閃光


帰郷


同年代の子どもと比べ、名前はよく本を読んだ。と言っても専らほとんど文字のない絵本だったが、それでも1日一冊は何かしら読んでいた。幼稚園の本棚はほとんど読み尽くしたと言っても過言ではない。もしかしたら童話作家である自分が召喚されたのはそのせいなのかもしれないと、アンデルセンは考える。子供部屋を見渡すとおもちゃが散乱しているが、きちんと並べてある本は使い込まれているように角が潰れている。余程読み込んでいるのだろう。この中に自分の著作も数冊あり作家としてこの上ない喜びを感じる。
名前の両親は家を開けることが多く、そのときはアンデルセンは名前を連れてよく図書館へ連れていった。最寄り駅のすぐ近くに県内で有数の大きさを誇る図書館があった。なんでも、数年前にリニューアルされ、施設内にカフェが出来たり、子供用の広場も増設されたりなど、かなり評判はいいらしい。アンデルセン自身も中々この図書館を気に入っていた。それは、続いて召喚された賢王ギルガメッシュも同じだった。媒体が石板しかなかった時代を生きた彼にとって、小さく軽くて綺麗なのに莫大な情報量をもつ現代の本をいたく気に入ったらしい。「木材が乏しいウルクでは考えられぬな」最初は本屋にあるもの全て買い占める気だったが、「そんなもの宝の持ち腐れになるに決まっているだろう!」とアンデルセンの必死の説得により、渋々図書館の貸し出しサービスで妥協している。
図書館に訪れた際、真っ先に向かうのは子どもエリアだった。名前はまだ絵本しか読めないからだ。しかし、他の二人が大人しく絵本を読んでいるはずもなく、アンデルセンは分厚い専門書を自分の体が隠れるほど持ってきて読み漁り、ギルガメッシュはもっと分厚い憲法法律の専門書を読みふけっている。可愛らしいポップが並ぶエリアに、難解な本をいとも容易く読み飛ばす美しい少年と青年の間で、ぐりとぐらを楽しそうに眺める幼女の様子はどう見ても異質だが、誰もその空間に踏み入る勇気はなかった。
読書を楽しむのもあるが、図書館に訪れるのにはもう一つ訳があった。それは、個性である。無論、アンデルセンやギルガメッシュが生きた時代には個性は存在していない。しかし、今世では当たり前のように異形の人間が生活している。そのようすに酷くジェネレーションギャップを受けた。昔では化け物と呼ばれてもおかしくない外見をしているのに、それが普通に社会に受け入れられているのだ。ギルガメッシュですら、手が八本ある単眼の人間を見たとき思わず宝具を展開しかけた。今はどうにか慣れてきたが、個性を理解しないからにはこの世界で生きていくのは難しいだろう。そう考えた二人は、とにかく個性の知識をかき集めた。
一人一人違うという厄介な性質を持つ個性だったが、ある意味それはサーヴァントにとってもありがたいことだった。例えば体型。アンデルセンのような子供の姿なのに大人という非常に説明しずらいことでも、「こういう個性」と言ってしまえばどうにでもなった。ギルガメッシュの宝物庫も同じである。人前で使っても驚きはされるが皆「ああ、そういう個性なんだな」と勝手に勘違いしてくれる。公共の場での個性の使用は禁じられているが、他人に迷惑がかからなければ見逃されることも多いそうで、今のところトラブルは起こっていない。

「ふむ。大体わかってきたわ」

パタンと顔が隠れそうなほど分厚く大きい本を片手で閉じ、無造作に机に投げた。その際、ばたんっ!と大きな音を立てたが気にしないようすで鼻を鳴らす。心底煩わしいと言わんばかりにアンデルセンは眉間にシワを寄せた。

「うるさいぞ賢王。静かに本も読めないのか?」
「まあそう目くじらを立てるな作家。そろそろ休憩でも挟もうと思ってな」
「……三時間ぐらいか。まあ珈琲の一杯でも飲みたいものだな。確か一階にコーヒーショップがあったはすだ。行くぞ」
「……待て。貴様、よもやこの我に代金を支払わせるつもりか?」
「この中で金を持ってるのはお前だけだろう」

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