閃光


夏虫氷を笑う


名字さんって、ウザくね?

うちのグループでその言葉が出たのはつい最近のことだった。

名字名前。
私たち三人と同じクラスで、文武両道のクラスメイト。テストはいつも学年上位に食い込んでるし、体力テストはオールA判定。人当たりもよく、クラスでは目立たない存在だが皆に好かれている。絵にかいたようないい子ちゃん。
気にくわないよね?つーか普通にキモい。男子に媚び売ってんのバレバレなんだよ。小学校からずっと同じクラスだっていう轟くんと仲がいいことを鼻にかけてるのが丸わかりだ。
しかし、私以外のクラスメイトおろか先公まで名字を気に入ってるのだからホント目が節穴だ。いい子過ぎて裏ありそうとか思わないの?あ、そうか。皆表面に騙されてんのねウケる。
私京花とグループの紗季と桜子はいつも、名字の話題でLINEは盛り上がる。一分に三回はキモいとウザいが飛び回り、それを見て更に愉快な気持ちになる。

《今日さー、駅前でブリ子ちゃん見たんだけどー》
《えーマジ?》
《休日まで会うとか運なさすぎwwww》《ほんとそれ(*`Д')》
《それでさ、ブリ子ちゃんの隣にめっちゃヤバいイケメンいてさ!》
《金髪で王子様系の!》
《うっそ!!いいなー!》
《ブリ子ちゃんは会いたくないけど、イケメンなら見たーい笑》
《むちゃくちゃイケメンだったよ(^-^)》
《んでさー、ブリ子ちゃんとイケメンが話しながら電車乗ってて》
《まじキモいって思ったo(^o^)o》
《ほんとそれなwwwwwwww》
《きっしょ笑》
《売春してんじゃない笑?》
《売春はヤバいwwwwwww》
《ブリ子ちゃん胸大きいしいいんじゃね?》
《顔はフツーだしイケメンが相手するとは思えないけど( *´艸)》
《それは言うなってwwwwww》
《写メすればよかったのに》
《学校に証拠で出せたよ笑》
《名字さんが売春してたんですって?》
《やべぇwwwwwww》

あー笑える。名字にイケメンとかまじ不釣り合いなんだけど。
ブリ子ちゃんというのは、私たちの間だけの名字のあだ名だ。ぶりっこのブリ子ちゃん。使いたてはダサいって不評だったけど、使ってるうちに定着してこうなった。
LINEに思い付く限りの悪口を書き込んで、笑って二人の言葉に更に吹いて。テンションがマックスだった私は、ついこんなことを二人に提供したのだ。

《いっそのことブリ子ちゃんいじめない?》

二人の反応は良好だった。バレたらヤバいとか言いながらも、ああしようこうしようとむちゃくちゃに言ってくる。しかし、普通にいじめるのは流石にバレるし、ブリ子ちゃんにもあまりダメージが与えられないだろう。だから、私達は少しだけ頭を使ったのだ。

同じクラスメイトに陰キャラの女子がいる。名前は忘れた。普段から一人のその子を私達はターゲットに絞った。
放課後、陰キャラの机を落書きしたり汚したりしてその罪をブリ子ちゃんに擦り付けるのだ。適当に証拠も作って、「私見たんです!」と、先生に突き出せば、ブリ子ちゃんの評判も下がるし、上手くいけば退学にもなってくれるだろう。そうなったら爆笑しかない。三人の個性を上手く使って緻密に計画を練ることにした。


▼▼▼


気持ちは単なる嫌がらせだった。やってることは相当なことでも、別に無視してるわけじゃないし、陰キャラを嫌ってるわけでもない。いつも一人で本ばっか読んでるのが悪い。そう。私達は悪くない。悪いのは、こっちをイライラさせるブリ子ちゃんだ。

作戦はこうだ。まず、紗季が放課後ブリ子をマークする。個性は「望遠鏡」いつもブリ子ちゃんは図書室で勉強ているようなので、それを隣の棟から監視してアリバイを作らせない。
桜子には教室の廊下の前での見張りを頼んだ。個性の「複眼」を使えば前を向いてても頭に着いた目で全方向確認できる。廊下のロッカーの掃除をしているふりをしてもらうことにする。
そして、私は実行係だ。個性「ポケット」はポケットの中に50キロぐらいなら詰め込めるというものだ。ポケットに汚水を入れたペットボトルやマッキー、ごみを詰め込めば一見手ぶらの状態になる。見た目もポケットにはなにも入っていないように見えるし、この個性は何気に使いやすい。

実行日の放課後、帰りのホームルームを終えるとすぐ下駄箱に行って靴を回収すると、誰にも見つからないように時間まで屋上に隠れた。そして、部活以外の生徒が皆帰る五時頃、作戦を実行した。

先にブリ子ちゃんを探しに行った紗季を見送って、ぺちゃくちゃ喋って時間を潰す。すると、数分しないうちに紗季からLINEが来た。

《見つけたけど、図書室じゃなくて空き教室にいるんだけど》
《マジ?》
《どこの?》
《三階特別棟の一番隅っこの。全然使わない所》
《他に人いる?》
《うーんとね、部屋のなかにはいない。廊下もガラガラ》
《なら逆にチャンスじゃね笑》
《じゃ、行ってくるねー(≧∀≦)ノ》
《行ってらwwwww》

ちょっと想定外だったけど、これはチャンスだと発想を切り換えて急いで教室へ向かう。行く道も人には出会わず、教室はがらんどうだった。桜子がロッカーを開けたのを合図にこっそり教室に入った。
陰キャラちゃんの席は真ん中の後ろから二番目。取り敢えずカッターで机の中の教科書やノートをズタズタに切り裂いてからマッキーで思い付く限りの悪口を書いていく。隣にかけてある手提げかばんの手持ちも切っておこ。そして、汚水を机にぶちまけ、それらの道具をブリ子ちゃんの机の中に隠すようにしまった。
時計を見ると、五分もかかっていなかった。廊下に出ると、桜子はロッカーを覗き込むようにして教科書を並び直していたが、私に気づくと直ぐ様立ち上がって二人のクスクス笑いながら教室を後にした。

「ねえねえ!どんな感じにした?」
「少女漫画にありそうな感じにしてきた!マッキーで書いたり、教科書ボロボロにしたり!」
「テンプレじゃん!サイテー!」
「桜子ひっどーい!」

屋上に無事たどり着いた。監視の紗季に終わったとLINEを送ると、数分もしないうちに戻ってきた。この間、ブリ子ちゃんは呑気に勉強してたらしい。明日クラス中から嫌われるのを知らずに。

あーサイコー!ちょー面白いじゃん!

一通りゲラゲラ笑ってそれから学校を出た。しかし、私たちが教室から離れたのといちがいに誰かが机の惨状を見つけたこと、その目撃者の中にブリ子ちゃんもいたことを、私達は知るよしもなかった。


▼▼▼


次の日、かなりワクワクしながら教室のドアを開けると、案の定大変なことになっていた。みんな陰キャラちゃんの机があったところ取り囲んで、ヒソヒソ小声で何か話している。当の陰キャラちゃんはちょっと離れたところで泣いていて、何人かの女子に慰められていた。

「え!どーしたの?」
「あ、京花ちゃん!吉本さんの机が!」

あ、そういえば陰キャラちゃんの名前ってそうだった。我ながら白々しい反応をしながら色んな子に話を聞く。今のところブリ子ちゃんのことに気づく人はいないようだ。私からなんかするとばれそうだし、大人しくしとこ。
すると、男の先生たちがやって来て吉本さんを連れてどこかに行ってしまった。同時に担任も入ってきて、隣にはブリ子ちゃん──今は名字さんにしておこう。名字さんの轟くんがいて、少し首を傾げた。
名字さんはわかるけど、なんで轟くんもいるの?
しかし、二人は何も言わず自分の席に戻っていく。そして、神妙な面持ちをした担任が口を開いた。

「──みんなも知ってると思うが、昨日吉本の机にひどい悪戯がしてあったのが見つかった。詳しくは言わないが、とてもひどい。いじめと言えるだろう。
先生は、このクラスでいじめが出たことがとても悲しいし、怒ってる。吉本は俺以上にショックを受けただろう。
もしやってしまったと少しでも後悔してるのがこのクラスにいるなら、今すぐ出てきてほしい」
「先生、誰が見つけたんですか?」

そう聞いたのは学級委員長だった。その問いに、担任はどこかに視線を向けると「轟と名字だ」と端的に答えた。

「…………えっ?」
「昨日の5時ちょっと過ぎ、教室にノートを取りに来た二人が見つけたらしい。そのあとすぐに俺に報告に来てくれてな。……一応言っておくが、二人は犯人じゃないぞ。帰りのホームルームが終わってから二人はずっと図書室にいたからな」
「当たり前です先生。二人がいじめなんてするわけないです」
「絶対ないな」
「うんうん。それこそ世も末だよ」
「………なあ名字、俺ら庇われてるのか?」
「あはは。取り敢えず喜んでいいんじゃない?」

ないないと手を振るクラスメイトに先生もそうだよなと同調した。

私の脳内は疑問で埋め尽くされていた。

は?なんで?ブリ子ちゃんずっと空き教室にいたんでしょ?一人だったんでしょ?じゃあ紗季が嘘ついたってこと?裏切ったってこと?

紗季の方へバッと振り替えると、紗季は私以上に狼狽していた。「なんで」「たしかにいたのに」とぶつぶつ呟いている。

「まあ取り敢えず!一応普通に授業はやるぞ。このことは決して口にしないように。こんなこと不謹慎かもしれないが、いつも以上に明るく元気にやってくぞ!」
「おー!!」
「しっかし、こんなことした奴もバカだよなー。すぐバレるに決まってんのに」
「それな。個性使えば証拠残んないかもしれないけど、逆に個性使えば犯人も一発でわかっちゃうかもしれないのにね」
「ホントアホだよな」

犯人を馬鹿にしたような発言があちこちから飛んでくる。更に、一部は既に持ち込んできた吉本さんの机にお菓子を入れて即興のカードを詰めている。そして、名字さんと轟くんの周りには「変なことに巻き込まれたなー」「ドンマイ」「二人は絶対あり得ないから安心して」「いや、むしろ犯人なのかもしれない……」「お前吹っ飛ばすぞ」とわいわい人の群れが出来ていた。

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