その琥珀を胸に隠して
体育祭、である。うちの雄英のそれは大規模に全国放送される為、必然的に私の顔が世に広がる。ヒーロー科はこれを利用して事務所にアピールする大切な機会だそう。雄英体育祭の盛り上がりぶりは私が生まれたときからそうだったのであまり気にしたことないが、サーヴァントのみんなは違うらしい。「たかが高校の体育祭だぞ……?」と心底理解出来ないと言わんばかりにテレビを睨み付けていたのはエミヤだったか。と言っても、皆お祭りが嫌いと言うわけでもないので体育祭自体は楽しみで仕方ないらしい。そう、私が誰を呼び出すか、それが一番の焦点だ。
私的には、誰も出さない方がいいと思う。腐っても全国放送だ。何がどう広がるかはわからない。私にバッシングが来る分にはいいが、彼らにまで中傷誹謗が来るのはなんとしても避けたい。
しかし、これに関しては既にダヴィンチちゃんから一言。
「好きにやりなよ!」
今日も愉快犯絶好ですねちくしょう!
とはいえ一応私の意志は酌んでくれるようで、当日は影にエドモンが着いてくれているが、テレビには写らないように気を付けるらしい。面倒なことをさせてしまっている。私も色んな意味で頑張らないと。
▼▼▼
当日、既に入場審査を受けているメディア達を潜り抜けて会場αまでやってきた。朝早いというのに会場の観客席は人だらけだ。これにはエドモンも「浮かれすぎだ」と半目になってる。
ミッドナイト先生の指示でゲートの前に向かう。生徒の人数に対して、ゲートの口が小さい気がする。それはエドモンも感じ取ったようで、開始直後、影に乗れと指示された。
パッと信号が赤から青に切り替わる。
それと同時に駆け出して、ゲートに足を踏み込んだのを確認すると大きくその場で飛び上がった。
「アヴェンジャー!」
わかってると言わんばかりに足元から影が舞い上がり、空中で私をキャッチした。トンネルならテレビにも写るまい。とか思ってたら突然地面が凍った。轟くんか!相変わらずすごいね!
凍った彼らの上を通ってゲートを過ぎたと同時に影から下ろされる。順位は半分より前ぐらいしかわからないけど、ここでいいんだろうか?なんて考え事してたら目の前の巨大ロボが一瞬で氷結された。轟くん絶好調だね!崩れ落ちたそれを皆で協力して退けているが、僅かな隙間を潜り抜けることにする。これぐらいなら大丈夫。足元にエドモンがいるという安心感は凄まじいよ。
プレゼントマイク先生の解説によれば、先頭集団はA組が多いらしい。あのヴィランの襲撃にも耐えた彼らは、やはり何かを得たのだろうか。
突進してくるロボットをひょいと避けながら進めば、大袈裟な作りの綱渡りが姿を現した。底が一向に見えないのが恐ろしい。冥界まで繋がってんじゃないの?落ちたらどうするんだろ?ここは流石に自力じゃ無理なので、エドモンにロープに影を巻き付けて足場を広くしてもらった。ここここ怖くなんてなななななないだからね。
「……抱えていくぞ?」
「これぐらいは自分でやりたい!」
他の普通科の生徒に比べれば速い方だが、まだヒーロー科は先にいる。轟くんもう一抜けだって。強すぎない?
ようやく地雷エリアに来たとき、さっきの大爆発の煙がまだ残っていた。緑谷くんとかすごくね?よくやろうと思ったね。最早アーラシュ飛行機だよ?あれは二度とやりたくない。
さて、どうするか。
この地雷をちょいちょい避けるのもいいが、それだとどうしても遅れを取ってしまう。別に本選に行きたいわけではないけど、ここまで来たのだもの。悔いなくやりたい。
しかし、そうなると、誰が適任か。
「見た目や真名で誰かわからなくて、地雷エリアをポーンと行けて、スピードも速いサーヴァント……」
「アイツ、だな」
「あの子、だね」
エドモンも考えていることは一緒らしい。影に移った金色を見つめて頷くと、令呪が宿る右手を目の前に突き出した。
そして、偉大なる狼の王の名を高らかに呼び上げた。
「召喚せよ!アヴェンジャー、ヘシアン・ロボ」
唱えた瞬間、目の前で召還サークルが展開される。しかしそれも一瞬で、青白い光柱を破って登場した彼に、周りの人々が息を飲んだのがわかった。
風に靡く青い毛並み、自動車より大きい巨体、人なんて人溜まりもなく噛み殺せるであろう凶悪な口は鎌を咥え、瞳は憎悪に揺れている。そして、そんな彼の背中には、首のない傭兵が威厳を持って佇んでいた。
「やあアヴェンジャー。力を貸してくれる?」
そんなの決まってるじゃないかと、首なし……ヘシアンが手を伸ばした。その手を力強く握って引き上げられたと同時に、ロボを唸り声を轟かせて地雷原を駆け出した。
《おおっとぉー!!地雷エリアに……なんじゃこりゃ!?狼みてーな動物が突如出現!!背中に乗ってるのは……ギャー!首なし!!と、一年D組名字!!なんちゅー個性だ!》
プレゼントマイク先生のアナウンスは無視で行こう。
ロボの巨体は、いくらヒーロー科だとしても十分恐怖の対象らしい。足を止めた彼らを楽々抜かして、地雷を一つも踏まずにエリアを抜けた。この後はゴールだけだ。素早く背中から下りると、ロボの鼻を少しだけ撫でた。
「ありがと。またあったらよろしくね」
返事を待たず、前を向いて走り出す。後ろで彼らが光の粒子となって消えていくのを感じ取って、ゴールラインを踏みつけた。
《D組名字!21位でゴールイン!》
▼▼▼
広々としたスタジアムに見渡すと、既に結構な人数がいた。少なくとも二十人はいるもんな。ゴールでは次々と人が走り抜けているが、今のところ知り合いの顔は見当たらない。いや、一人だけいたな。そしてその彼はスタスタ早足でこちらに近づいてくる。
「名字、」
「轟くん」
少しだけ息を荒らげた轟くんが私の名前を呼んだ。そちらに顔を向けると、彼の額には数粒の汗が滲んでいる。三位おめでとうと言うと、轟くんは照れたように頭をがしがし掻いた。
「名字はヒーロー科編入目指してんのか?」
「ううん。ちょっと意地になっちゃったらこんな順位になっただけだよ」
「そうか。お前がいいならそれでいい」
「結果悪目立ちしたけどね……」
ちらりとゴール付近を見ると、こっち……というか私を見てこそこそ何か言い合う姿が見えた。アヴェンジャーはちょっと人選…狼選を間違えたかもしんない。純粋に反省。
何位までが本選出場かわからないがまあ21位なら平気だろう。そんなわけで次の種目なんだろうねーと呑気に話していると、全ての生徒がゴール、または棄権して障害物競争が終了した。どうやら42位までの生徒が本選出場権が与えられるらしい。ちょうど真ん中ぐらいか。この中には心操くんもいて、是非彼には頑張ってほしいと思う。目覚め表彰台。
普通科の根性を見せろ!とクラスメイトに渇を入れられてからミッドナイト先生のところへ向かう。このときも轟くんの隣にちょんと居座った。心操くんは遠いから今更会いに行けない。轟くんの隣超心強い。エドモン呆れないで。
「次の種目は……騎馬戦よ!」
騎馬戦。つまり、団体種目。あ、終わったなと察するのは早かった。これは無理。はっきりわかんだね。何せ私の個性は人を召還するもの。騎馬には出来ないだろうし、ルールに触れてしまうだろう。これは終わった。じゃあね轟くん心操くん。君らの健闘を観客席から祈ってるよ。
チーム分けとなった瞬間、隣の轟くんに一方的に別れを告げその場を去る。さてどうしよう。エドモンに相談しようと足元を見たとき、私の影(inエドモン)に別の影が覆い被さった。し、心操くんじゃないですか!
「名字さん、俺と組まない?」
貴方は神か何かかな?
はいっ!と即答した私に心操くんは引きもせずに嬉しそうに頬を緩ませた。こんな私に声を掛けてくれるなんて、でもポイントは平気なの?私のポイント結構ザコよ?というか、心操くんの後ろにいる虚ろげな人たちが気になるんだけど。
恐る恐る聞けば、個性をちょこっと使ってるだけなので平気らしい。心操くんの作戦を聞くと、試合前半は気配を消して後半に心操くんの個性で根こそぎ点を奪うスタイルで行くとこのこと。何それ最強じゃん。てか私の負荷が騎馬ということだけでとても申し訳ない。ということで、試合前半はケーカさんとロビンに霊体化して情報収集をしてもらうことになった。誰がどういう個性でどういう弱点なのかみたいな。それを対価として心操くんにもシャアすることで手を打った。尾白くんと真白くんは……いっか!うん!
トイレに行く振りして二人を呼び出せば、直ぐ作戦を理解してくれた。すぅと消えてしまったが、今から始めてくれるらしい。ありがとう二人とも。間違っても宝具は撃っちゃダメだよ。
エドモンは、今回も影に潜んで何かあったらこっそり手助けしてもらうスタイルで行く。どれだけ目立ずに生き残るかが問題だよね。0ポイントでも動けるらしいけど持ち点は多いほどいいし、それこそ轟くんの氷でカチンコチンにされてしまえば元も子もない。
意識の有無の関係で私が騎馬の前になってしまったが、楽々と持ち上がってしまうことを喜ぶべきか悲しむべきか。「マスターもゴリラになっちまったかねぇ」と言ったのはロビンだったか。お前、今日は激辛麻婆豆腐な。
なるべくスペースの端に移動して、開始を待つ。やはり目立つのは1000万ポイントの緑谷くんチームと轟くんチームだな。しかし、勝つのは私たちだ。
作戦会議を終え、ご飯も済ませたところでスタジアムに戻る途中で轟くんと再会した。なんやら決意に満ちた表情をしているが、男のやつだろうか。いいと思うよそういうの。轟くんとはグループが違うので、戦うとしたら決勝戦だが、そのためにはあの爆豪くんを倒す必要がある。殺されそう。
「………なあ名字」
「ん?どうしたの?」
「もし、俺が一位になったら……」
「え、何?聞こえない」
轟くんったら声小さすぎ。いつものバリトンボイスはどうした。しかし、「なんでもない」と言い張って口を割ろうとしない。なんなのだろう。スタスタ先にスタジアムに行ってしまった轟くんを見送る。
「変な轟くん。緊張してるのかな」
「……あいつも難儀な性格をしてるな」
足元から浮かび上がったエドモンがぼそりと呟く。君にそう言われちゃあ元も子もないぞ。
爆豪くんと麗日さんとのバトルが始まったと同時に席を立つ。クラスメイトの声援を受け、控え室に向かった。と、途中の生徒専用ルートと一般人ルートの間に立っている人物を見て、度肝が抜けた。金髪で赤い瞳、質の良い洒落た服を着こなす王様であった。
「おおおおお王様ぁ!?」
「喧しいわ雑種」
180度どこを見ても王様である。マジか。王様はこういう庶民の遊戯には興味ないかと思ってた。
「まあな。しかし、貴様の無様な姿を見るのも一興と思ってな。この我が足を運んでやったぞ。頭を垂れて礼を言うが良い」
「王様先生は?」
「話を聞かんかっ!……童話作家は来ていない。『俗的な催しは興味ない』とな」
「そっか……」
先生らしいと言ったら先生らしい。しかし、一言ぐらい応援をくれたらもっと良かったのに。しゅんとする私が余程悲しそうだったのか、王様はふんと鼻で笑い、べちんと私の頭を叩いた。
「ぎゃっ!」
「背筋を伸ばせ。」
《──VS!その実力はいまだ未知数!普通科名字名前!!》
一歩場内に入ると、凄まじい歓声が鼓膜を衝く。そんな興奮を嘲笑うかのようにエドモンのいる影が揺れた。
「ダメだよ笑っちゃ。私も彼女も必死なんだから」
「ふん、この程度の催しで貴様を測れるものか」
「もう……」
小声でエドモンを戒める私に、芦戸さんがにっぱりと人好きの笑顔を浮かべた。
「名前ちゃんだよね!私芦戸三奈!女の子でも全力で行っちゃうんだから!」
「うん。こっちこそ手加減なしだよ」
そう、手加減はしないと決めた。全国放送なんてしるか。魔術の隠蔽なんてしるか。皆がなんとかしてくれる。そう、なんだって私はマスターなんだから!
《レディー……スターーット!!》
「ようし、行っく──」
「召還せよ、」
「バーサーカー、クー・フリン・オルタ」
スタジアムの真ん中で青い光柱が立つ。眩い光の中、私の一番槍さんの尻尾がゆらりとわたしの足元に巻き付いた。
禍々しい凶悪な尻尾、暗い青髪を緩く結んだ真っ赤な目の彼。女王に望まれて生まれた存在。狂った王様。
そんな彼を見て、私は努めて優しく微笑んだ。
そして、口を開いた。
「追い出せ」
「了解」
オルタは決して主の命令に逆らわない。今だってそう。呆然と立ち尽くす芦戸さんに地面を蹴って近づくと、抵抗する暇さえ与えずに、襟首を掴んで場外に放り投げた。芦戸さんが我に返ったときには時既に遅し。あ、と言わないうちに彼女の体は、線の外側に投げ出されていた。私が命令を下してから、五秒も経っていなかった。
《……えっと、これ終わったの?》
《のようだな》
「あ、芦戸さん場外!名字さんの勝利!」
五秒ぐらい無言の時間の後、爆発のような歓声が溢れだした。その中、オルタはゆっくりと私に歩みより、次の指示を待っていた。
「ごめんねクーちゃん。もう終わり」
「随分骨のねぇ仕事だな」
「そんなこと言わないで。ありがとう、またよろしくね」
「……お前の槍だ。好きに使え」
そう言い残すと、わたしの肩口にぐりぐり頭を押し付けてシュンと消えていった。
《え?え?誰アレ?てかえ?え?ダメだクレイジーな展開に着いていけねぇ!!イレイザーパス!!》
《はぁ……書類は届いてる。名字の個性の一つだ。ルール上全く問題ねぇ》
《WOW!!なんちゅー個性だよクレバー!!》
クレバーとはなんだクレバーとは。
負けた芦戸ちゃんの元へ向かおうとも思ったが、それは敗者への愚行というものと気付き、敢えて何もせずに会場を去る。
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