閃光


いつかの両手に花が降る


速報、私以外に新たな風の炎が見つかりました。
転びかけながら私のところへ一直線でやってきた沢田から発せられた情報に、「そ、そうか」とまともな反応が出来なかった私。なんか、ごめんな……。たっかいスーツをしわくちゃにしても尚伝えてきてくれたのに腑抜けた返事しか出来なくて。テイクツーやる?今なら「ナ、ナンダッテー!!」って椅子から転げ落ちることぐらいは出来るけど。
「そういう問題じゃないから!!」
「ご、ごめんて……」


第二の発現者となった子は、ボンゴレ勤めのマリーちゃんと言うらしい。沢田が持ってきたデータを見る限り、特別おかしな点や気になるところはない。出生はイタリアの一般家庭。親族にマフィア関係者はおらず、一般募集から普通に就職してきたようだ。入社してからの健康検査という名の死ぬ気の炎属性チェックで、おかしな結果が出たことで精密検査を行ったところ、私の炎の波形と合致したそう。これガチの天然物だな。マフィア関係者なら骸のような事例があるから油断できないが、この子は本当に一般人だ。まあ無理やり特筆するところと言えば、出身大学がイタリアでも指折りの名門校というところと、テレビに出てても遜色ないぐらいかわいいことぐらいか?しっかしいるんだね風の炎。しかもあっさり見つかったし。こりゃ数年したらレア価値下がるかもな。
今、ボンゴレの

「骸さま、最近他の女性のとこ行ってるらしいですよ」
私をよく慕ってくれる事務ちゃんの重々しい口調と険しい顔、何より言葉の内容に思わず手にしていたペンが落ちて部屋の隅に転がっていった。
事案発生!!審議タイーーム!!!ペロ、これは修羅場の予感……!青酸カリよりヤバそうなものを察してごくりと唾を飲む。今の心境を一言で現すと、え、マジ??に尽きる。いやだって、最近は確かに会ってなかったけど、骸が私に飽きたとか愛想を尽かしたとかそういうのは感じたことないし、というかその情報どこ出??
慌ててペンを拾ってくれた事務ちゃんにお礼を言いつつ疑問をぶつける。すると、事務ちゃんは言いにくそうにペンをギュッと握り締めて睫毛を下ろした。
「前々から私達の間で、紅葉様ではない女性と歩く姿をよく見掛けるって噂になってたんです。でも骸様に限ってそんなことはないって思ってたんですけど……私見ちゃったんです。人気のない廊下で派手なドレスを着た女性と、そのキスする骸様を」
それあかんやつやーーーん!!なにしてんの骸!?!?ガチヤバのやつじゃん!!てっきり一緒に歩いてた程度だと思ってたわ!!
イタリア人だというのに上手に倒置法を使ってくれた事務ちゃん含む女性群の情報網は恐ろしく、内部の情勢に限ればぶっちゃけ一番頼りになるのである。最近入ってきたメイドちゃん、雲雀様狙いらしいわよ〜〜!あの阿修羅大魔王様だけはやめとけまじで。
ただでさえ女性は噂好き。その上幹部は顔採用を疑うほどに美形揃い。もうゴシップが飛び回るよね。しかもボンゴレ本部勤めなこともあり、皆情報収集能力に長けていて大体はガチ情報だったりする。今回に至っては事務ちゃん本人の目撃情報である。
決まりだな。判決、被告人の有罪判決が確定!意義は認めん!!あのやろう!人には散々他の野郎と話すな接するな見るなと口酸っぱくいう癖にてめぇはノーカンとかふざけるなよ!!これだからイタリア人は!!結局お前もボンキュッボーンのセクシーなお姉さんが好きなのか!!悪かったな貧相で!!愛想もなくてよお!!
こういう浮気を知って悲しむのではなくキレるところが一番可愛くないということはさておき、今にも怒りの波動に目覚めそうな私だったが、目の前の事務ちゃんの波動が殺意に満ちていたので一瞬で冷静が戻った。え、なんで事務ちゃんがガチギレなん??私より怒ってない??
「紅葉様がいながら……あのアーナナス!!他の女に現を抜かすなんて万死に値するわ!!あんな口紅まみれの香水女のどこがいいのか!!理解できたらおしまいよ!!見てらっしゃい……本当の地獄を味わわせてやるんだから……」
「はわわ……」
こっっっっわ。というか事務ちゃん現を抜かすとか万死に値するとか難しい日本語よく知ってるね。凄く勉強したんだね。偉いね。ほら、このお菓子あげるから落ち着きな?ね?ペンミシミシ言ってるよぉ……それ一応沢田からの貰い物なんだけどなぁ……ちなみにアーナナスとはイタリア語でパイナップルという意味である。あっ、やっぱイタリア視点でもそう見えちゃうのね。お察し。
側にあったどっかの有名店のマドレーヌと引き換えに本体にヒビが入ったペンを救出する。そうだった、この事務ちゃんボンゴレ傘下のマフィアから来た子だった。そりゃペン一本ぐらい折れるよな。後でこの子のボスに連絡しなきゃ……オタクの子は今尚逞しく成長してますよって……
事務ちゃんの殺気に圧され、私の心の中の怒りがみるみる萎んでいったのを感じた。こんな自分のことのように怒ってくれる部下を持てて私は幸せだよ……形のいい眉をつり上げながらマドレーヌに食らいつく事務ちゃんの頭をよしよしなでて入れば怒りの代わりに現れた悲しみとか寂しさとかが薄れていくような気がした。
「怒ってくれてありがとね。でももういいよ」
「よくありません!!諦めちゃダメです!!しばき上げて自分の犯した罪を恐怖と共に心身に刻み付けてやらないと!!」
「おおう過激だな……いいんだよ、もう。私じゃアイツの支えになれなかったってことさ」
「紅葉様は何も悪くないです!!」
「そうだよ。誰も悪くないよ。だからもう、おしまい」
そう言って笑ってやれば、かわいらしい事務ちゃんの顔がくしゃりと歪んだ。大きな目を潤ませてううう〜〜と唸る事務ちゃんを頭ごと抱き締めて背中を撫ででやった。
「あーよしよし。本当に優しい子だなぁ」
「な、なんで私が撫でられてるんですかぁ」
「あー泣かない泣かない。かわいい目が溶けちゃうよ」
「う、うわーん!!紅葉様のバカー!!」
誰がバカじゃ。ギャン泣きする事務ちゃんの口の周りに付いたマドレーヌのカスを指先で取っとやると、更に泣き声が大きくなった。うーーん。別に誰も見てないし存分に泣けばいいと思うんだけど、誰かが来ないわけじゃないんだよな〜〜〜。現に今までやってた書類も後で雲雀さんに渡す予定の……

ガチャ。

「…………何してるの?」


はいフラグ回収お疲れ様でした!!!!!


反射的にトンファーを出した雲雀さんとガンホルダーに手を伸ばした事務ちゃんの間に慌てて割って入る。待て待て待て待てーーーーい!!何故!!そうやって!!すぐ!!暴力で!!解決しようと!!するの!?!?特に事務ちゃん一応雲雀さんは幹部で直属でなくても上司なんだから銃向けちゃいけません!!下手したら元のマフィアも巻き込んで責任問題になっちゃうから!!まあ雲雀さんはそんなことしないけど!直接潰しに行くもんな。どちらにせよどうあがいても絶望。
決して広くない部屋に天空競技場でのクロロ対ヒソカのときのような緊張感が漂い出すが、まずここは天空競技場ではなく私の仕事室であり、私の管轄であんな大惨事を引き起こされちゃあ堪らないのでなんとか二人に武器を仕舞ってもらった。
そのまま帰ると思いきや、「で、何があったの?」と話を聞いてくれるらしく、ソファに座った雲雀さん。え、お帰りにならないのですか……?まだ遺憾の意です!って感じに不貞腐れてる事務ちゃんにお茶を出すよう指示しつつ、骸浮気疑惑を簡単に伝え……ヒエッ!!殺気やば!!
「あのパイナップル芯まで腐ってたんだね死ねばいいのに」ノンブレスかよ。殺気でヒビ2号となった花瓶をチラリと見ながら冷や汗を拭う。雲雀さんと骸の因縁は十年前から今尚健在だし、てっきり「興味ない」とか「あんなパイナップルを選んだ君が悪い」とかそういう淡白な反応だと思っていたんだけど……
「ですよね!!」とさっきの殺し合い三秒前が嘘のように雲雀さんの言葉に力強く頷く事務ちゃんに軽く引きながら無理やり口角を上げた。コップ割れるぅ……。一日に三つも割れ物を台無しにするのはやめてくれ。
「ま、まあ骸が全面的に悪いですけど、最近構ってやれなかったのは事実ですし、私が単にその程度の存在だったというだけで……」
「は?」
「すいません!!!」
「君ね、それ本気で言ってるの?」
ジャニーズも踊らないような100%憐憫を向けられ、永遠に忘れられないような恐怖を存分に味わう羽目になった。憐れみってところが心により刺さるよね。え、なんで事務ちゃんも同じような目してるの……?やめてかわいい子ほどそういうリアクションされると傷つくの……喪女でごめんなさい……
地元の祭りでスリを働いていたヤンキーですら一瞬でチビるような絶対零度の視線に戦く私に雲雀さんはこいつどうしようもねぇなと言わんばかりにクソデカため息を深く吐いた。さーせん……浮気とか風紀の乱れの極みって感じだもんね……風紀厨の雲雀さんには耳が腐るような話だったね……死んで詫びます沢田によろしく伝えておいてください……
「君がそういう受け身な態度をとるから更に調子に乗るんだよ」
「さーせん……」
「99%あの腐敗果実が悪いけどね、残りの1%は君にも非があるよ。大体暫く会えてないのを自覚してるなら連絡ぐらい取りなよ。浮気されたってのにちっとも喚かないのは恋人としてどうなの?」
雲雀さんに恋人とは何かを説かれる……だと……?雲雀さんに似合わないワードランキング三位以内に入っていそうな衝撃発言に本当に目の前にいるのが雲雀さん本人なのかと疑った。幻術で誰かが変装してるとかじゃないよね?しかし、懐疑の視線に気づいたのか愛用のトンファーが頬を擦って後ろの壁にヒビを作ったので多分これ本物だと思う。こんな本能で生きる系男子が雲雀さんと笹川先輩以外いたら困るわ。
しかし、愛などいらぬ!と叫ぶサウザーのように恋人とか()派筆頭だと勝手に思っていた雲雀さんが意外にも普通な恋愛観を持っていることに逆に安堵した。よかった……人の心はちゃんとあったのね……阿修羅大魔王様とか呼んでごめん……
その後も続く雲雀さんの正論しかないお説教に私はただ羞恥にただ震える他なかった。まじぐう論。私も恋人の浮気にこの反応はどうかと思います。反省してます。テイクツーではちゃんと泣くんで……そういうところだぞ。
そうだそうだと完全に雲雀さん側に寝返った事務ちゃんの野次が次々と身体に刺さるのを感じながら「はい……」「そうです……」「仰る通りです……」と壊れたラジカセのように同じ言葉を繰り返す機械と化した私は遺書の文を考えることに気を取られ、しょうがないと言わんばかりにまたため息をついた雲雀さんの様子に気付くことが出来なかった。
「君のその病的なまでの自己犠牲的思考はもう治せないだろうし、それが君の覚悟の源となってることぐらいわかってるんだけどね、このまま泣き寝入りなんて僕の腹が収まらない」
「は??いや、雲雀さんの手を煩わせるわけには………」
「目には目を歯には歯を。やるんだったら徹底的に。復讐ってのはそういうものさ」
「えっ??」
何小夜くんみたいなこと言ってんの??遅く発現した厨二病とも取れる発言に野々村のごとく耳に手を当てた私とは対照的に「報復タイムですね!」と事務ちゃんが嬉しそうにガッツポーズを残した。なんで乗り気なん事務ちゃん??報復って、え??まじ??
「本気だよ」
「さらっと心を読まないでください」
「君だってこのまま泣き寝入りは嫌だろう?どうせ修羅場は逃れられないんならあのパイナップルのへたぐらい千切ってやりな」
「アイデンティティーの喪失!」
パイナッポーヘアーじゃない骸とか骸じゃないから!!骸逃げて超逃げて!!収穫済みの頭部を思い浮かべる私の隣で事務ちゃんは楽しそうにジャコンと拳銃をリロードしてるし、嵐を生み出した雲雀さんはしらっとお茶を飲んでるし、私の周りに味方がいないことを思い知られた。四面楚歌。紅葉 は にげられ ない !
「まあ具体的な内容はというと、あの頭ごとプライドをへし折りたいところだよね」
「待ってまだ私了承してない」
「去勢できればなおいいかと思います」
「宮刑かな!?種の断絶はやめようね!!」
「………よし紅葉。僕と浮気しない?」
「……………はい?」
気のせいかしら?
「なっ、ななな!!コンビニ行こうぜみたいなノリでなんちゅーこと言ってるんですか!!」

想以上の食い付きの強さに

- 14 -

*前次#


ページ: