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ここ最近の爆豪くんは昔に比べて少し優しくなった、と思う。昔はしつこく行っても校門までしか連れて行ってくれなかったのに、最近は学校の最寄り駅まで送ってくれる。今日も2人で駅に向かっていると歩道橋が見えてくる。そういや昔よくこういう階段があるところであのゲームしたな、と思い出すとやりたくなるのが人間の性だ。
「爆豪くん、じゃんけんしよう」
「は?」
「じゃんけんポン」
先手必勝とばかりにリズムに合わせてチョキを出せば、爆豪くんはパーを出した。目の前に迫っていた歩道橋まで少し走り、チ・ヨ・コ・レ・イ・トと一段一段上って振り返れば、歩道橋まで追いついていた爆豪くんが睨むようにこっちを見上げてくる。
「二回目行くよー」
「クソが!勝手に始めてんじゃねェ!」
「ふふん、そんなこと言って負けるのが怖いんでしょー」
「上等だクソカスが!」
最近だいぶん爆豪くんの操縦の仕方が分かってきた。もう一度じゃんけんポンと声を上げて勝負をすれば今度もまた私が勝って爆豪くんに差をつける。ニヤリと振り返れば目をつり上げて悔しがっている爆豪くん。これはめったに味わえない優越感というやつじゃんか。次のじゃんけんを急ぐ爆豪くんの声にどんどんゲームを進める。
が、私が感じていた優越感はすぐに終わった。なんだかんだで爆豪くんはあと三段というところまで迫ってきていた。
ここまで近づくと、普段見れない爆豪くんの旋毛までしっかり見れて新鮮だな。そういえばこの前撫でた時、爆豪くんの髪柔らかかったなぁ。次すんぞと爆豪くんがふっと顔を上げれば、さっきまで見えてた旋毛は見えなくなった代わりに爆豪くんの赤い目と目が合った。
「わっ!」
「は?」
「爆豪くんの上目遣いかわい痛いっ!!」
「いっぺん死ね!」
「そんなに怒らなくても」
私を殴りつつも律儀にその場所から動かない爆豪くん。勝負事に紳士だ。
思ったより近い距離で不意に目が合ってしまったから、キスしたことを思い出してしまった。しかもそれと一緒に上鳴くんと瀬呂くんにこの前言われた「爆豪は先輩が好き」という言葉まで思い出した。それで思わず出た声を誤魔化すことには成功したけど、その代わり殴られたのは物理的に痛い。
イライラしながら早くしろと爆豪くんが言うので、じゃんけんと言えば私がチョキで爆豪くんがグー。無言で三段を歩いてついに私の横に追いついた。思ったより歩道橋の幅が狭くて爆豪くんが近い。並んで歩くことや横に座ることはあっても立ったままで横に並ぶことはそんなになくて、横にいる爆豪くんを見上げるとさっきとは逆に爆豪くんが私を見下ろしていた。黙っていれば本当に綺麗な顔してる。
「こっち見んなや」
「こわっ!睨まなくてもいいじゃん」
「睨んでねぇわ!」
顔面をガシッと掴まれたと思ったら力を入れられて悲鳴が出た。爆豪くんゴリラ並みに握力強い!怖いと言っただけでこの仕打ち!この男、絶対私のことなんて眼中にないよ。
その目に何が映ってる?