前略、おしまい
俺はカメラマンでありジャーナリストでもある。仕事内容は専ら著名人の知られざる一面を写真に収め、それを世間に公表することである。パパラッチという無粋な呼び方はよしてくれ。この国では報道の自由が憲法によって保障されているではないか。そう、テレビの向こうにいる憧れの人物のことを知ろうとして何が悪い。そんな読者の願望と無念を俺は代行して晴らしているだけなのだ。
編集長から呼び出され、次の雑誌の記事にするよう命じられたのはヒーロー『ナマエ』。サーヴァントと呼ばれる美男美女を連れ回し指示を出すという今までのヒーローと比べ一風変わったルーキーである。ヒーローになってから一年と経験は薄いものの、その実績は既にベテランヒーローのそれと同等だ。更に見るもの全てを魅了してしまうほど美しいサーヴァント達のお陰もあってか、今人気沸騰中として度々社内でも話題に上がっていた。そんなナマエを今回の見出しにしたいと編集長は言った。つまり、スキャンダルだ。
何、特別難しいことではない。ナマエが誤解されるような場面でシャッターを切り、少々加工を施してから『ヒーローナマエ、逢い引きか!?』のようなテロップをでかでかと載せればよいだけのことだ。そこに真実を含める必要はない。俺は証拠さえ取ればいい。後はライターが上手く記事にしてくれるだろう。
ナマエは静岡県郊外の緒川村に拠点を構えている。同時にそこに暮らしているという情報もある。緒川村には、ヒーローはナマエただ一人だ。それで成り立つのは村自体の人口の少なさと、ナマエの持つ戦力の大きさにある。そのパワーは凄まじく、何度か国から首都圏への拠点の移転を嘆願されたようだが、全て断っているのだそう。
しかし、そのお陰か緒川村はナマエの独壇場であり、自由がある。パトロールの仕方もヴィランの捕ら方もナマエ以外にヒーローがいないからこそ好き勝手やり放題だった。しかし、それについての住民の苦情はほとんどない。それもそのはず、緒川村はナマエがヒーロー活動を開始してからぐんと犯罪発生率が低下し、ヴィラン逮捕件数が増加した。治安が劇的に良くなり、かつ社会も盛んに行われるようになって結果的に村全体の利益に繋がった。その変わりようは一時テレビでも報道された程だ。
実力派で世間からの信頼の厚いヒーローのスキャンダルが報じられば、きっと日本中が大騒ぎになるに違いない。俺にはその確信があった。同時にそうさせる材料…写真も確保できる自信も。
愛用の一眼レフを背負って、俺は緒川村へ向かった。
緒川村については事前に調べていたが、ネットの記事通りの田舎っぷりでほとほと呆れた。四方は山と森と川。スタバがなければマックもない。電車は一時間に一本、バスは二時間に二本。栄えてるのは駅周辺で少し歩けば田んぼと畑とボロい家屋。そんな中、村一番の高台にそびえ立つ豪邸…つまりヒーローナマエの自宅は際だっていた。遠目でもわかるほど彩飾が施され、荘厳とした雰囲気を醸し出している屋敷は完全に寂れた村とミスマッチなのに、どこか自然に溶け込めているのが不思議でしょうがない。あたかも昔から存在していたように居座っていた。
ナマエはヒーロー活動中は、屋敷ではなく村の中心に置かれた事務所にいるらしい。勿論、真っ正面から訪ねる気は毛頭ない。狙うはそう、仕事が終わって完全にオフな状態のナマエである。
俺はコンビニでお茶とおにぎりを数個買うと、村を歩き回って時間を潰した。どうやら最近村周辺で熊が目撃されたらしく、山には入らないよう警報が出されているようだった。しかし、俺には関係ない。寧ろ好都合だ。仕事中邪魔が入らないというわけだ。
日が落ちかけた午後に俺は山に入った。ナマエの屋敷のすぐ脇の山だ。まだ丘陵がなくほぼ森のそこはまだ歩く分には問題ない。度々位置を確認しながら徐々に屋敷裏の森に侵入した。誰も、森から
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