鳥かごを出てから半年目。
 神様にお祈りするのを欠かしていない。

 サボとエースは子供ながらに力が強く、毎日稽古として100回勝負をしている。私は当然ながら不参加で、怪我した二人を手当する役だ。
 一度私も参加したが、寸止め勝負であったにも関わらず身体中痣だらけになってしまって、二人の勝負どころじゃなくなった。治るのに1か月かかった。

 ついでにようやく足に付いていた鎖の名残が取れた。
 私はあまり気にしていなかったが、サボとエースは酷く気にやっていたらしい。
 ガンガンとトンカチで足首を(正確には足首に付く輪を)叩かれるのは不安でしかなかった。

 ひぇぇ、と情けない声を出す私を無視して、二人は足輪に罅を入れると、あとは腕力だが握力だがで顔を真っ赤にしながらバキリと壊し、私の足首を開放してくれた。
 長い間つけていたからか足首にはぐるりと痣が付いていたけれど、きっとすぐに消えるだろう。
 

 鳥かごを出て1年。
 お祈りをしていると、エースが邪魔をするようになってきた。何故。

 私は8歳に、サボとエースは7歳になった。二人は7歳とは思えないほどしっかりとしているし、野生のゴリラのように強く育っている。多分ゴリラと言っても差し支えがない。

 1年記念のお祝いと称して、二人から海賊貯金の過程で手に入れたらしい銀のクロスを貰った。
 この世界の宗教について実はよく知らないのでクロスがあった事に驚いたけれど、有難く身につけさせてもらっている。私の神様(仮)は、宗教がごっちゃでも許してくれるだろうか。

 あまりに嬉しかったので、何かお返しをしようとその日のうちにグレイターミナルへ仕事を探しに行った。が、すぐさま二人に連れ帰されてしまった。一応隠していたけれど、やはり羽が目立ったのかな。神よ、私に適職を。貰ったばかりのクロスを握って私は祈った。

 
 2年目。
 洞でお祈りをすると高確率で邪魔されるので、大樹の高いところに登るようになった。たまに大きな鳥が隣に止まるが、何かしてくる気配は無い。

 私は9歳に、サボとエースは8歳になった。気が付いたら、三人横並びで同じくらいだった身長が変わっていた。私の方が二人より大きくなっていたのだ。
 それについて理不尽なまでに二人から責められたが、私にはどうしようもない。主食は果物だけれど、やはり女の子のほうが早熟なんだろうなぁ。

 恒例行事にしようとしているのか、サボからは沢山の花を、エースからはお肉を食べてみようと――なんだかんだで、私は果実や穀物しか食べていなかった――大きな野牛を貰った。

 サボが心配そうに見守る中、焼いただけの牛肉をドキドキしながら口に運ぶ。美味しい!
 エースもサボも、嬉しそうにもっと食べろもっと食べろと分けてくれた。二人とも、口は悪いが面倒見が良いので、姉としては複雑な気分になる。
 結局貰ったお肉の10分の1も食べられず、残りは二人の胃袋に入ることになった。明らかに残った骨の量と、二人の身体の大きさが……私は考えるのを止めた。

 なーんだ、お肉も食べれるじゃん、と、思ったけれど、その日の夜には腹痛で苦しむことになった。肉食が原因ではない。食あたりだ。

 エースは私の弱さに最早呆れているようだった。本当に美味しいとは思ったのだけれど、野生の牛を焼いたもの、は、私にとってあまりに大味だったようです。

 3年目。
 結構な高さの枝にいるはずなのに、お祈りをしていると地上からエースがリンゴもどきを投げてくるようになった。
 一体何が彼をそうさせるのか。一度落ちかけたものの、近くにいた大鳥さんに助けられ事なきを得た。エースはサボにつねられていた。

 この年、初めてエースとサボの誕生日を知った。が、すでに日付の感覚のない私は今日が何月の何日か分からず、ついでにどうして二人に誕生日があると教えてくれなかったのかと激怒。
 一緒にいて、初めて怪我以外で怒った日かもしれない。
 サボとエースはたじたじと言い訳にもならない言い訳をした。

「いや、そもそも祝うとかしねーし……なァ?」 
「あァ、そんな重要か?それ」
「じゅ!う!よ!う! だよ!もー、今日って何月何日なんだろう。新聞とか、ないかな」

 二人は顔を見合せ、ポリポリと頬を掻いた。私が来た1年目と2年目の時には色々とプレゼントをくれていたのに、どうして自分の誕生日は別に、となるのだろう。

「おれらはいらねーけど、女は記念日とかプレゼントとか、喜ぶって聞いたからな」
「おう、強い男は女に優しくするもんなんだろ?」

 何処で知識を付けてきたのかはまるで分からないが、そういうことらしかった。
 エースとサボは私のために色々としてくれてるのに私は何も返せていないのがもどかしい。

 せめて誕生日ぐらいは……。今日が何日なのかは分からないけれど、私も野生化して(此処笑うところ)3年経つ。
 二人が居なくても自分のご飯は取れるようになったし、怪我の手当てもお陰様で上手くなった。

 昔は連れ戻されてしまったけれど、再度グレイターミナルで仕事が無いか探すことにした。
 すると運の良いことに、グレイターミナルにも治療院があった――治療”院”と呼ぶにはあまりにお粗末であったし、まともな薬もなさそうだったがーーので、そこで働けることになった。

「ドク、ありがとうございます!」
「あぁん!? ケケケ、修道服着たガキが働いてれば、患者がきっと増えるからな!俺はそれだけが望みよ! 精々お前はお人形に徹してな! 次はどの薬を試そうか……ケッケッケ」

 グレイターミナルで治療院を開く、奇特な老人はドクと名乗った。白いひげが何とも老人感を出しているのだが、若々しい闊達な雰囲気を持ったお医者様だ。ドクは何でも、ひたすら患者を治療したいのだとか。

 なんて良い人だろう。やはり、悪い人間ばかりではなく、シスター達と同じ善人も居るのだ。
 ドクは自分で調合した薬を患者に処方する優れた医者のようで、小さなボロ屋には患者がポツポツと訪れた。

「ドク! 患者様です! 腹痛の薬はこちらでしたっけ?」
「あぁん? それは腹痛をなくす代わりに発疹が”死ぬほど”出る薬だ」
「まぁ、ドク。発疹の解毒剤は無いのですか?」
「それならそっちの箱に俺用が……って何してんだお前は!!」

 怒鳴られて、キョトンとドクを見る。やはり、医者でもないのに薬を出してはいけなかったのだろうか。ドクの薬はどれも副作用があるようだし、キチンと聞いてから渡そうと思っていたのだけれど。

「お人形に!徹してろと!言っただろうが! 何真面目に患者を診てやがる!」
「えぇ……でもドク、私、お役に立ちたくて」
「お役にだぁ?」

 ドクは怪訝そうに私を見た。私は薬を片手に持ちつつ、クロスを出して祈るように地面に膝をついた。

「はい。 ドクのような、素晴らしい人のお力になりたいんです。 私、ドクに出会えたことを神に感謝しているのです」
「ぐっ……!! あ、あぶねェ。その手には乗らねェぞ!このあざとシスターもどきが!!」
「ところで至上の名医・ドク、腹痛の患者様にお渡しするお薬はこの二種類でよろしいですか?」
「ばっかやろう! 腹痛の原因にもよるだろが! 名医である俺に任せろ!!」

 ぷんぷんと擬音が付きそうな動きで、けれど上機嫌にドクは患者用のスペースへ向かって行った。
 あんなに親切に患者を診るなんて、やはりグレイターミナルにおいてドクは聖人と言っても過言ではないだろう。良い人すぎて少し心配にすらなる。

「おれらはお前の脳みそのが心配だけどな」

 迎えに来てくれたらしいエースの言葉に、サボとその他の人ーー多分通りすがりのグレイターミナルの住人ーーがうんうんと頷いた。

「どういう思惑があれ、結果として人を治療しているのだから、良い人には変わりないと思うのだけれど……」
「……か、確信犯だこいつ」
「サボ、ほっとけ。いいから帰るぞ」

 私はドクの乗せられやすさも心配しているのですよ。

 それから患者は徐々に増え、稀にガラの悪い人達が来ては拐われそうになったが、すぐにエースやサボが助けてくれた。何やらドクと、ピンクの狼煙が上がったら私が誘拐された、という符丁を決めているらしい。
 ……私、そんな頻繁に誘拐される予定なの?


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