閃光


意味を積み重ねる理由


彼女達を見るたびに、私ははぁとため息が漏れる。

「ねえ骸」
「なんですか?」
「次のイベントの新キャラ。超絶かわいくね?」
「そうですね」
「せめて画面見てから言おうよ……」

紅葉ちゃんの手に握られているスマホをちらりとも見ずにホットチョコレートを啜る骸くんを、紅葉ちゃんはじとっと睨み付けた。
チョコレートの甘い香りが充満する自警団本部のとある休憩室。たくさんじゃないけどソファーはいくつもあるのに、二人は同じソファに並んで腰かけていた。
やれやれと大袈裟に肩を上げた骸くんは、飲み終わったカップをテーブルに置いて紅葉ちゃんのスマホを覗き込んだ。

「またあのゲームですか?」
「ふっふっふ。新規イベだからね。しかもこの子配布だし、全力で走るぞぅ」
「はいはい。程ほどにどうぞ」

ニマニマと楽しそうに画面をスクロールする紅葉ちゃんを見下ろす骸くんは呆れてるけど、その瞳は私に向けられるものより穏やかでいとしさに溢れていた。
二人が付き合い出したのは今から十年前、中学校の内からだったらしい。本人達は、カップルにしては甘酸っぱい初々しさはないと笑っているけど、お互いを理解し信頼しあってる姿はとても素敵だと思うし、私ならあんなつきあい方をしたいと思う。

「そう拗ねんなって。あ、そうだ。冷蔵庫にさ、ホラ、前食べたいってたチョコレートタルト買ってきたから。後で食べようよ」
「ほぅ、貴女にしては気が利きますね」
「なんだと」
「そんな貴女に朗報です。そのチョコレートタルトですが、昨日僕も仕事の帰りに買ってしまったので二個処理しなくてはなりません」
「悲報だよバカ!」


「いいなぁ……」

羨ましい。私もあんなお互いの意思を尊重しあえるパートナーがほしい。

ツナくんも、武くんも、恭弥くんも、ザンザスさんも、白蘭さんも。みんな嫌いじゃないし逆に好きだけど、恋人とのloveではない。
何度もそう言ってるのに、皆私のいうことなんて聞いてくれない。
私のこと、本当に好きなら私の意思も汲んでほしいのに、皆してくれない。

「どーすんだよ!食えと?少食かつ甘いものをそこまで食べない私にタルト丸ごと一個食えと?」
「そういえばコンビニでそのゲームのファイルがあったのでゲットしておいたのですが……」
「骸大好き。チョコタルト全部食べていいよ」
「僕もですよ。でも貴女と食べる為に買ってきたんですから、一切れぐらいは頑張ってくださいね」
「はーい」

凪のように穏やかで静かな時間。
私も、あの二人みたいな幸せな一時がいつか手に入るのかなあ?


「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………いつになったら入ってくんの?」
「静かに。気付かれてるとわかったら面倒ですよ」
「でもさ、ドアの隙間からジーッと。何がしたいんだろ?」
「………さあ、僕にはさっぱりです」



「いくら仮初めの身体とはいえ、君が不特定多数の異性……及び一部の同性に口説かれ隙あらば唇を狙われるのは些かむかつくというか明確な殺意が湧いてくるわけです。当然のことです。他のイタリア人は知りませんが、僕は唇へのキスは特別なものと捉えていますし、舌なんて尚更。1日何度嫉妬で我を忘れそうになっていることか。この激情を隠し通すのは結構疲れるものです。まあ貴女に理解を強要する気はありません。君冷めてますし。ですが知っていただけないと困る。僕は君の吐息一つすら嫉妬してしまうのです。ということなので、君を僕のものにして手の届く範囲に閉じ込めてしまいたくなる衝動の説明はいらないですね。しかしそんなことをしたら最後、ぶちギレる君の様が容易に想像できますのでこのような形を取りました。正直柄じゃありませんよ。大体僕の立場上同じところに長居は出来ないでしょうし、追うより追われる人間であるため安定した生活は難しいかもしれませんが、まあそれでも収入は一般平均より高いですし、水準を上回る生活は保証しましょう。犬達やたまにおちびさん達が乱入してくるでしょうが、そこはご愛顧ということで。彼らも口では不満たらたらでしょうけど、結構貴女を気に入っているので可愛がってあげてください。食費や光熱費と言った出費は全て僕が持ちます。金銭の心配は無用です。君の服やゲームも僕の財布から出します。代わりに、君の役割はただ一つ。僕の許可なしに僕から離れないこと。それぐらいなら君でも守れるでしょう?……まあ要するにですね、何万と時を刻もうとも、この身すら朽ちてしまっても、永遠に貴女を愛し慈しむことを貴女自身に誓いましょう。お返事は?」

「くどい!二十字以内にまとめろ!」

「愛してます僕と結婚してください!」

「最初からそう言え!不束者ですがよろしくお願いします!!」



「もしもしすいませんウェディング会社ですか結婚プランで盛大なの一つお願いしたいんですけど」

「カエルってめっ!」

「もしもし。結婚式用の花の予約をしたいんだけど」

「柿本!?」

「あの、すみません。ウェディングドレスのデザインについてお話が……」

「クロームちゃん!?」

「お、おれ高級チョコ専門店でケーキの予約してくるぴょん!」

「ま、待て!!」

「うおぉぉぉおい!!納得できるかよこんなの!おい電話やめろ新米!」

「ゲロッ!お、お願いしますー。うちの、うちの25になっても中2病拗らせてる残念なパイナッポーししょーの初恋がようやく叶って、ミーは、ミーは。うぅ……」

「骸様……忍さん……おめでとう……」

「骸様、式はいつにしますか?」

「明日にしましょ……グハッ!」

「馬鹿、うちの両親への挨拶は無視か?アァ?」

「くっ……よろしい。何年待ったと思ってるんですか?一週間そこらどうってことないですよ。ええ。全く問題ありません。ふーんだ」

「(超不本意じゃん)」

「(拗ねてる……)」

「(ふてくされてる)」

「(骸様大人気ないぴょん……)」

「犬、後で覚えておきなさい」

「なんで俺だけ!?」

「フラン、そろそろ泣き止みなよ」

「い、いま、パイナッポーでも結婚出来るって証明されて、ミーは歓喜の嵐でどうにかなってしまいそうですー、うえ、うえぇぇ」

「フラン!!」






「取り敢えず姉さんこっちにおいで」

「ごめん。このあとはハネムーンだから手錠首輪の監禁コースは無理だわ」



い、今起こったことをありのままに話すぜ!!
今日期限の書類を届けようと沢田の執務室に足を運ぶ途中、任務を終えた骸と鉢合わせし、行き先と目的が一緒だからそのままの流れで喋りながら部屋に向かい、部屋のドアを骸がロックしようとしたその瞬間、部屋の中から女の人の叫び声が響いてきた。
「私は骸くんが好きなの!!」
いや何言ってんの忍さん???思わず真横にいる骸を見上げると、なんとも言い難い、強いて表現するなら苦虫を百匹噛んだような顔をしていて一瞬であっ……と、お察しになった。まあそうなるわな。ドアから数ミリで止まっていた手をゆっくり下ろした骸は、色々耐えるように額に手を当て、は〜〜〜と重すぎる息を引いた。何より怖いのがさっきの激発告白からなんの音が聞こえてこないことだよね。多分中には忍さんと部屋の主である沢田はいるだろうし、中の気配を察しようとも恐怖心が勝る。
………よし、逃げるか!!
隣も同じことを考えていたみたいでタイミングぴったりに身体を反転させると音をたてずにその場から離れようとした。
「待て」
まあ加治屋が許す訳ないよな!!!
頭の後ろでガチャンと銃を突き付けられる音がして直後聞こえる少年の声。お?謀反か??
ため息混じりに両手を上げ、一瞬で武器を取り出して本気でリボーンに向けた骸を宥める為にもリボーンに銃を下ろしてもらう。おいお前瞳孔を開いてんぞ。いくらお前でもリボーンと直接バトルって勝てる保証はないんだからやめとけ。今も殺気立つ骸の頭を平気平気とへらへら笑ってぽんぽん叩いてやると、「……貴女って人はほんと馬鹿ですね」となんとか武装解除してくれた。よかった。愛されてるのは嬉しいけど、無意識に六道パワー発動されるのはちょっと困るな〜〜〜。お前の能力は使ってるだけで周囲に影響を出すタイプなんだからもっと周りに気をつけて??普通の事務員だったら即精神崩壊不可避よ??
「……で、何のようですか??お取り込み中のようでしたので、報告は後回しにする予定だったんですけど」
「聞いてただろ?ちょっと来てもらうぞ」
「ええ……私このあとまだ仕事が」
「ボスの命令は最優先だぞ」
「痴話喧嘩にでもですか?」
「いいから来い」
「ソシャゲのイベント中なんですけど……」

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