始まりの前夜
あれもこれもと目の前のカミサマにあたしの要望を伝えていく。足が滑ってホームに落ちちゃったときは目の前が真っ黒になったけど、「もう一回人生チャレンジキャンペーン」ってやつに当たって本当によかった!転生トリップだとすぐ気付いたあたしは生前書いてたリボーンの夢小説のヒロインになりたいとすぐにカミサマに言い、今はその設定を詳しく伝えているところ。
「愛され逆ハーは絶対!恋愛感情は主要キャラだけでいいけど、京子とかハルとかからの好感度もマックスにして!容姿はかわいい系がいい!髪はクリーム色の色んな髪型や服が似合う感じのふわふわ系で、身長は平均よりちょっと低めたまけどスタイル抜群で。胸も不自然じゃないぐらい大きくて、目は垂れ目でちみつ色。睫毛がふさふさの長い美少女!思わず護りたくなるような感じがいいけど幼く見えすぎない程度だからね!あと覚悟の炎なんだけど風の炎っていう新しく発見された属性持ちってことにしておいて!性質は浄化!色は白!アニマルボックスはうさぎとかで、かわいくないのはいや!あ、あと過去には闇要素がほしいんだけど、元々はイタリアの小さなマフィアの隠し子で今は両親は死んで独り暮らしを……」
「ちょっと。まったまった」
黙って聞いていたカミサマが突然ストップをかけた。なに、今から大切なところなのに。スマホ(なんで使えるかはわかんない)を見ながら一つでも設定を見落とさないようにしていたけど、カミサマ(普通の男の人。イケメンじゃない)がガリガリ頭を掻きながらため息をついたから渋々顔をあげた。
「さっきから言ってるそれ、次の君の設定?」
「そうに決まってるでしょ。もしかして聞いてなかったの?」
「いや一音一句覚えてるけどね、そうあんまり詰め込みすぎると困るって話」
「はぁ?さっき設定決めていいって言ったじゃん!」
嘘つき!「ある程度なら要望に沿うよ。勝手なことしてるって自覚はあるし…」って言ってたのに!
じゃあ生き返らしてよ!とカミサマにスマホを投げ付けようとすると、少し落ち着いてとため息をつかれた。ため息つきたいのはこっちの方なのに!
「言ったよ。でも、ある程度ってね」
「はぁ?わけわかんない」
「あのね、俺が言う"ある程度"は「日本人に生まれたい」とか「男がいい」とか「末っ子がいい」とかそんなレベル。まあ容姿や才能は抜きん出なければサービスしてあげるけど、スポーツで言えばその学校でレギュラーになれる可能性はあるけど、オリンピックに出るには並々ならぬ努力と運がいるって感じなんだよ」
「なにそれ!詐欺じゃん!」
「どこが詐欺なの……あと君が死んだのはながらスマホのせい」
「ちょっとぐらいいいじゃん!ケチ!」
「いやね、君の場合世界すら指定してるからね。確かに他の当選者でも世界観を希望した子はいたけど、その子自然破壊が進んで緑がほとんどない世界出身で、次は自然豊かな世界で静かに暮らしたいって、それ以外その子は望まなかったから希望が通ったんだ。君が欲張りすぎなの。減らしてくれないと……」
「やだやだやだやだ!!せっかくのチャンスなのに妥協したくなーいー!」
せっかくリボーンの世界にトリップしても、顔も能力も個性も平凡かそれ以下じゃなにも出来ないじゃん!本当にいるだけのモブじゃん!それじゃトリップした意味がない!あたしはリボーンの世界でちやほやされたいの!それが現実になるかもしれないなら尚更!カミサマなんだしこれぐらい出来るでしょ!
「お願いお願い!!その代わり他のところ削って!少しは原作と違っててもいいから!おーねーがーいー!」
「………はぁ」
カミサマの足元にしがみついてお願いコールを繰り返すと、数分後ガックリとカミサマが肩を落として頷いた。
「いいよ……わかった」
「やったー!!!」
カミサマから離れて万歳するあたし。カミサマは髪をガシガシ掻き回した。迷惑かけてごめんなさい!でもワガママ言うのはこれっきりだから!
「でも通せるとは世界と君自身の設定だけだ。転生後の生活には関与しない」
「ぜーんぜんオッケー!ありがと!」
「あと一つ言っておくけど、その世界は君にとっては創作かもしれない。でも君が行くところはれっきとした現実で、君の知るものとのギャップは大きい。まあその原作?とかいうやつの大筋は変わらないだろうけど、細部まではわからない。要するに、漫画の世界と高を括っていると足元を掬われるよ」
「わかってる!わかってるから早く早く!」
「本当にわかってるのかなぁ……」
ごそごそとどこからかタブレットを取り出したカミサマはポチポチ何かを打ち込んでいく。「うーん……これだとパワーバランスが……こっちを変えるかぁ……」と悩んでるけど、あたしはリボーンの世界にトリップするってなって気分絶好調!ドキドキしてきた!本当に逆ハーにできるかな?いや出来る!だってあの設定だもん!ラクショーでしょ!
「できた?まだ?」
「あとちょっと……うーん。まあ、これでいいかな」
「ちょっと、大丈夫なのそれ。しっかりしてほしいんだけど」
「君が思う以上に大変なんだよこの仕事……」
「ふーん」
カミサマって一番えらいわけじゃないんだ。意外。
本当にこれでいいんだね?とまたしつこく聞いてきそうな予感がしたからテキトーにあしらって逆に急かした。
「あーもう!じゃあ行くよ!」
「うん!よろしく!」
カミサマがターンッとタブレットを叩くとあたしの足元が突然光出した。魔方陣じゃないんだなと思いながらも、白い光に包まれていくのにつれて胸もドキドキ高鳴り始める。
嘘みたい。信じられない。あの夢にまで見たリボーンの世界に行けるなんて!キャラ達にちやほやされる願望が妄想じゃなくて現実になるなんて!ホームで足元滑らせてよかった!正しく薔薇色の人生の幕が開かれる!
「あ、あと転生後一度だけ俺と会話できるから!祈れば回線が繋がるからね!」
光があたしの視線を越えるとき、最後に写ったカミサマはあたしの人生の再スタートの門出を祝うにしては微妙な表情をしていた。
「うーん……やっぱりこのキャンペーン失敗だと思うんだけどなぁ……」
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