閃光


変態です


世界の法則が螺曲がったのか、あの雲雀さんと付き合いだして一ヶ月が経過した。突然応接室でトンファーで壁ドンされて「付き合ってよ」と脅迫もとい告白されたときの心臓の高鳴りと言ったら!冥土へですか?と聞き返さなかった私を誰か褒めてくれ。結局無理矢理奪われたファーストキスで恋仲的な意味だとわかったのだけど、まあ一週間は信じられなかったよね。お父様かお母様がいい加減彼女を連れてこいとか煩くて適当に目に入った私を仕立てあげたみたいな展開だと思ったよ。全く雲雀さんたら〜そう言ってくれればよかったのに〜と言えば、セカンドキスを奪われた後に「恭弥、だよ」と飛びっきり甘い声で囁かれたら「ふぁい」としか言えないよね。キャラ崩壊が著しいぞいきなり名前呼びはしんどいです本当心臓が持たないから勘弁してください。あと姫路ちゃんの視線が怖いです。どこから情報が漏れたんだ。草壁さんからは「委員長を、恭さんをお願いします」と頭を下げられたし、他のリーゼント委員さんには「紅葉さん」と言われるようになり、沢田からは「秋山さんマジ?」と頭の様子を疑われたし、姫路ちゃんはおっそろしい目で睨まれるし散々だよ。でも、そんな私の周辺の変化を物ともせず、雲雀さんは時たま心臓が飛び出しそうになるものの普段通りである。学校の送り迎え、昼飯の同伴、放課後の委員会の手伝い等。かなりベタベタしていました。
という今日に至っては、我がマイルームに雲雀さんがいるという異常事態が発生している。いや私だって本意じゃなかったよ。休日ぐらい昼近くまで寝たいって誰しもが思うことだと思うよ?でもさ、この人急に来たんだもん。メールも電話もなしに突然部屋のドアが開いて、「いつまで寝てるの?」とトンファーを構えられたら「申し訳ありません委員長!!」と昔の癖と共にベッドから跳ね起きるしかない。委員長呼ばわりでまた機嫌は悪くなるし、取り敢えず部屋から出てもらって寝巻きからセーラー服に袖を通した。だって雲雀さんいつもの学ランなんだもん。仕事だって思うじゃん?休日も学校行って応接室で書類整理だって思ったわけですよ。髪も適当に結んで改めて雲雀さんを部屋に招き入れたら、あろうことか雲雀さんはそのままクッションの上に腰かけて、図々しくも「お茶ないの?」と丸テーブルを指トンしつつ要求し出した。雲雀さんの言うことは?ゼッターイ!というわけで慌ててお茶と茶菓子を用意して、今に至る。
真顔でお茶を啜る雲雀さんの反対側にちょこんと腰掛けて数分。なんのリアクションもないけど、グラスを放り投げてトンファーを振り回さないからお気に召されたご様子だ。よかった!なんとか生き延びれたぞう!
「あ、あの雲雀さん……」
「は?」
「ひっ」
「ちょっと。恭弥と呼べって言ったよね僕」
「名前呼びはちょっとハードルが高いんです勘弁してください!」
「………チッ」
こ、怖えええ!眉間にギュッと皺を寄せて殺気を放つ雲雀さん。目の前に彼女(仮)がいるのをご存知ですか?ゴンッと乱暴に置かれたグラスにヒビが入っていないことを祈りつつ、話を続ける。
「その、今日はどういったご用件で……?」
「別に」
「へ?」
「何もないよ」
じゃあ何故ここにいる?戸棚から出してきたまんじゅうを噛る雲雀さんとは正反対に、私は彼の言葉の意味を探る。大体雲雀さんは言葉が少なすぎるんだ。マシンガントークまでとは言わないからせめて主語述語目的語ぐらいらしゃべってほしいかな。死んでも言えないけど。
と、雲雀さんははぁとため息を溢した。
「君、馬鹿なの?」
「馬鹿でごめんなさい」
「……別にいいでしょ。恋人の家に来たって」
「……え?」
「今日は仕事終わらせてきたから午後からは自由だよ」
いつも仕事手伝ってくれるからね。たまには、まあ、君の趣味に合わせるよ。と、口速に吐き捨てるだけ吐き捨ててごまかすようにまんじゅうを口に放り投げた。私というと、思考が停止している。
あの、あの、雲雀さんが、人を気遣った、だと………?
傍若無人、自己中心的、群れてるやつは咬み殺すの並盛のジャイアニズムと名高い雲雀さんが、態々私のために時間を作って、こんな喪女に貴重な休日を費やしてくれるというのか?
ヤバイ。泣きそう。目を擦る振りをして溢れそうな涙を隠す。なんか成長の兆しを見せた息子を見た心境。大人になったのね……。そこに彼氏に気遣ってもらったという喜びはあんまりない。だってまだ雲雀さんと付き合ってる自覚ないし。き、キスだって全部相手から強制的にだから。現実をうけいれるのにはもうちょっと時間が欲しいです。
しかし、喜びに浸っている暇はない。雲の守護者に相応しい気儘さを持っている雲雀さんだ。このまま放置を続けていたらやっぱ帰るとか言われるかもしれない。気が変わらないうちに遊ぶことにしよう。
私の趣味に付き合うということは、つまりゲームをするという解釈でいいんだよな?じゃあマリカでもしよう。てか雲雀さんゲームしたことあるのかな?きっとハンドル傾けたとき体も斜めるタイプだな。と、踊る心を押さえつつもゲームのセットをしようと部屋のテレビのスイッチを押そうとしたとき、下腹に違和感を感じた。

言わずもがな、尿意である。強制的に叩き起こされてから雲雀さんの接待に必死でトイレに行ってなかった。気がついたら最後、段々と辛い状態だと自覚してしまうのである。
ま、まあ誰でもトイレは行くものですからなんの恥ずかしさもないんですけど!せっかく雲雀さんが柄でもないことを言ってくれた直後に「すんませーん。ちょっとトイレ行ってきまーす」とは言えないわけですよ!しかし、そろそろ限界を感じ始めてて!
四つん這いの奇妙な体制で静止した私に雲雀さんは怪訝そうに近寄ってきた。
「ねえどうしたの?」
「あ、あの……ちょっと……」
「はっきり言いなよ。何?そんなに僕と居たくない?」
「違います違います!ただちょっと、その、お手洗いに行きたくて……」
お手洗いとオブラートに包み込んだ私に、とんちんかんな勘違いをした雲雀さんはきょとんとした様子で私のすぐ脇に立っている。太ももを擦り付けてなんとか持ち越えてる様子を雲雀さんにガン見されてて、もうね、顔から火が吹きそう。しかし、我慢できる気がしないほど追い詰められている現状は変わらないので、秋山紅葉、勇気を振り絞ります!
「ちょっとお手洗いに行ってきま……」
「僕も行くよ」
「………え?」
「もう限界なんでしょ?」
「え、ちょっ!」
無理矢理立たされて腕を引かれてトイレまで誘導される。気がついたら便器に座らされてて、バタンとドアが閉まったと思ったら、目の前で雲雀さんが狭そうに膝付いていた。
え、ちょっと、じょうきょうが、わからない。
「あ、あの〜雲雀さん?ちょっとそこにいると困るかな〜って思ったりするんですけど〜?」
「なんで?」
「逆になんでと言われてるのかがわからない」
どうしてこういう行動を取ったかはさておき、出てもらわないと本気で困る。まさか見てる目の前で出せと?そんな変態チックなこと、風紀を何よりも愛する雲雀さんに限ってそんなことあるわけが。
とここまで考えて、少し下にある雲雀さんを見て、ぴしりと固まった。
高陽とした頬、細かくなる呼吸、舌舐めずりする唇、爛々と光る目。まるでそれは、獲物を狙う肉食動物のような面持ちで、
「ねえ、紅葉」
雲雀さんの白い手が私のくっついた両膝の上に置かれた。そして、うっそりと微笑んだ。
「見せて。出してるところ」
うそだろ。
「え、ひば、りさ、」
「ねえいいでしょ?」
「や、やだ……」
なんとか絞り出せた拒絶の言葉も、雲雀さんは介せず、更に笑みを深くしただけだった。見るからに興奮している雲雀さんは性急な様子で膝を無理矢理左右に大きく開いた。
「やっ!」
「ほら、スカート持ってて」
「ひばりさ、やめて、」
「照れてるの?ふふ、かわいい」
こんなときにそんなこと言われなくない!!
ふるふると首を振るも、雲雀さんは無理やりスカートを握らせて胸元まで上げさせた。お陰で下着が丸見えである。もうやだ、誰か殺して。
「白?もうちょっと色気のあるのなかったの?」
「んなこと、知りませ、んよ!」
「ああ泣かないでよ」
ぽろぽろ目尻から溢れてきた涙を、雲雀さんはぺろりと舐めて拭き取る。はぁと熱い吐息が耳たぶに当たって、ゾクッと背筋に痺れが走る。いや最早悪寒である。「ふぁ」と間抜けな声も漏れてしまい、そんな反応に寧ろ劣情が煽られたのか、いきなりキスをされたと思いきやぬるりと熱く柔らかいものが口内に侵入してきた。舌、と気づいた頃には、歯茎の裏を順番にねぶられ、じゅっと下品な音を立てて舌を吸われて、もういや。
そろそろで酸欠で死んでもおかしくないって時にようやく口が離れた。酸素不足でぜえぜえいう私に対して、雲雀さんはけろりとしている。いや、むちゃくちゃ興奮してる。目がギラギラしてる。文字通り食べられそう。
って、下半身がやけにすーすーする。
「………ぎゃっ!!」
パンツがない!さっき色気がないとばかにされた白いのは、雲雀さんの足元にくるまって転がっている。反射的に閉じようとした太ももは、雲雀さんの人間離れた腕力で押さえ付けられた。
「や、やだ……見ないで……」
「へえ、まだ毛生えてないんだね」
そうだよ悪かったな死んで償うからもうやめてくださいお願いします。
見られるのがこんなに恥ずかしいなんて。一番汚いところの筈なのに、雲雀さんは更に笑みを深くしてそうっと割れ目に沿って指でなぞった。
「ひ、!」
「ねえそろそろ出してよ。限界でしょ?」
「い、やです!」
「そう」

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