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今年の夏は異常な暑さだ。外にいるだけでダクダクと汗が流れる。


「ほら爆豪くん、あれが竜の巣だよ」
「入道雲だろアホが」
「ロマンじゃんかー」


向こうに見えるもくもくと積み上がった入道雲はもうあと1時間くらいしたら私たちの元にたどり着いて大雨を降らすだろう。今私たちに大きな日陰を作ってくれているこの木の下にいたって、隙間を這うように雨は私たちに降り注ぐ。


「入道雲で連想ゲームしようよ」
「1人でしとけや」


一瞬風が吹いてさわさわと木や草を揺らす。何もひかずに草の上に座ったせいで脚にあたる草がこそばゆい。風が止むと草はピタリと止まって、その代わりに異常な暑さが襲ってくる。暑い。人差し指に触れる爆豪くんの人差し指。


「入道雲と言えば夏!」
「そのまんまかよ」


放り出された携帯から流れるオールマイトの引退発表記者会見の声。もう何日も前に発表されたそれは、何度もネットに流れている。なんで爆豪くんはそれを私に聞かせるんだろう。何度この声を1人で聞いたんだろう。なんて考えても、意味なんてないのかもしれない。


「夏といえばー、いろいろあるよねー」
「死ねとしか言えねえような内容だなカスが」
「とりあえず今年の夏は鬼ほど暑い」
「答えになってねぇよクソが」


爆豪くんは何も言わない。何をして欲しいとも、どこが辛いとも。だからただいつも通りに。