17
ある日。
三人の弟たちがせっせと作った家で、私は横になっていた。
大きな木の枝の間に作られたログハウスは私たちがいつも待ち合わせにしていた大樹から程近くにある。いつからか三人は此処で寝泊まりするようになった。独立するんだとか。
恐ろしい速さで成長している大樹の洞に行くにはルフィが特に苦労するようになったので、今ではあそこを使うのは私だけになった。もちろんたまに、修行の一環だ、と言って彼らが来ることもあるのだけれど。
帰りの遅い三人を待つために、私は彼らの家で布山に埋もれている。
「……今日は皆、遅いな」
転がって呟く。窓ガラスなど当然無いので、風が室内を撫でていく。小鳥の鳴く声が小さく響いた。
「さぼはかえってこない」
「!」
慌てて耳を塞ぐ。
塞いだはずなのにむしろ鮮明になる音は、空気の泡のように私の内側から湧いては弾けた。
聞き洩らさない様にしなくては。私は努めて小さな声で”神様”に声をかけた。
「ほかのふたりは!」
「けがをした。 しなない」
「神様! 私の”健康”を捧げます。サボ、エース、ルフィに御加護を」
ずん、と身体が重くなる。”いつも”の比じゃない。
どれだけ酷いことが起こったのか。いや、起こるのか。
神様が私に話しかけるようになったのは、本当に突然だった。
私は不思議とソレを当然だと思ったし、アンテナと称されたこの背中の翼はこのためのものだとすぐに理解した。
私はあの白い部屋で知識を求めたのだ。現状を知る知識を。そのために何が必要だったかは分からないが、ある日突然アンテナは機能した。
神は気まぐれに、けれど確実に私が望む「今起きている」ことを教えてくれる。
焦る心を宥め、ゆっくりと呼吸を繰り返す。重い身体からは徐々に力が抜けていき、違和感のある熱が身体を襲った。
私に捧げられるものなんて、本当に少ない。神様に捧げるのは必ず自分自身じゃないといけないルールがあった。
普段からお祈りをした分だけ体力を持っていかれていたのだ。
だからこれだけ私は貧弱で、いつかのあの日、待ちきれなかった神様が私を無理やり白い部屋に呼び、二日も昏睡する羽目になったとか。恨む気持ちなど無いけれど、もう少しどうにかならなかったのか。
私はなんとか立ち上がり、ログハウスから落ちるようにして地面へ降り立った。
今日もあの三人はグレイターミナルへ行ったはずだ。端街にいるかもしれないけれど、彼らが怪我をしているのなら私はドクの元へ一度行かなくては。
足に力が入らない。ぐるぐると視界が回っている。耳鳴りがして、まともに立っていられず木に身体を寄り掛けた。
くそ!
聖職者にあるまじき言葉を胸中で吐き、私はその場に崩れ落ちる。
サボは帰らないと神は言った。
なら何処へ。まさか海賊に捕まってしまって、それを助けるためにエースとルフィが怪我をした?
知りたい。知りたい。彼らの今が。
「私の神様、髪の毛を、半分捧げます。どうしてサボは帰らないのですか。どうしてエースとルフィは怪我をしたのですか」
バサリと耳元で音がして、ベールの中が揺れる。手を差し込んでみると、半分と言ったのに三分の一程度しか短くなっていないことがわかった。
湿った土の匂いが鼻につく。私は泥がつくのも構わずその場で寝転んだまま耳を強く塞いだ。
「さぼは親のもとへ自ら行った。 えーすとるふぃは、海賊につかまりけがをした」
「親……!貴族の!どうして……。 神様、エースとルフィは今、どうしていますか」
「海賊のてつだいをしている 死なない」
それを聞いて、ひとまず命は助かりそうだと息を吐いた。
何がどうしてこうなっているのかが分からない。けれど今すぐどうこうなるわけでは無さそうだ。
神様が持っていった体力がいつもに比べて余りにも多いことだけが気掛かりだけれど、限界だ。
重い瞼と揺れる脳内の誘惑に逆らわず目を閉じれば、闇に溶けるようにして私の意識は薄れていった。
神のご加護を。
どうか、私から弟たちを取らないで。
神様……。
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三人の弟たちがせっせと作った家で、私は横になっていた。
大きな木の枝の間に作られたログハウスは私たちがいつも待ち合わせにしていた大樹から程近くにある。いつからか三人は此処で寝泊まりするようになった。独立するんだとか。
恐ろしい速さで成長している大樹の洞に行くにはルフィが特に苦労するようになったので、今ではあそこを使うのは私だけになった。もちろんたまに、修行の一環だ、と言って彼らが来ることもあるのだけれど。
帰りの遅い三人を待つために、私は彼らの家で布山に埋もれている。
「……今日は皆、遅いな」
転がって呟く。窓ガラスなど当然無いので、風が室内を撫でていく。小鳥の鳴く声が小さく響いた。
「さぼはかえってこない」
「!」
慌てて耳を塞ぐ。
塞いだはずなのにむしろ鮮明になる音は、空気の泡のように私の内側から湧いては弾けた。
聞き洩らさない様にしなくては。私は努めて小さな声で”神様”に声をかけた。
「ほかのふたりは!」
「けがをした。 しなない」
「神様! 私の”健康”を捧げます。サボ、エース、ルフィに御加護を」
ずん、と身体が重くなる。”いつも”の比じゃない。
どれだけ酷いことが起こったのか。いや、起こるのか。
神様が私に話しかけるようになったのは、本当に突然だった。
私は不思議とソレを当然だと思ったし、アンテナと称されたこの背中の翼はこのためのものだとすぐに理解した。
私はあの白い部屋で知識を求めたのだ。現状を知る知識を。そのために何が必要だったかは分からないが、ある日突然アンテナは機能した。
神は気まぐれに、けれど確実に私が望む「今起きている」ことを教えてくれる。
焦る心を宥め、ゆっくりと呼吸を繰り返す。重い身体からは徐々に力が抜けていき、違和感のある熱が身体を襲った。
私に捧げられるものなんて、本当に少ない。神様に捧げるのは必ず自分自身じゃないといけないルールがあった。
普段からお祈りをした分だけ体力を持っていかれていたのだ。
だからこれだけ私は貧弱で、いつかのあの日、待ちきれなかった神様が私を無理やり白い部屋に呼び、二日も昏睡する羽目になったとか。恨む気持ちなど無いけれど、もう少しどうにかならなかったのか。
私はなんとか立ち上がり、ログハウスから落ちるようにして地面へ降り立った。
今日もあの三人はグレイターミナルへ行ったはずだ。端街にいるかもしれないけれど、彼らが怪我をしているのなら私はドクの元へ一度行かなくては。
足に力が入らない。ぐるぐると視界が回っている。耳鳴りがして、まともに立っていられず木に身体を寄り掛けた。
くそ!
聖職者にあるまじき言葉を胸中で吐き、私はその場に崩れ落ちる。
サボは帰らないと神は言った。
なら何処へ。まさか海賊に捕まってしまって、それを助けるためにエースとルフィが怪我をした?
知りたい。知りたい。彼らの今が。
「私の神様、髪の毛を、半分捧げます。どうしてサボは帰らないのですか。どうしてエースとルフィは怪我をしたのですか」
バサリと耳元で音がして、ベールの中が揺れる。手を差し込んでみると、半分と言ったのに三分の一程度しか短くなっていないことがわかった。
湿った土の匂いが鼻につく。私は泥がつくのも構わずその場で寝転んだまま耳を強く塞いだ。
「さぼは親のもとへ自ら行った。 えーすとるふぃは、海賊につかまりけがをした」
「親……!貴族の!どうして……。 神様、エースとルフィは今、どうしていますか」
「海賊のてつだいをしている 死なない」
それを聞いて、ひとまず命は助かりそうだと息を吐いた。
何がどうしてこうなっているのかが分からない。けれど今すぐどうこうなるわけでは無さそうだ。
神様が持っていった体力がいつもに比べて余りにも多いことだけが気掛かりだけれど、限界だ。
重い瞼と揺れる脳内の誘惑に逆らわず目を閉じれば、闇に溶けるようにして私の意識は薄れていった。
神のご加護を。
どうか、私から弟たちを取らないで。
神様……。