験の獲得ポイントのランキング。驚くことに私は、“緑谷出久”くんと同率で6位だった。
ヴィランポイントが58P、レスキューポイントが2P。なんとヴィランポイントだけで見れば、“爆豪勝己”くんに次いで2位だったのだ。

でも、問題はそこじゃなくって、審査制のレスキューポイントが存在したこと。モニターのオールマイトはそのポイントをもう一つの“基礎能力”だと言った。
ランキング上位の人ほどそのレスキューポイントが高くって、ヴィランポイントと同じくらいに、それ以上に獲得している人もいる。
私と同じ6位の緑谷くん。……きっとそれは、あの巨大ヴィランを倒した彼だろう。ヴィランポイント0Pで合格するだなんて、そんなの彼しかいないじゃないか。ヒーローの本質をあの場で体現していた彼しか。

『清浄少女は特に機動力に優れているようだね! 機転を利かせた個性の使い方もベター、もっと落ち着いて周りを見れるようになればよりベストだ!!!』

自分勝手にヴィランを破壊することしか考えなかった私に、オールマイトはオブラートで包んだ言葉をくれる。けれど、そのオールマイトの後ろのモニターで私の下に並ぶ緑の彼の名前とポイントは、私の名前をとても場違いなものに感じさせた。

私が試験前に考えていた個性の向き不向きへの救済措置は、ちゃんと用意されていたのだ。むしろ、そのレスキューポイントこそ、あの試験が私たちに答えを求めた本質だったのだ。

単にロボットを壊すのが得意でポイントを稼ぐことができただけの私なんて、試験の内容が違っていたらきっと不合格だっただろう。

ランキングの1位に名前を載せていて、私よりヴィランポイントを稼いだ、顔も知らない爆豪くん。レスキューポイントが0Pの彼が気になった。
どんな人なんだろう。私と同じか、戦闘狂か。

“緑谷くん”と“爆豪くん”、ひどく対象的な二人だと思った。


次の日、学校に行く私の足は重かった。
担任の先生は、先日までの私の落ち込みようで無理だったのだと判断して、毎日、慰めて、励ましてくれていた。

気まずいのだ。
……先生だけじゃなく、心操くんに対しても。

教室に行く前に合格報告のために職員室に向かおうとしていると、階段を上っている最中に担任に出くわした。どうやら踊り場で報告を済ませることになってしまうようだ。

「清浄! 雄英、合格発表そろそろだったよな……?」
「そ、それが……あの……」
「……済んだことは気にするな! 雄英に行けなかったからってヒーローになれないわけじゃないさ!」

「いえ、その……合格したみたいで……」

言い淀んだ私を見てやっぱり落ちたと思ったみたいで、でも別に失礼だとかは思わない。私だってそう思っていたんだから。

うちのクラスの担任はとても生徒思いだけど、少し熱血気味で、思い込みが激しいところがある。そこが先生のいいところだとも思っているのは私だけじゃないだろう。

ひとしきり驚愕と賞賛の声を浴びせた後、まさか名部中から雄英のヒーロー科進学者が出るとは! と嬉々としながら校長先生に報告しに行った。

先生が嬉しそうでほっとした。
ここに来て私もようやく雄英高校に合格した実感が湧いてきたようだ。私も来月から、憧れの雄英生なんだ。あの制服を着て、毎日あの校門をくぐって、プロヒーローに指導してもらって。

少し浮かれた様子で階段を上ると、階段を上りきったところに心操くんが立っていた。一気に現実が私に襲いかかってくる。

「雄英、受かったんだ。おめでとう」

「あ、りがとう。……心操くんは、」
「ダメだった、俺の個性じゃ仕方ないよ。併願してた普通科には受かったから、春からもよろしくね」

あんなに沈んでいたくせにちゃっかり合格してしまった私は、彼になんと返せばよかったんだろう。


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