亡骸には微笑を添えて
い、今起こったことをありのままに話すぜ!!
今日期限の書類を届けようと沢田の執務室に足を運ぶ途中、任務を終えた骸と鉢合わせし、行き先と目的が一緒だからそのままの流れで喋りながら部屋に向かい、部屋のドアを骸がロックしようとしたその瞬間、部屋の中から女の人の叫び声が響いてきた。
「私は骸くんが好きなの!!」
いや何言ってんの忍さん???思わず真横にいる骸を見上げると、なんとも言い難い、強いて表現するなら苦虫を百匹噛んだような顔をしていて一瞬であっ……と、お察しになった。まあそうなるわな。ドアから数ミリで止まっていた手をゆっくり下ろした骸は、色々耐えるように額に手を当て、は〜〜〜と重すぎる息を引いた。何より怖いのがさっきの激発告白からなんの音が聞こえてこないことだよね。多分中には忍さんと部屋の主である沢田はいるだろうし、中の気配を察しようとも恐怖心が勝る。
………よし、逃げるか!!
隣も同じことを考えていたみたいでタイミングぴったりに身体を反転させると音をたてずにその場から離れようとした。
「待て」
まあ加治屋が許す訳ないよな!!!
頭の後ろでガチャンと銃を突き付けられる音がして直後聞こえる少年の声。お?謀反か??
ため息混じりに両手を上げ、一瞬で武器を取り出して本気でリボーンに向けた骸を宥める為にもリボーンに銃を下ろしてもらう。おいお前瞳孔を開いてんぞ。いくらお前でもリボーンと直接バトルって勝てる保証はないんだからやめとけ。今も殺気立つ骸の頭を平気平気とへらへら笑ってぽんぽん叩いてやると、「……貴女って人はほんと馬鹿ですね」となんとか武装解除してくれた。よかった。愛されてるのは嬉しいけど、無意識に六道パワー発動されるのはちょっと困るな〜〜〜。お前の能力は使ってるだけで周囲に影響を出すタイプなんだからもっと周りに気をつけて??普通の事務員だったら即精神崩壊不可避よ??
「……で、何のようですか??お取り込み中のようでしたので、報告は後回しにする予定だったんですけど」
「聞いてただろ?ちょっと来てもらうぞ」
「ええ……私このあとまだ仕事が」
「ボスの命令は最優先だぞ」
「痴話喧嘩にでもですか?」
「いいから来い」
「ソシャゲのイベント中なんですけど……」
「愛人とか作った方がいいのかな?」
まだ日が高く、窓から注がれる日差しも暖かく穏やかな時間に呟かれた言葉に、俺は口にしていたコーヒーを吹き出す羽目になった。書類に掛かってないだけマシと思えばいいのか。その代わり目が眩むほどお高いカーペットがおじゃんになったが、寝る間も惜しんでひたすらサインと印鑑を押しまくったここ三日を台無しにするのだけは避けたい。そうなったら発狂する。
何してんのお前と言いたげな視線を向けていた紅葉さんが咳き込む俺に代わってコーヒーを淹れ直してくれた。紅葉さんのコーヒーはリボーンですら唸るほど美味しいのでとてもうれしい。コーヒー独特の芳ばしい香りは乱れまくる心を落ち着かせてくれた。カップを持つ手は震えたままだが。落ち着ちとは一体。
「えっと、その、愛人って……」
「んー。今まで持つどころか予定すらなかったんだけど、ステータスとして一人ぐらいは持つべきなのかなと」
多分紅葉さんの脳裏に浮かんでいるのはリボーンだろう。愛人を四人持つ赤ん坊を基準にすべきではないと思うが、愛人=ステータスというのは間違っているとは悲しいことに言い切れない。
ただの愛人ではなく、どれだけ美人で賢くて能がある人と繋がりがあるかないかというのは大きい。そういう人ほど情報通であるし、嫌な話だけど純粋に自分自身の価値にも大きく関わる。やはり権力者ほどそれ相応の美人を侍らせる傾向があるのは事実だ。かくいう俺もそういう存在はいなくはないが、完全なるビジネスパートナーみたいな感じだし大体俺は京子ちゃんがいるわけで。でも京子ちゃんとハルこの前愛人と一緒にお出掛けしていたのを見た。仲良くやってるのは嬉しいけど男心的には複雑だった。
紅葉さんは女の人だけど、勿論男の愛人だっている。かっこよくて紳士で有能な人なんてこの世にはいっぱいいるのだ。ただでさえ、紅葉さんはボンゴレファミリー守護者。その肩書きだけで人は寄ってくるだろう。まあそんなのに惹かれてきた男なぞ結構硬派なところがある紅葉さんからすればごめんだろうけど。
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