古龍A
そしてやってきたビーチ。朝早くだというのに既に何人ものセレブが寛いでいる。この中で水着で無数のカメラを首やら手やらに装備した父はどこをどう見たって不審者そのものである。今日はあまり父には近寄らないと決意する。
早々に撮影スポットを探しに行った父は放っておいて、母と二人でパラソルを立てた。このパラソルも借り物である。徐々に人が増えてきたところで、私はバッグを肩に掛けた。今日は泳ぐことが目的ではない。ホテルで作る手作りキャンドルの装飾品を集めることだ。透明ジェルは買ったんだけどね、貝殻とか砂とかあまりピンとくるものがなくて、どうせなら自分で調達しようぜと閃いたのだ。小ビンから山ほどあるし、お金の節約にもなる。
ビーチから東に進んだところに行くと、岩礁があるらしい。特に立ち入り禁止にはなってないようだし、面白そうなものがありそうでワクワクスッぞ!
「行ってきまーす」
「気を付けてね。二時間したら一旦帰ってくるのよー」
パラソルの下で本を開いた母に手を振って意気揚々と足を踏み出した。サンダルが砂浜に沈んで少し歩きづらいけど、パークよりかはマシだ。
歩いているうちに、砂浜に石が混ざり始め、徐々に大きくなっていく。完全に石だけになると、今度はツルツルして逆に危なかった。ぴょんと次の石に乗り移る度に、岩影にいたフナムシがぞわぞわと大移動するのがわかる。私はこういうの平気だけど、母はダメなんだろうなぁ。父は笑いながらシャッターを切るはず。そう思うと、私は父よりなのかもしれない。なんか複雑。カメノテに気を付けながら進むこと三十分。途中きれいな石や砂を採取しながら進み、なんか珊瑚も拾えたので中々収穫が進んでいる。
と、百メートル先の崖に、ぽっかり口を開けた洞窟を発見した。これはもう入るしかない。恐る恐る顔を覗かせると、案外洞窟は狭く、入り口からでも最奥が見えた。最奥の天井はなく、日光が静かに光のカーテンをつくっていた。それが更に水面に反射して、洞窟の中でも結構明るかった。
「わぁー!なんか幻想的だなぁ」
わくわくしながら、私は洞窟に足を踏み入れたのだ。
▼▼▼
『シャンティエンが進路を変更した!』
カイトの乗る飛行船からそう無線が入ったとき、ジンとバボンの乗る飛行船内はシンと静まり返った。受話器を取ったバボンは焦る気持ちを押さえながら更なる情報を求めた。
『さっきまで真っ直ぐ進んでいたが、突然進路を北西に変えた!進路にローデンスがある!このままじゃ不味いぞ!』
「ローデンスにいる連中に連絡!急いで住民を避難させろ!」
「了解!」
「バボン、悪い予感が当たっちまったな」
「ジン!お前は走った方が速いだろ?お前は単独でシャンティエンを追え!」
「おう!」
指示を受けたジンは渡されたパラシュートを手早く装備すると、迷いなくドアから空へ飛び降りた。
風圧に耐えながらギリギリでパラシュートを開き、地面に下り立った瞬間、念を込めて走り出した。鳴り出した携帯を開き、耳に当てながらシャンティエンの向かう方向へ走る。
「カイトか!?」
『ジンさん、シャンティエンはローデンスのすぐ東にある岩礁へ向かってるようです!』
「岩礁……そこに観光客はいるか!?」
『いえ、立ち入り禁止ではないようですが、滅多に立ち寄る人はいないようです!』
「わかった!」
『まずビーチに向かってください!そこに待機組がいます!ジンさんの携帯にGPSを表示させておくので俺も後で向かいます!』
「あんがとな!んじゃあ飛ばすぞ!」
先ほどの倍の念を足に凝させて、一気にスピードを高めた。一瞬空を見上げるが、シャンティエンの姿は見えない。間に合ってくれよと半ば願いながらビルが立ち並ぶローデンスへ足を速めた。
ジンがビーチに着く頃には、水着姿の人々が怯えた様子で職員によって避難されていた。突然現れたジンにボディーガードが警戒するように近寄ってきたが、ハンターだと言えばすぐその警戒は解かれた。周りを見渡して、待機組を見つけると、直ぐ様そちらへ駆け寄った。
「現状は!?」
「ひとまずビーチの避難は終わりそうだよ。シャンティエンの進路も微妙にずれてるみたいだから、ここに直に来ることはないと思う」
「問題はむしろあっちだ。シャンティエンが進路を変えたせいでどこに降りるかわからなくなった。恐らく、素材の収集は無理だろうな」
「そうか。地図はあるか?なるべくここらを詳しく書かれたやつがいい」
渡された地図を地面に広げて、シャンティエンの進路上にあるとされる位置に目を滑らした。岩礁がほとんどで、シャンティエンのような巨体が下りれる所は見当たらない。このまま新大陸に向かうのかと諦め掛けたとき、ジンの目にとある洞窟が写った。
「ここだ!」
「あ?そこに来んのか?」
「一番可能性が高いだろうな。一応向かってみる。なんかあれば無線で……」
「ジンさん!!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには昨日電話した知り合い…クサカベがこちらに走ってきた。隣には奥方らしき女性もいる。
「お!クサカベじゃねぇか……なんだお前その格好」
旧友の姿を見つけ、嬉しそうに目を見開くも、全身に纏ったカメラに気づいた途端一瞬で半目になったジン。そんな冷たい視線もものともしないクサカベは、「そんな場合じゃあない!」と無理やり言葉を遮った。
「娘がいないんすよ!」
「娘……?前に言ってたお前のか?」
「俺のじゃなきゃ誰のだっていうすか!?うちの娘がさっきから見当たらないんですよ!」
「キャンドルの素材を探しに行くって一時間前ぐらいに一人で出掛けて……どうしましょう……もし古龍に出会ったりしたら……!」
「落ち着け。どこに行ったかわかるか?」
心配で顔を真っ青にした奥方を落ち着かせるため、待機組と一緒に一旦席を離して貰う。クサカベはまだ冷静ではあるが、我が子の安否にしっかり不安は感じているようで普段よりジェスチャーが多い。
「クサカベ、娘さんはどこ行ったかわかるか?」
「それが例の岩礁なんですね」
「おいマジかよ……」
「行動力とスタミナだけは一級品なんですよ。気づいたら無茶苦茶距離開いたりしてます」
「まあ何にせよ、岩礁には行くから娘さんを探してやるよ」
「マジで頼みますよ。##NAME1##、何故か知りませんけど、妙に生き物に好かれんど古龍ぐらいは多分手懐けること出来ると思いますが、よろしく頼みます」
そんなアホな。内心そう思いながらも口にはせず、踵を返して例の岩礁へ向かう。ここからなら、走って十分あればつくだろう。無線から『シャンティエン、洞窟内に着地しました!』とカイトの報告を受け、嫌な予感が脳裏を過る。シャンティエンを含めた古龍らは自分以外の生物……特に小動物に対しては自ら攻撃したりはせず、無関心を突き通している。しかし、それは正常な場合に限り、繁殖期や興奮状態にあると、所構わず攻撃する恐れがある。もし、少女が無意識にシャンティエンを挑発するような行動をとっていたとしたら……。考えたくないが、可能性は十分ある。
「なんもなきゃいいが……」
そう呟いたそのとき、目的地の洞窟が姿を表した。
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