閃光


お伽話を信じたいのはあなただけ


私のお姉ちゃんは、とっても美人な人だった。卵型の小さな顔、腰まで伸びるさらさらの髪、つんと高い鼻、桜色の薄い唇、ちょっと吊り気味の大きな目、すらりと伸びた白い手足、出るところは出て締まるところは締まっている体つき。容姿に限ってはどこをとっても文句なしのAランク。お陰様で告白ナンパラブレターは数知れず、アイドルモデルのスカウトは両手足の指で数えても多分二週ぐらいしないと数えきれないと思う。あまりに完璧すぎる姉に対し、私は平凡そのものだったのでよく近所のおばさんから本当は養子じゃないかと噂が立たれたらしい。今では今更過ぎて誰も口にはしないけど。
当然姉はモテた。それはそれは大層モテた。学校の男子の初恋を悉く奪い去っていったのは紛れもなくうちの姉だ。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはよく言ったものだ。なにもしなくても男は寄ってきたし、供物を捧げた。帰り道は学校一のイケメンと腕を組みながら、捧げ物と下僕に持たせてお嬢様。あれほしいこれほしいと指差すだけで五秒後には手に入っていた。勿論女子軍からは親の敵の如く嫌われていたけど、姉自身自分以外の女子は家畜の如く見下しているのでさほど問題では無さそうだった。
当然、妹の私でも例外ではない。姉の頭の中では妹と書いてパシりと呼ぶらしい。姉にはこきつかわれ、下僕さん達に羨ましいと睨まれ、女子にはビッチの身内と睨まれ、散々な目に合ってきた。昔はこの理不尽な仕打ちに腹が立ちっぱなしだったけど、今じゃ開き直ってなるべく姉の視界に入らないようにしている。両親はお人形さんみたいにかわいい姉の味方だ。早く家から出て自立したいなぁとひたすら勉強に励む毎日だった。

姉の美しさは、高校に上がっても衰えるどこか更なる加速を加えてきた。最近ではモデルの仕事にも手を出してきたらしく、夜になっても家にいないことが多い。その分家で気が休まる時間が増えたので私的にはなんの問題もない。姉は推薦で県内の超お嬢様学校に言ったらしいが、そこでも持ち前の器量の良さでトップに上り詰めたそう。唯一の難点は、田舎のここからでは通学時間が長いことだが、大学生の彼氏さん(金持ちイケメン)に毎日送り迎えしてもらっている姉にはなんら問題はない。

そんなある日、姉がいないのをいいことに私は友人を家に誘った。名前ちゃんと言うのだが、名前ちゃんが持ってきてくれたケーキを食べながらリビングで録り溜めてたドラマを一緒に見ていた。しかし、そんな日に限って姉はすぐに帰ってきた。

「は?アンタ誰?」

家先で車のエンジン音がしたときから嫌な予感はしていたが、玄関のドアが開く音で頭を抱えそうになった。乱暴にリビングに入ってきた姉は、名前ちゃんを見つけるや否や、嫌悪感を露にしてぎゅっと綺麗な顔をしかめた。当の名前ちゃんは突然のことにスプーンを咥えながら固まっている。

「友達の名前ちゃんだよ。今日家に誘ってたの」
「みょ、名字名前です。美佳さんにはいつもお世話になって……」
「は?なんで勝手に入れてるワケ?」

イラつきを発散するようにブランドのバッグを乱暴にソファーに放り投げると、名前ちゃんはビクッと大きく肩を揺らした。そんな様子の名前ちゃんをじろじろ見て、自分より格下だと判断したのか姉は露骨に鼻で笑った。

「まぁいいわ。アンタのトモダチってもどーせたかが知れてるし。今日は許してあげるからさっさと帰んなさ……」

にやっと口角を上げた姉の表情が固まった。段々険しくなっていく視線の先には、今日名前ちゃんが持ってきてくれたケーキの箱があった。真ん丸の王冠の下に『Vive La France!』と筆記体で書かれたそれを、姉は乱雑に掴み上げてあり得ないと言わんばかりに目を見開いた。そして、きっと私を睨み付けた。

「なんでここにあるの!?」
「えっ。名前ちゃんが持ってきてくれたから………」
「ハァ!?」

視線を名前ちゃんに移し替えてギリッと歯を食い縛った。まじありえないとぶつぶつ呟きながら空の箱を床に叩きつけるとそのまま激しい足音を立てながら二階の自分の部屋に戻っていった。

「ね、ねえ美佳ちゃん。なんかごめんね………」
「ううん。名前ちゃんは悪くないよ。こちらこそごめんね。気悪くしちゃって」

しゅんと俯いた名前ちゃんの肩を軽く叩いて、今までずっと流れてたドラマを巻き戻す。
しかし、あのケーキ、確か『クリスタルドレス』のお店がどうしたんだろうか。パッケージやケーキの装飾から名店なのはわかるけど、今までありとあらゆる物を手に入れてきた姉が見ても珍しいものだったのか?

結局、全てのドラマを見終わったのは夜もかなり更けてきた頃合いだった。時計はとっくに六時を過ぎている。明日は学校は休みだし、元々は夜ご飯もご馳走する予定だったけど、姉もいることだから今回はなしにしてもらった。名前ちゃんが家族の人に連絡を入れて、荷物を片付けているときお風呂上がりの姉がリビングに入ってきた。さっきの怒りは収まり切れていないのか、私たちを視界にいれるとふんと鼻を鳴らした。
姉がホットミルクを入れていると、インターホンの軽い音が鳴った。慌てて出ると、画面越しから『名前の迎えの者だけど』と男の人の声がした。

「あ、私帰るね!」
「うんわかった」
「今度はうちにきてね。えっと………今日はありがとうございました」

と、姉に頭を下げたものの、姉は「うるさい黙って」と一蹴した。すこし眉を下げた名前ちゃんだったが、すぐに気を取り戻して玄関へ向かう。私も迎えのために着いていった。
そして、ドアを開けた先に待っていた人物に腰を抜かし掛けたのだ。

「名前!」
「アーサー」

とっても綺麗な人だった。ひたすらにイケメンだった。柔らかい金髪、緑に煌めく瞳、凛々しい表情。姿もさることながら声も澄んでおり、オーラは正しく白馬の王子様。姉の美しい顔に慣れた私でもぼっと顔を赤らめてしまうほどのイケメンだった。

「今日は楽しかったかい?予定より少し早かったようだけど?」
「ちょっとね、夜ご飯はなしになったんだ。あ、彼はアーサー」
「初めまして、アーサー・ペンドラゴンだ。いつも名前と仲良くしてくれてありがとう」
「い、いえっ!こちらこそ!」

紳士的に差し出された手をあわあわと握り返す。大きい。固い。かっこいい。イケメンだ。軽く現実逃避していた私の後ろで、ガンっとドアが強く開く音がしたと思えば、大きな目が落ちそうなほどかっ開いた姉が呆然と立っていた。視線の先は、勿論アーサーさんだ。

「え………あ……」
「名前、彼女は?」
「あの、その、お姉さんだって」
「そうか。僕はアーサーだ。今日一日名前がお世話になったね」

にっこりとアーサーさんの王子様スマイルが炸裂し、百戦錬磨の姉の顔もリンゴの如く赤くなった。よろよろと壁にへばりつき、恍惚とした様子でアーサーを見つめている。

「さあ名前、帰ろうか」
「あ、うん。ばいばい」

そう言って名前ちゃんがアーサーさんが名前ちゃんをエスコートしながら車に乗せ、颯爽と去っていった。残されたのは、呆然とする私とまだアーサーさんに酔いしれる姉だけである。

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