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正面玄関の扉を開けると、玄関から伸びている階段の一番下の段に人影がちょこんと座っていた。その人影がゆっくり振り返って私を確認すると遅ぇと一言言った。急に呼び出しといてその言い草、勝手なんだからなぁ。込み上げてくる感情をぐっと抑える。トントンとゆっくり階段を降りて爆豪くんのもとへ行き隣に腰をおろした。



「元気かよ」
「うん」


そうか、とどこかそっけなく言われた。別に本当に元気かなんて聞きたいわけじゃないことくらい分かってる。シンとした沈黙が流れて、何か喋らなきゃいけない気がして頭の中で話題を探す。



「ば、爆豪くんも、元気そうでよかった」
「あ?俺の心配すんじゃねぇよ」
「心配するよ!!」



思わず爆豪くんの肩をぐっと掴んだ。吃驚した顔の爆轟くんと目が合って、しまったと思って、肩からパッと手を離した。ひらひらと手を挙げて、何もしないよとアピールをする。



「お触りしちゃった!ごめんごめん」
「…てめぇ、何が言いてぇ」
「いや、これでも爆豪くんのことホントに心配したんだよ?だからそんなこと言」



わないでよ、と言おうとして、ひらひらしていた手を爆豪くんが掴んだ。真っ直ぐ見てくる爆豪くんに顔が引きつる。手のひらを爆豪くんが顔に似合わず優しく握るもんだからぐっと抑えた感情が込み上がってきそうだ。いやだ、この人の前では。悔しくて顔を背けた。

すると爆豪くんが動く気配したと思うと、いきなりパーカーのフードを被せられて下にぐいーっと引っ張られた。何だいきなり!?何すんの!?フードで真っ暗になった視界を手探りでフードを抑える爆豪くんの手を掴んで引っ張る。この、怪力ゴリラめ。どう頑張っても解けそうにない。諦めて爆豪くんから手を離した。



「どんな状態よこれ」
「…」
「なんか言ってよ」
「なんか」
「おい」
「この前てめぇが言っただろが」
「仕返しかよ!爆豪くんの捻くれ者」
「それはてめぇだ」



フードの上から頭を撫でられる感覚がする。鼻の奥がツンとしてくる。こんなのきっと爆豪くんが思いっきりフード引っ張るせいだ。



「…爆豪くん」
「んだよ」
「パンケーキ、また食べに行く約束、覚えてる?」
「あのクソ甘ぇやつだろ」
「まだプールで50m競争もしてないね」
「俺の勝ちに決まってんだろ」
「期間限定のアイスクリームも食べてない」
「次はこぼすんじゃねぇぞ」
「花火見に行く約束は?」
「それはしてねぇ」
「ちっ、ばれたか」



強がって、騙せると思ったのにと言うと、10年早ぇんだよと相変わらず頭を撫でながら言う。年下のくせに生意気だ。ここで負けてなんかられない。

ぐっと手に力を入れて、じゃあさ、と言って顔を上げて爆豪くんを見た。今の精一杯で笑って、こんなことなんてことないんだよって。本当は心配だったし、姿見て安心して泣きそうだったけど。爆豪くんが頑張るなら私も笑おう。






爆豪くんは少し吃驚したような顔をしたけど、欲張りすぎだろと笑った。