閃光


夢うつつ


「君たち、少しいいかい?」

むちゃくちゃ美人のにーちゃんだった。柔らかい緑色の髪を背中に流して、ゆったりとした服を着こなしたにーちゃん。これでサングラス付けてたら完璧にお忍びセレブ感があった。つーか男だよな?男にしたら細すぎだし女にすれば体の凹凸がない。性別不明。でも、雰囲気的には男っぽいし、にーちゃんでいいか。

爆豪と切島と瀬呂と俺上鳴は、この休日新しくできたショッピングセンターに遊びに来ていた。午前中はゲーセン行って昼にハンバーガー食って、映画の時間まで結構あるから何しようかぐだぐだ駄弁りながら相談していたときに、にーちゃんに話しかけられたのだ。
突然のイケメンに、俺含めた五人は揃いも揃ってポカーンと口を開けてしまった。いやだって、こんなイケメンテレビでも見ねーよ。にーちゃんの周りだけなんかキラキラしてるし、イケメンパワーが凄まじい。目が潰れそう。あの爆豪ですら目ぇかっぴらいてたから。

「あ、スンマセン!ボケてました!どうしたんスか?」

よし!よくやったぞ切島!一番に覚醒した奴のお陰ではっと我に返ることができた。後ろで瀬呂がボソッと「うわぁ……やっべぇ……」って言ってて内心禿同。爆豪は何も言わなかったけど、にーちゃんの顔をガン見してた。お前何気に面食いだもんな。

「いや、連れと離れてしまってね。金髪の男性だけど、君たち見ていないかい?」
「金髪のッスか?お前ら見てねぇよな?」
「だなぁ」
「俺も見てねぇ」
「そうか………」
「………ケータイはねぇのか?」

そう言ったのは爆豪だった。そっか、お前一応ヒーロー志望だもんな。人を助けるのに抵抗なかったな。
しかし、にーちゃんは困ったように眉を下げて肩を竦めた。

「生憎元々持ってないんだ」
「マジすか」
「便利だとは思うんだけど、中々操作が慣れなくてね。つい壊してしまうんだ」
「壊すって……」

どんだけ機械音痴なんだよ。
どうしようかと途方に暮れるにーちゃんに切島がそれじゃあ!と声を上げた。

「俺らも探しますよ!」
「え、でも君たち予定があるんだろう?」
「映画の時間までどうしようかって悩んでたんで平気ッス!な?いいだろ?」
「俺もいいぜー」
「瀬呂と同じく!」
「………さっさと探すぞ」
「決まりッスね!」

切島がにっかり笑うと、つられてにーちゃんも顔が綻んだ。うわやべっ。超美人。周りでこちらの様子を窺っていた女子がキャーキャー言ってて、なんか複雑。でも、それぐらいにーちゃんはイケメンだった。

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな。……ああそうだ。名前を言っていなかったな。
僕の名前はエルキドゥ。そして、探し人はギルガメッシュ。僕の盟友さ」


▼▼▼


にーちゃんもといエルキドゥさんと一緒にショッピングセンター内を彷徨く。ギルガメッシュさんがいなくなったのに気づいたのが二十分前。十分ぐらいは動かずにいたけど、拉致が明かないと聞き込みをしていたそう。

「次どこに行く予定だったんです?」

瀬呂が聞けば、エルキドゥさんはうーんと顎に手を当てた。

「今日は僕の服を買いに来たんだ。ギルは僕一人じゃ心配だって着いてきてくれたんだ」
「そ、そうなのね……」
「今頃血眼になってると思うけど……」

あんたのんびりし過ぎだよ。そう心で叫んでおくものの、口にはしないでおく。エルキドゥさんこの付き合いの薄さで察するほど天然だからな。ギルガメッシュさんの苦労がなんとなくわかる。
「どこの店に?」と再度瀬呂が尋ねれば、エスカレーター側の館内マップに近寄ったエルキドゥさんは、最上階のフロアを指差した。

「この階に知り合いが経営してて、ギルが投資してるブランドの店があるみたいで、名前は……なんだっけ?『アンフィル』だったと思うけど……」
「あ、アンフィル!?」

瀬呂が唾を飛ばしながら叫んだ。爆豪が「るせぇ汚ぇ!!」と瀬呂に掴みかかったが、瀬呂は「マジかよ…嘘だろ……?」と呟くばかり。

しかし、瀬呂よ。その気持ちよくわかるぜ。
仕方ないので、俺が変わりに説明してやる。

「今人気絶頂のブランドだよ。元々はフランスの貿易会社だったんだけど、今はファッションとか宝石とかそっち系にも手ぇ出してるって話」
「へぇ〜俺そーゆーのよくわかんねぇけど、ギルガメッシュさんって結構すごいんだな!」
「……ギルガメッシュつったら、『ギルガメッシュ叙事詩』か?」
「あ?なにそれ?上鳴しってっか?」
「俺が知るわけねーだろ。バクゴー何それ」
「あ!?こんなんも知らねーのかクソが!!世界最古の叙事詩!その主人公がメソポタミア神話の英雄ギルガメッシュっつーんだよ!!覚えとけ!」

いや普通知らねーよそんなの。爆豪よく知ってんな。
爆豪がぎゃいぎゃい騒いでそれを切島が宥めている間にスマホで調べてみる。

【『ギルガメシュ叙事詩』は、古代メソポタミアの文学作品。実在していた可能性のある古代メソポタミアの伝説的な王ギルガメシュを巡る物語。人間の知られている歴史の中で、最も古い作品の1つ。
『ギルガメシュ叙事詩』というタイトルは近代学者により付けられたもので、古来は作品の出だしの言葉を取って題名とする習わしが……】

駄目だ、全くわからん。

ようするに、エルキドゥさんの知り合いのギルガメッシュさんはすごい人と同姓同名だっつーことはわかった。

ここで屯ってもしかたないので、とりあえず【アンフィル】に足を運ぶことにした。途中ふらふらどっかに行こうとするエルキドゥさんをなんとか捕獲しながらエレベーターで最上階に着くと、下層とは全く違う世界が広がっていた。

「やべぇ。俺ら場違い感がひどい」
「上鳴、それは言わないお約束だ」
「いや瀬呂だって見ろよ?なにこの照明?シャンデリアじゃん。なんでこゆなにホテルマンいんの?ここショッピングセンターじゃねーの?」
「そういう仕様なんだろーがザコ」
「なあなんでお前はそんなに堂々としてられんの!?命知らずだな!」

切島は興味深そうにキョロキョロしてるし、爆豪は喧嘩腰だし、エルキドゥさんはのほほんとしてるし、俺と同じく反応なのは瀬呂だけじゃねーか。やだもう帰りたい。
明らかに怪しい俺たちに、近くにいたホテルマンぽい店員がサッと近寄ってきた。

「お客様、どう致しましたか?」
「スンマセン、この人連れの人と迷子になったみたいで……アンフィル?って店で買い物する予定だったのでそこにいるかなーって」
「わかりました。そのお連れの方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ギルガメッシュさんっていうんですけど……」
「ぎ、ギルガメッシュ様!?」

ギルガメッシュさんの名前を出した途端、ホテルマンのおねーさんどころかその近くにいた店員さんにまでどよめきが走った。おいどういうことだ。エルキドゥさんの盟友どんな人なんだよ。会うの怖くなって来たじゃん!

「で、ではそちらの方は……?」
「エルキドゥさんです」
「!!申し訳ございません!エルキドゥ様とは知らずご無礼なことを……!」

顔を真っ青にしてペコペコエルキドゥさんに頭を下げるおねーさん。俺達はドン引きである。直ぐ様手のひらくるりしたおねーさんや、実はめちゃくちゃ要人かもしんないのにのほほんとしたエルキドゥさん二人に対してである。因みにさっきまでの会話は全て切島がやっていた。エルキドゥさんは壁の照明をぼんやり見てた。おいエルキドゥさんおい。

高速で案内されたのは目的のアンフィルで、店に着いた途端店員全員による「いらっしゃいませ!」コールが響く。流石にこれには切島もびびっていた。ただ爆豪とエルキドゥさんは当たり前といわんばかりにスタスタ店内に入っていった。お前ら肝座りすぎ。

「ギルガメッシュ様は先ほどご来店されました。今及びしますので、商品をご覧になってお待ちください」
「うんわかった」

直ぐ様店の奥へ引っ込んだオーナーらしきおっさんを遠目に見ながら恐る恐る店内を見渡す。やっべー皆超高い。六桁…いや七桁はある。このハンカチなんで一枚三万もすんの?バカなの?バカなの?んで爆豪お前は十万もするジャケットにべたべた触わってんの?

きっと八百万とかはこういう店に通いつめてんだろうなぁと軽く現実逃避していると、遠くから怒鳴り声が聞こえて完全に不意討ちだった俺はぶっ倒れそうになった。

ダッダッダッ!と激しく足音を立てながら店に飛び込んできたのは、これまたべらぼうにイケメンのにーちゃんだった。

「やあギル。さっきぶり」
「こんのっ……馬鹿者がっ!!!」

金髪のにーちゃんが手を振っているエルキドゥさんの頭をぱこーんと叩いた。ちょ、アンタ!相手はあのエルキドゥさんだぞ!?殴っちゃったりしちゃ……あれ?ギル?

「あ、あのぉ……」
「今までどこに彷徨いていた!!」
「えっとねー、げーむ?ってのがいっぱいあるところ」
「三階ではないか!!俺達がいたのは五階だぞ!俺の側から離れるなとあれほど言い聞かせていたのをもう忘れたか!幼児でもできることをできぬなど、お前は鳥頭か!?」
「その……」
「雑種があれほど心配した理由がようやくわかったわ。縄でも付けておくべきだったな」
「ひどいなギル。僕はそこまで馬鹿じゃないよ」
「現に迷子になっただろうが!!」
「聞いて……」
「先ほどから五月蝿いわ雑種!!取り込み中だ後にしろ!!」

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