閃光


千年彗星が流れる島


「明日から千年彗星が流れるんですよ!」

そう嬉しそうに言ったのは、茶色の三つ編みをゆったり背中に流している売店の店員だった。背後のボードには星の形をしたアクセサリーやキーホルダーが所狭しに掛かっており、その他の大きいものは手前の机にぎったり並べられていた。

「千年、彗星……?なんだそれ?」
「文字通り千年に一度だけ流れるとされる彗星よ。限られた地域でしか見られないと聞いていたけど、まさかここだったなんて。私たちラッキーだわ」
「お姉さんよくご存知ですね!」
「ふふ、昔本で読んだことがあるの」

くすくすと口許に手を当てて笑ったのはロビン。その横では、台に乗ったチョッパーが感心したようにロビンを見上げていた。

「千年彗星は明日から七日間、天候が良ければこの島のどこでもご覧になることができます。それに伴って明日からはずっとパレードですよ!」
「まあ、それは楽しみ!」
「パレード!綿菓子もあるのか!?」
「勿論!なんでもありますよ!お昼は皆で騒いで、夜は静かに空を見上げて祈るんです。願い事が叶いますようにって」

店員はそっと手を組むと、静かに目を閉じた。うっとりするように「素晴らしいですよね…」と呟くと、あっと思い出したように手を叩いた。

「そう言えば。お二方、『彗星伝説』をご存知ですか?」
「彗星伝説……?いいえ、聞いたことないわ」
「民謡みたいなものなのか?」
「はい。この島に古くから伝わるおとぎ話です。気になるようでしたら、丘の上の教会に向かわれるといいでしょう。シスターが子ども達に語り部していますので」
「そう、ありがとう。行ってみるわ」
「じゃあな!」
「はい!あなた方にも彗星の恩恵が降り注ぎますように」



●●●



「けど、千年に一回なんてすげぇなぁ……」

教会に向かう坂道を登りながらチョッパーがポツリと呟く。辺りは明日のパレードに向けて準備が進められ、頭上には既に提灯がぶら下がっている。子ども達が無邪気にロビン達を追い越して行くのを微笑ましく見送って、ロビンはそうねと返事する。

「千年に一度……人類史は長くても三千年もされているから、今回でようやく三回目ね」
「さ、三回だけ?スゲーなあ……」
「見ようと思って見れるものじゃないわ。そう思うと、私たち相当運が良かったのね」
「流石ルフィだな!」

チョッパーも言う通り、今回の登島も元々はルフィが海王類を追い掛けて、慌ててナミが航路を変更したことにある。完全にログポースからずれてしまったが、船長はそこまで気にしていないようだった。お祭り騒ぎの島の様子を見て、一目散に駆け出してしまったのをチョッパーは見た。ナミは激怒していたが。

「頻度もそうだけど、今までたった二回だけの催しがよく消滅しなかったものだわ。最新の記録も千年前のものよ。世界政府が樹立されたとほぼ同じタイミングだとすれば、この島の住民達が彗星のことを忘れていてもおかしくないもの」
「確かにそう言われてみると……」
「ここの人にとって、よほど大切なものなのね」

大きい望遠鏡を肩で運ぶ父親とバケットを持った息子が笑いながらロビンの横を通っていく。ようやく丘の天辺に着いたとき、教会の横の庭では多くの子どもが集まっていた。中心には、聖堂服を着た女性が本を片手に座っている。きっと、これから上映するのだろう。
子ども達から少し離れたところで立ち止まる。暫くわいわい騒いでいた子ども達もシスターが本を開くと同時に口を閉じた。

そして、シスターは物語を紡ぎ始める。

「これは、むかしむかしのお話です──」

この島のおくのおく。ふかい森をぬけ、大きな川を渡り、高い山を乗りこえた先には、美しい森が広がっていました。

その森は、季節によらず常に緑が生いしげり、花々は咲きほこり、生き物たちがしあわせにくらしている楽園でした。

森は、天から力をもらっていたのです。千年に一度、私たちに幸運を運んでくれる彗星からの力を大地にたくわえるのです。

その橋渡しになるのが──七夜の願い星、ジラーチ。

ジラーチは、彗星が空に顔を出す七日間だけ長い長い眠りから目覚めます。そして、私たちの願いを叶えて七つの夜を過ぎると、彗星から力を貰ってまた眠りに就くのです。

その眠りの間、ジラーチは私たちの島が豊かになるように、ちょっとずつ彗星の力を大地に注ぎ込みます。

ちょっとずつ、ちょっとずつ。

千年の時を経て、ジラーチは私たちに彗星の恩恵を与えてくれるのです。

もしジラーチに会いたいなら、ジラーチと友だちになりましょう。

いっぱい遊んでいっぱい笑って、七つ目の夜に、ぎゅうと抱きしめて子守唄を唄ってあげましょう。

あなたに清い心があるなら、

美しい歌が流れていたら、

きっとジラーチは目覚めてくれるはず。

今日は、千年彗星がやってくる夜。

手を組んで、空を見上げて祈りましょう。

空を駆ける彗星を、

ジラーチを迎えにきた友だちを、

笑顔で迎え入れて、あげましょう。

千年彗星、願いを叶える瞬き。

あなたにも、彗星の恩恵が降り注ぎますように────

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