情けは人の為ならず
名前が引っ越す三年前、つまり小学校一年生の時、緒川村の人々に危機が迫っていた。
緒川村は郊外に位置する人口四千人ほどの村である。娯楽施設はほとんどなく、病院すら車で三十分という有り様だが、豊かな自然、広々とした土地、美味しい特産品など、住民は不満なく暮らす実に穏やかな村だった。
しかし、そんな緒川村の役場に衝撃的な知らせが届いた。緒川村は四方が山で囲まれており、電車で四十分もすれば都会までつける立地の良さも売りであったが、それに目をつけた市から山々を開拓してごみ処理所にしようとしていたのだ。これには、役人おろか住民も混乱した。彼らにとって、山含めたここの土地は宝そのものである。それをごみを埋めるために切り崩して、ごみを積み、もうもうと灰色のガスが放出される場所になるかど我慢しきれなかった。勿論、市の職員が何度も安全性や公害の有無を説明しに来たが、納得できるようなものではない。あろうことか、こちらの利益がこれっぽっちもないのだ。
断固反対する住民に、市は痺れを切らしたのか、周辺の山々を買い取ると言い出した。総額にして十数億だ。市からしても痛い出費だが、後々出てくる損得を考えると妥当の金額だと判断し、早速売りに出されている北側一帯を買い取ろうとしたのだ。
これには住民もどうしようもなかった。この村に十何億という大金をぽんと出費できる資産家はおらず、募金を募っても間に合いはしないだろう。そもそも、集まるかどうかすら危うい状態だ。
諦めムードが住民の中で漂いだしたそのとき、北側一帯の土地が売れたという情報が入っていた。市ではない。一般人だというのだ。役人曰く、突如やって来たスーツ集団はスーツケースに入った札束を見せると「今すぐ土地が買いたい」と言い出したそうだ。範囲は、例の山々を含めた村で一番の高台の平地周辺。広さにして、東京ドーム十個分の広さだ。あまりに広大すぎるため、ゴミ処理場のスペースがなくなり、市は計画を白紙に戻したらしい。
我らの土地が守られたと喜ぶ反面、誰か買ったのだろうと疑問に感じた。住民からすれば変えがたい土地だが、もっといい場所なんていくらでもあるだろう。お世辞でも栄えてると言い難い田舎で何をするつもりなのか。ゴルフ場やら工場やらリゾートやら色々な噂が飛び交うなか、
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