「で、結局どうだったの!?」
「え、なにが?」
「もったいぶるなよー!この前、バクゴーとだよ!」
芦戸の唐突な質問に飲み物が気管に入ってゴホゴホと盛大に咳き込んだ。私も気になると葉隠も前のめりに手を挙げて主張している。今日は前回と違って女子だけが集まった女子会だからこういう話も気兼ねなく投げかけられる。芦戸は面白いものを見つけたと言わんばかりの顔だ。高校の時と変わらないじゃないか。みんなの注目を浴びながら口周りをおしぼりで拭いた。
「ごめんけど、期待には添えません」
「えー、おもしろくない!せっかく2人っきりにしてあげたのにー!」
「酔っ払い押し付けたんじゃん!」
「まあまあ、お二人とも」
「酔わせたの苗字でしょ」
「うっ」
「名前ちゃんの自業自得ね」
「ぐっ」
梅雨ちゃんのとどめの一言に反論のしようもなかった。落ち込んでると隣にいた麗日にドンマイと声をかけられた。誰も慰めてくれないひどい。やけ気味に目の前にあるグラスのお酒を飲み干した。
「ホントになにもなかったのー?」
「バクゴーくん、あんなに未練ありそうだったじゃん!」
「むしろあれは執着って感じ」
「苗字さんは爆豪くんの何がダメなん?」
「…なんか爆豪が怖くなって」
「今更!?」
「それは今更だよ!」
「なんで昔付き合ってたのってレベルだよ!」
「でも怖くない?」
その言葉に全員がうなづいた。1年の体育祭とかヤバかったと耳郎が言うと他にもあの時もヤバかったと思い出話に花が咲く。もう思い出として振り返るほど前のことなんだなぁとしみじみ思う。授業はもちろんキツかったけど充実した3年間だった。幼馴染だったかっちゃんと付き合い始めた高校時代。付き合って改めてかっちゃんの凄さや強さを実感して、そんなかっちゃんに対する私の立ち位置に気付いてしまって、怖くなった。
胸のもやもやを押し流すように目の前にあったグラスに手をかけてまた飲み干した。頭の中がくわんとしていると、横でそれうちのやー!と麗日が声をあげたので謝った。思わず飲んでごめんね。でも麗日さん、お酒強いんだねこのお酒度数強いです。
*****
ふわふわと地に足付かない感覚に、ぼんやりと目がさめた。あったかい。頭痛い。懐かしい匂い。気持ち悪い。気持ち悪い。
「うぷっ、きもちわるい」
「おいコラてめぇ!我慢しろや!!」
「やば…はく…」
「ここで吐いたらぶっ殺すぞ」
浮遊感のある背中に今すぐ胃の中身をブチまけそうになるのを我慢する。殺されはしなくても半殺しにされてしまう。おんぶしてくれている背中の主はなるべく揺れないようにかつ素早く近くの公園のトイレへと連れてってくれる。意外と面倒見いいところあるもんね。連れて行くまでの所作がなんだか手慣れてる気がする。
背中から降りてよろけながら必死に女子トイレへ行けばなんとか間に合った。胃の中身を出せばさっきの気持ち悪さもだいぶんましになって意識もすっきりしてくる。そういや私いつの間に外にいるんだろう。さっきまでみんなと楽しく飲んでたはずなのに。とりあえずトイレから出ると背中の主がこちらを睨んでいた。ナチュラルに接してたけど、何故ここにいる!!
「なっ!」
「潰れるまで呑んでんじゃねぇぞ」
「なんで爆豪が」
「てめぇが潰れたから引き取れって連絡きたんだよクソが!」
「ひっ、大声やめて頭にひびく」
飲みすぎた。気持ち悪さはだいぶんなくなった代わりに頭痛が際立つ。しかしなんでかっちゃんに連絡が!緑谷だって私の実家知ってるのに!いや、なんでってその理由は分かってるんだけどさ。めっちゃ気まずいじゃないか。この前私がしたみたいにタクシーに押し込んでくれたら良かったのに。そうだ、今からでもタクシーに乗ろう。タクシーを呼ぼうとポケットを探って携帯を探す。が、携帯は何処にもない。それどころか持ってきた鞄もない。きょろきょろと自分の周辺を見渡していると、かっちゃんがこれかと言って私の鞄の肩ひも部分を鷲掴みにして持ち上げていた。人質ならぬ鞄質。あの中には財布も入ってるのに。
「返してー!」
「あ?『持ってきてくださってありがとうございます』だろが」
「ありがとう!だから返して」
鞄に手を伸ばせば簡単にひょいっと避けられた。なんなんだ腹立つ。必死に連続して手を伸ばすも簡単に避けられる。酔いの所為で足元がおぼつかなくてふらっと体勢が崩れた。かっちゃんは片手で簡単に私を受け止める。この前より、より濃く汗と甘い匂いが混ざった匂いがした。むかしからよく動いて汗をかいた日はかっちゃんからこの匂いがした。
「なにやっとんだクソが」
「かっちゃん、もしかして今日仕事だった?」
「だったらなん、」
「うわぁっ!」
瞬間的に腕に力が入ってかっちゃんから勢いよく離れた。驚いたかっちゃんの目がパチクリと瞬きしている。しまった、露骨だった。うわぁだなんて叫んでかっちゃんすごい怒るはずだ。爆破されてしまう。
「いやっ、ちょっと、今の間違い!待って、怒んないで!」
「今、なんつった?」
「言ってない!うわぁなんて言ってない!!」
「違ぇわ!」
「え?」
「さっき名前呼んだろが」
しまったと思わず口を押えた。どうしようどうしよう。ずっと爆豪と呼んでいたのに。付き合う前の、好きになる前の、何も無かった頃の呼び方にしていたのに。ぐるぐると頭の中でどうやってこの場から逃げれるか考えようとするけど、真っ直ぐ見つめてくるかっちゃんに思考が止まる。かっちゃんが一歩私に近づく。自然と足が後ろへ一歩引いた。するとまた一歩かっちゃんが距離を縮めるから私もまた一歩後ろへ下がる。
「動くなや!」
「や、やだ」
「止まれや!」
「むり!」
「名前、そこにいろ」
「っ」
後ろへ動く足が止まった。真っ直ぐ私の元に来て、ぐっと抱きしめられた。
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