閃光


恋は怪物B


訓練の内容は、一年生の一学期期末とほぼ一緒だった。私たちヒーローは一定時間内に訓練所を脱出するか、ヴィランを捕獲テープで拘束する。逆にヴィランは、ヒーローが脱出するのを防ぐかヒーローを同じく捕獲テープで戦闘不能状態にする。
これに対し、緑谷くんは、脱出する方法を提案した。轟くんの言うことが本当なら、到底戦闘では敵わない。四人一斉にかかっても一網打尽されてしまえば終わりだ。なら、遭遇する前に抜け出した方が勝機がある。この作戦は探索が得意な私にかかっていた。

訓練開始から数分は問題なかった。市街地の様子に気になる点はないし、私も特別おかしな音は聞き取れない。そして、脱出ゲートまであと数十メートルといったところで、順調だった足が止まった。耳を澄ませると、微かに聞こえる布が擦れる音。時折金属同士が摩り合う音もするが、恐らく立ち止まって動いていない。
このことをそのまま皆に伝えると、お茶子ちゃんがこの市街地の地図を取り出した。ゲートの前は、直径十メートル以上もある大きな道路。私たちはその道路の路地裏に隠れている。ゲートを抜けるにはこの道路を通らなければならない。しかし、ゲートの前では、名字さんが待っている。

「強行突破しかねぇだろ」
「でも、名字さんの個性がはっきりわからない中、がむしゃらに飛び出すのも……」
「私は切島くんに賛成かなぁ。ここにいてもタイムアップで負けちゃう気がするし」
「私も。要は一人が出ればいいんでしょ?一番脚の速い緑谷くんを残りがフォローすればいいんじゃない?」

私の意見が決め手になったようで、緑谷くんは腹を括ったように眉を釣り上げた。

「3、2、1、で行くよ」

先頭のお茶子ちゃんが指を三本出した。みんなが頷くのを確認して、カウントが始まった。

「3、2、1…ゴー!」

発進の合図と共に、全員が一斉に路地裏から飛び出した。そして、一目散にゲートへ向かおうと顔を上げた途端、全員の動きが止まった。

道路の中心、私達から十数メートル先にいる人物。全員が名字さんだと思い込んでいた人影は、明らかに名字さんではなかった。

真っ先に目に入ったのは、真っ赤なドレスだった。正面は半透明のレースになっていて、瑞々しい太股が露になっている。後ろで緑谷君が悲鳴を上げていた。風に揺れてきらきら瞬く金髪、そして、その奥には、美術品の如く美しい造形をした顏。思わず息を飲むほどだった。

私たちは、一歩もそこから動けなかった。敵相手に突っ立ってるなんて愚行中の愚行だというのに、美しい彼女から目が離せない。

閉じていた瞼が開いた。

「よく来た!余に抗いし勇者たちよ!」

突然の呼び掛けでまともに機能していなかった脳が強制的に起こされた。半ば金縛りのような感覚から解放され、どっと一気に疲れが溜まった。

「うむ?よもや、余のカリスマぶりに酔いしれているのか?まあ余の美しさに見とれるのは仕方ないが、そう反応がないと気が滅入ってしまうぞ」
「あ、あなた……は………?」

絞り出すような声でそう聞いたのは緑谷くんだった。汗まみれで今にも倒れそうだけど、なんとか一歩前に出た。

「よくぞ聞いた!貴様らに余の名を知る権利を与えよう!余の名はネロ・クラウディウス!ローマの皇帝にして、世界を統べるもの!時折アイドルになったりもするぞ!」

アホ毛をぴょこぴょこ動かせて、胸を張りながら満面の笑みで答えた名は、世界史を学ぶものなら誰でも知っている暴君の名だった。

「ネロ……だって!?」
「うむ!まあ、今はマスターのサーヴァントであるからな。セイバーと名乗るべきなのかもしれんが、まあよい!勇者らよ!余はマスターの命により、ここから先は一歩たりとも進ませはせん!しかし、余はそなたらの心意気を無下にせん!そなたらには極上の持て成しをしてやろう!」

そうして、ネロと名乗った少女はどこからか真っ赤な剣を取り出し、

「門を開け! 独唱の幕を開けよ!」

そう叫ぶと、剣を真っ直ぐ地面に突き刺した。






`これ´を表す一番最適な言葉は、絢爛豪華だろう。
床から天まで届きそうな天井まで、目が眩むほどの金色で統一され、金色を横切る深紅の垂れ幕とカーペットが爛漫な印象を増大させる。
壁には巨大なパイプオルガンが組み込まれ、玉座には二本の剣が交じり合った旗が靡いている。そして、空を赤く染める、花弁。
その中心に立つのは、この劇場の如く金の髪に赤の装束を纏った、美しい女の子。

「─我が才を見よ!」

一歩前に踏み出し、

「万雷の喝采を聞けぃ!」

剣を振り上げ、

「しかして称えよ!」

そのエメラルドの瞳を輝かせ、

「この黄金劇場を!」

かの暴君は妖艶に微笑んだ。

「童女謳う華の帝政 (ラウス・セント・クラウディウス)!!」

それからのことはよく覚えていない。唯一記憶として残っているのは、目が痛いほどの金色と空気を赤に染めた花弁の乱舞。その中で軽やかに舞うネロ皇帝の姿だった。
半分夢見心地で訓練所を出る。会話もなく、ふらふらと幽霊のように歩き、モニター室へ着くと、へにゃりと座り込んでしまった。

「な………」

「「「「なんだアレはぁ!!」」」」

四人が一斉にそう叫んだ。

「道に知らない人がいたと思えば体が動かなくなるし!」
「と思えば、めちゃくちゃ美人でネロ皇帝とか言ってるし!」
「なんかめちゃくちゃ豪華な建物が現れるし!」
「なんか個性使えねぇし!」
「花弁は舞うし!」
「わけわかんなーい!!」

緑谷くんは、意味不明現象が連発したせいで頭がパンクしてるし、お茶子ちゃんは劇場の雰囲気にまだ飲まれているし、切島くんは負けた悔しさで男泣きしてるし、正しく阿鼻叫喚だった。かくいう私も現実逃避することでなんとか正気を保っている。

「まあまあ。随分メタメタにされたようだね」
「リカバリーガール!あの個性って一体なんなんですか!?」
「さあ。私も詳しいことは知らないよ。後で説明を受けるだろうさ。それより、他のチームの見なくていいのかい?」

と、リカバリーガールが指差す画面には、第二チームの映像が写っていた。慌ててモニターの前に移動すると、このチームは爆豪くんのいるチームだった。派手に爆発しながら爽快に進んでいた爆豪くんだったが、急に急ブレーキをかけた。そのまま家の屋根に着地したと思えば、ゲートの方を見つめては眉を潜めた。

それもそのはず。ゲート周辺には夥しい数の烏がいた。飛んでいたり、電線に止まっていたりと様々だったが、奥のゲートが見えないぐらい密集していた。すると、烏の群集から何かが飛び出してきた。

女の人だった。髪も服も背中から生える翼も全て真っ黒で、その分肌が白く際立っていた。彼女は音もなく架空し、電信柱の天辺にゆっくりと降り立った。二人の距離は十数メートル。先に声を出したのは女の人の方だった。

『一応確認します。貴方はこの訓練でヒーロー役をしている生徒ですね』
『だからなんだってんだ殺すぞ』
『ならよいのです。単刀直入で言いましょう。私はあなた方をゲートに通す気はありません。このまま引けば見逃しますが、これより先に進むとなればこちらもそれ相当の対応をします』
『………降参しろっつーことか。あ?』
『そういうことです』
『ハッ!ナマ言ってんじゃねぇぞザコが!!ぶっ殺すぞ!!』
『交渉炸裂ですか……出来れば戦闘は避けたかったのですが仕方ありません』

そう言うと、女の人は手に合った杓子を高くあげると、爆豪くんへと振り下ろした。その直後、ゲート前ではたむろしていた烏が爆豪くん目掛けて一斉に飛びだった。何万羽という烏が空を埋め尽くす様子は、異様だった。別のモニターでは、爆豪くんと同じグループのメンバーが空を見て悲鳴を上げている。
爆豪くんは溜めたニトロを烏の大群へと放出させた。轟音と共に広がる硝煙の量に、爆豪くんの勝機が見えかけた。

『甘いですね』

噴煙が一瞬で霧散した。爆豪くんが目を見開いているのがわかる。空は先程と変わらぬ数の烏が埋め尽くしている。落下した烏は一匹もいなかった。

『ここにいる烏は所謂私の使い魔のようなものでして、肉体はなく影で構成させています。つまり、物理的攻撃は効きません』
『なっ…!?』
『はい捕獲』

呆気にとられた爆豪くんは、身に降り注ぐ烏の大群に無情にも取り込まれてしまった。烏は各々合体に溶けて帯のようなものへ変化した。それは、瞬く間に爆豪くんを拘束し、体の自由を奪った。そして、それは他のメンバーも同じだった。

《Bチーム戦闘不能。ヴィランチームの勝利》

機械特有の抑揚のない放送が、空しくモニタールームに響いた。隣で緑谷くん「うそだろ……かっちゃんが……!?」と信じられないものを見たようにloseの文字を凝視している。

Cチームは、森林でのスタートだった。AとBとは違い、Cチームはスタート地点からほとんど進めず時間切れとなった。何しろ、開始直後から青い光が雨のごとく降り注いだのだ。形状的に矢に見えるが、一本一本が地面に突き刺さる度爆発が起こるものだから、頭を抱えて隠れるしかない。狙撃主を探そうとも、近くに高台はない。モニタールームにいた私達だからわかることだが、狙撃主は五百メートルほど離れた丘にいた。青い模様が刻まれた白い装束を身につける褐色の肌の男性だった。彼は約十五分間、青い炎の弦を休む暇もなく引き続けた。訓練終了のアラームが鳴っても疲れた様子はなく、静かに森の中へ消えていった。

最後のDチームは、よくわからない展開だった。途中まではよかったが、エリアの中央部に達した所で突如ド派手な爆発が起きた。と言っても派手な音と煙で命の危険はなかったが、軽く油断していたメンバーは散り散りに吹っ飛ばされてしまった。
そこで起こったのはドッペルゲンガーだった。同一人物が二人表れる現象。スタート地点付近にのいるはずの瀬呂くんが、ゲート近くで飯田くんと話していたのだ。するの、飯田くんと一緒にいた瀬呂くんは、突然なんの前触れもなく、飯田くんを捕獲テープでぐるぐる巻きにしたのだ!

『はっ……?せ、瀬呂くん?一体……?』
『あ、おれ敵役な』
『あ、え?え?ええええ!?』
『ん〜次はあっちかぁ。じゃあな飯田!』

と、手をひらひらさせてさっさとそこから離れた瀬呂くん。飯田くんはまだ混乱している。更に、この数分後には、響香ちゃんが二人表れてやっぱり片方が上鳴くんを捕まえていて、気がつくとヒーロー全員が捕まってしまっていた。

「私の“個性”はGrandOrderです」

訓練後、へとへとでボロボロの皆の前で汚れ一つもない名字さんはそう言い放った。

「英霊と呼ばれるサーヴァントを召喚し、使役することができる個性です。英霊とは、英雄が死後、祀り上げられ精霊化した存在であり、本当に実在していたか否かは問題ではありません。詳しいことはややこしくなるんで割愛しますけど、要するに有名人が幽霊として一時的に甦ったという認識で構いません。Aチームのサーヴァントは皇帝ネロ・クラウディウス。Bチームは日本神話の神鳥八幡烏。Cチームはマハーバーラタの英雄アルジュナ。Dチームは…真名は言えませんが、歴史上欠かせない人物です。更に彼らにはクラスが振り分けられ七クラスとエクストラクラスに大きくあり──」
「ごめん、さっぱりわかんない」

名字さんは瞬く間にクラス、いや学校に馴染んでいった。クラスメイトとの仲睦まじい姿は、数日前では初対面だったと思えないほどだった。当たり前のようにクラスに来ると席に座り、昼休みは仲良く食堂でお昼ご飯。帰るときは、途中まで誰かと一緒だった。
クラスの誰もが、彼女のことを好意的に思っているようで、積極的に彼女に関わっていき、名字さんもそれを嬉しそうに受け入れていた。八百万さんと分からないところを教え合ったり、三奈ちゃんと昨日見たテレビの話題で盛り上がり、緑谷くんとヒーローについて討論したりと、誰でも分け隔てなく交流しているようだった。なんと言っても、やはり轟くんとは並々ならぬ仲があるようで、あんな楽しそうに会話する轟くんは久しぶりに見た。緑谷くんと話すときですら無表情なのに。
先生の評判も上々だった。名字さんは賢かった。英語の時間、名字さんのスピーチを聞いたプレゼントマイクは「めちゃくちゃクリアーなクイーンズイングリッシュだな!」と絶賛し、ヒーロー基礎学の抜き打ちテストを初っぱなから百点をとっていた。そして、なんと言ってもヒーロー実習のときの活躍だろうか。名字さんは、戦闘員というより指揮官の方が向いているようで、その状況で最適な判断を下すことができた。その為、彼女のサーヴァントは忠実に彼女の指示に従った。圧倒的な力を持つサーヴァント達を一番有意義に使えることが出来たのだ。その為、彼らはいつも成績がよかった。
寮だって彼女の影響が多い。校長先生の許可をとったようで、サーヴァント達が寮を彷徨くようになったのだ。しかし、それについて、文句を言う人はいない。それもそのはず、彼らのお陰で私たちの生活のクオリティが劇的に上がったのだ。エミヤさんとブーティニカさんとキャットさんの三人が寮の食堂を切り盛りするようになってから、とてもご飯が美味しくなった。量も質も上がり、レパートリーも増えた。栄養もバランスが取れているようで、カロリー制限をしている生徒もお腹一杯に食べれるよう工夫されていた。ニコラさんは電気関係に強いようで、寮の設備を瞬く間に改良したところ、電気消費量が半減した。減った分他の設備に回すことが出来、とうとう寮にサウナが設置された。これに喜んだのは爆豪くんだった。発汗が個性発動の条件である彼にとってサウナは絶好の訓練設備らしく、設置された後でもニコラさんに色々注文をつけているらしい。それに対抗したのは、ニコラさんの宿敵だというエジソンさんだった。ライオン頭の彼は、寮の空きスペースにちょっとしたジムを設置したり、全自動マッサージチェアを二十台並べたり(流石に邪魔だと名字さんに怒られて五台まで減らした)、私を含めた音に敏感な個性を持つ生徒も多いとのことで、部屋と部屋の壁の防音を強化したりした。このお陰で、私は夜中に目覚められることはなくなったし、障子くんは瞑想する時間が増やせたという。
技術的な面ではなくても、例えば玉藻の前さんやメディアさんは、(女子限定だが)マッサージやお化粧の仕方を教えてくれたり、マリーさんは自分の香水を少し分けてくれたりした。男子は、クーフリンさんやベオウルフさんを相手に訓練しているらしく、ボロボロになった彼らをナイチンゲールさんが般若のような顔で追いかけて捕まえては治療を施した。勉強では、ダ・ヴィンチちゃんや新茶さんに教えてもらうとよくわかった。共用の本棚には、彼らが持ってきた本で次々埋まり、ソファやローテーブルには、ヴラド二世さんが作ったというおしゃれなクロスやカバーがいつの間にかにかかっていた。

「腹へったー!エミヤさーん、今日の夕メシなんスか?」
「上鳴くんかね?今日のセレクトはオムライスとラーメンと焼き鮭定食のどれかだ。好きなものを選びたまえ」
「うっひょー!うまそー!なににすっかなー」

「エジソンさん、お願いがあるんすけど、」
「ム!君はキリシマ少年だったか?何かね?」
「トレーニングルームにパンチングマシーンっぽいのが欲しくて。どのぐらいの力か測れるようなやつ。作れますか?」
「勿論だ!この発明王に作れぬものなし!君の期待以上の物を作ると約束しよう!」
「マジすか!ありがとうございます!」

「ちょっとそこの貴女!茶髪の!」
「う、うち?」
「貴女よ。何その頭。爆発にでも巻き込まれたの?」
「え!うそ!恥ずかしいわぁ…!」
「ちょっと来なさい。直してあげるから」
「すみません……」
「訓練が大変なのはわかってるけど、少しは見た目に気を配りなさい。女の子なんだから」
「は、はい!」

「ダ・ヴィンチさ……ダ・ヴィンチちゃん、質問いいでしょうか?」
「おお八百万ちゃんだね!いいとも!さてさて、どこだい?」
「ここの問題なのですが……」
「フムフム。確かにこれは難問だ。しかし、着眼点をすこぅしばかり変えてみると答えが見えてくる。この数式に注目すると……」

「なんと!素晴らしいパワーですね。緑谷少年と言いましたか。実によい個性をお持ちだ」
「は、はいぃ!ありがとうございます!えっと……」
「円卓の騎士が一人、ガヴェインと申します。いやはや、大変感服しました。その体のどこにその力が眠っているのか、想像もつきません」
「そ、そんな!僕なんてまだまだで!ガヴェインさんの方が全体的なバランスもいいし、攻防どちらにも優れてるし、何より昼間のパワー増幅はすごい強みだし……」
「ご謙遜なさるな。貴方のその力は貴方自信の志から来ている部分も多いのでしょう。自分に自信を持つべきです」
「ありがとうございます……」
「今見たところ、少し体の軸がぶれているように思えます。体幹は体を支える最も重要な部位です。そこを鍛えれば、更に上に行けますよ」
「ホントですか!?なるほど、体幹かぁ。確かにジャンプ後の空中でどれだけ姿勢を維持できるのかも重要だよな。今のうちから基礎を固めておく必要があるなぁ……」

彼らは歴史に名を残すに値する力を持っていた。戦闘力も、頭脳も、技術も、人望も。しかし、決してでしゃばることはなかった。「今生きているのは私たちではなく、君たちだ。この世界の主役は君たちなのさ」と言ったのはダ・ヴィンチちゃんだったか。この謙虚な姿勢も好感度アップに繋がったのか、僅か二週間でサーヴァントを含めた名字さんは、みんなから絶大な信頼を集めた。

ああ、気にくわない。

むかつくしイライラするし、サーヴァント達が平然と寮をうろうろしているのを見るとやけに鼻につくし、何より名字さんが呑気にへらへら笑ってるのを目にした日には虫酸が走って収まらない。サーヴァント達はまだいい。そう、全ての元凶は名字さんだ。
何笑ってるの?「名字さんが来てくれてからいいことだらけだよ!」とか「このままずっと雄英にいればいいのに」とか「先生もきっと賛成してくれるよ!」とかやたらめったら褒められてそんなに嬉しいの?貴女は何もやってない。全てサーヴァント達がやったこと。皆は貴女ではなくて貴方のサーヴァントを求めているって気づいていないわけ?貴女がいようがいまいようが関係ない。
なのに!皆は名字さんを仲間だと認め、サーヴァント達は彼女を主と敬い、慈しんでいる。普通なのに!地味なのに!これといった取り柄がないのに!強力な守護者を呼び出すなんてチートみたいな個性を持ってるだけでちやほやされて!そう!ランサーさんにも愛される!

ずるい!ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい!私の方が可愛いはず!女子力も高いはず!気配りもできるはず!彼に相応しいはず!なのに!やっぱり名字さん!

イライラする。こんなときには、パソコンを開くのみだ。何年も前から細々と続けている日記。普段なら二週間に一回ぐらいだったのに、最近はストレスが溜まりすぎて毎日のように殴り書いている。読者からの反応はいいねしかないけど、きっと皆も私の気持ちをわかってくれているはず。どうしようもなく邪魔で目障りな女の話。

そんな私の日記を、顔を真っ青にして読んでいる“彼女”の存在なんて、知る由もなかった。



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